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第6話
「入れよ」
「おじゃまします」
ワンルームマンションに連れてこられた薫は、おそるおそる部屋に上がった。三畳ほどの台所を通り過ぎ、奥の六畳間へと通される。
「適当に座ってろ。コーヒー淹れるから」
「あ、はい」
折り畳み式のちゃぶ台前に、なんとなく正座した薫は室内を見回した。
ベッドの掛布団は跳ね上げられ、脱ぎ捨てられた寝間着が団子になっている。ベランダには洗濯物が揺れていて、ガラス戸の横には脱ぎ捨てられたズボンとモーター誌が転がっていた。自分の家とは違う匂いが、薫の鼻先をくすぐる。
(久間さんの部屋の匂いか)
ふと浮かんだ言葉に、薫は赤くなった。
「おう、お待たせ」
薫の前にカフェオレが置かれる。
「って、なんで赤くなってんだ?」
「えっ? いえ、あの……た、タバコ! タバコは吸わないんですか」
「は?」
「ええっと、灰皿がないなぁって」
「ああ。壁紙にヤニがついたら、出る時になんか言われそうだからさ。ベランダで吸ってんだ」
「へ、へぇ」
ぎこちない笑みを浮かべた薫の横に、鷹也が座った。
「そんなにかしこまらなくていいぞ」
正座を指摘されて、薫はちょっと困った。「いや、でも」
「ほんっと、かわいいな。薫は」
「うぇ?!」
「なんつうかなぁ。そういう、打ち解けてんだか、堅苦しいんだか、わかんねぇところがさ。不器用っつうか、上に姉がいるってのに甘え下手っての? そんな感じがおもしれぇ」
(からかわれていたのか)
どう返事をしていいのかわからず、薫は視線をさまよわせて話題を変えた。
「あの、ボタンが取れそうな服って、どれですか」
「ああ、それな。ウソ」
「えっ」
「そんなもん、ねぇよ」
どういうことだろう。
問う目をすると、スマートフォンを操作した鷹也に画面を見せられた。
「これ、おまえだろ。KAO」
自分のブログを見せられて、薫は焦った。
「いや、それは、姉の……。そう、姉のブログなんです。俺の姉がやってて。だから……」
「ざっと読んだけど、おまえだろ」
うっ、と言葉に詰まった薫の前で、鷹也は文面を読み上げる。
「だらりくまをくれた人に、お礼の品を作りました! 鷹と二葉葵で、縁起がいい感じになったかな? よろこんでくれるといいんだけど……。渡しに行くのがドキドキです」
(うわ、わ……)
「顔、真っ赤だぞ?」
意地の悪い笑みで指摘され、薫はアワアワと唇をわななかせた。
ごまかさなければと思うのに、なんにも言葉が浮かばない。鷹也はニヤニヤしながら画面をスクロールしている。
「どう読み込んでも、おまえでなけりゃ、おかしい文面なんだよなぁ。ほら、こことか。ええっと、しかも目の前でさっそくスマホにつけてくれて――」
「わぁあああっ!」
恥ずかしすぎて、大声を出しながら鷹也のスマートフォンに手を伸ばす。腰をひねってヒョイッとよけた鷹也は、勝ち誇った顔で顎を突き出した。
「観念したかよ?」
「……」
顔面が大火事になった薫は、コクンと首を動かした。
「それを確認したくって、部屋に呼んだんだよ。外じゃあ、認めねぇかと思ってさ」
「……どうして」
「なんでブログのことを知ってるかって? ブログを見せらたからだよ」
誰に、と問いかけた薫の脳裏に、KAOのファンだと言っていたバイトの顔が浮かんだ。
「あのバイトの女の子に、ですか?」
「ほかに誰がいるってんだよ。このストラップをもらった次の日、あいつが見つけてギャアギャアさわぎだしてな。わけわかんねぇっつったら、とりあえずKAOのブログを読めって、アドレスを送ってきたんだよ」
そこで鷹也は、フフンと鼻を鳴らした。
「キーチェーンもらったとか、鷹のマスコットのこととかさ、すげぇリアルに書いてあってさ。そりゃあ高松が騒ぐのもしかたねぇなって。あ、高松って、あのバイトの名前な」
聞きながら、薫は体がちいさくなって消えてしまえばいいのにと思った。
「こんなブログを書いたら、この鷹を見た高松が騒がねぇはずねぇだろ。KAOのファンが俺の身近にいるってわかっていたのに、そんなことも思いつかなかったのかよ」
まったく考えもしなかった。
薫は肩をすくめて背中をまるめた。
「それとも……」
含みのある間を取って、鷹也が身を寄せてくる。
「間接的に俺に告白しようって魂胆だったのか?」
耳元でささやかれ、薫はのけぞった。
「こ、こく……告白って」
「どう読んだって、告白にしか感じられなかったぞ。高松もそう言ってたぜ? KAOはぜってぇ、俺のことが好きだってな。なんせ、鷹のマスコットは俺だけに持っていてほしいから、注文は受けつけません、なんてコメントに返信してるんだもんなぁ」
欲しいというコメントには、たしかにそう返事をした。まさかそこまで読まれているとは。
頭が爆発しそうになる。
ずいっと鷹也に迫られて、あとずさった薫は背面で手をついた。斜めになった薫の腹の上に、鷹也がまたがる。
「で?」
「え」
「告白ってことで、間違いねぇんだろ」
確信に満ちた声音に、薫はゴクリと喉を鳴らした。
「や、俺は、そんな……」
「そんなつもりはなかったって? でもなぁ、どう考えても、そうとしか受け取れねぇんだよ。ほかの記事もいろいろと読んだけどさ。このブログの中では、おまえ、すっげぇ生き生きしてるっつうか、素直っつうか、萎縮してねぇっての? そう感じたんだよな」
「うう……」
「だから、ここに書かれている気持ちは、正直なおまえの感情だって思ったんだけど」
違うのかと言外で問われて、薫は困った。
(どうしよう)
混乱しすぎて、なにも考えられない。
鷹也の手に両頬を包まれて、じっと見下ろされる。
「なあ、薫。俺が……好きか?」
笑みを消した鷹也の瞳に視線を捉えられ、薫は揺れる気持ちを映す目で見つめ返した。
「俺……」
急速に喉が渇いて、声がざらつく。
「久間さんのこと、すごく……かっこいいなって思ってて。だから、好きです。でも、その、なんていうか……好きが、どういう好きなのか、わからなくて」
言葉を紡ぐごとに、感情が涙に変わって瞳が潤む。どうして泣きそうになっているのか理解できないまま、薫は胸を喘がせた。
「じゃあ、どんな気持ちなのか確認してみようか」
「え……?」
鷹也の顔が近づいて、やわらかなものに唇が押しつぶされる。甘く唇をついばまれ、薫は緊張に強張った。丁寧に、形を探るように唇をたっぷりと味わわれ、薫の心臓は爆発しそうになる。
「……薫」
唇の隙間から漏れた鷹也の息に、腰骨がゾクゾクする。
「唇、ちょっと開いて」
抗いがたい誘惑に従った薫の口内に、そっと鷹也の舌が入り込んできた。
「んっ、ふ……」
歯と頬裏の間や舌の裏、上顎などをまさぐられる。肌の奥にじわじわと浮かんだ熱がざわめいて、薫はただ鷹也にされるがまま硬直していた。
「薫」
甘い蜜を舌に乗せられているみたいだ。粟立つ肌の興奮が、体の一点に集まっていく。
「ふ……んぅ、うっ」
丁寧に口内をなぞる鷹也の舌に、緊張を解けよとなだめられている気がした。それほど鷹也の舌はやさしく、あたたかかった。
腰をずらした鷹也の尻が、薫の硬くなった場所をかすめた。
「んぅっ」
ブルッと震えた薫に、鷹也がニヤリとする。
「薫」
吐息交じりにささやかれただけで、本能に忠実な部分が震えた。
「俺とのキスは、いいだろう?」
濡れた唇を呼気に撫でられ、薫はわずかな距離がさみしくなった。
「……俺、は」
「俺とのキスは、嫌いか?」
ごまかせないほど正直な部分に尻を押しつけられて、薫はうめいた。鷹也の手が薫の頬から首をすべり、広い胸板で止まる。
「わかんねぇなら、もうすこし試そうぜ。イヤになったら、いつでもそう言ってくれればいい」
「ふっ、んぅ」
耳裏を舌でなぞられ、脇腹を手のひらで撫で上げられる。平らな胸をさまよう指に、プクリと膨らんだちいさな突起を見つけられ、つままれた。指の腹でクルクルと撫でられて、体を支える腕から力が抜ける。下唇を噛んでこらえる薫の首筋に、鷹也の歯が軽く立てられた。
「あっ」
腕の力が抜けて、背中が床に落ちる。鷹也の手が薫のシャツをまくりあげ、胸元をあらわにされた。
(なんで……男同士なのに)
ものすごく恥ずかしい。それなのに期待している。
(なにを……?)
緊張よりも大きな期待とよろこびの予感が、鷹也に触れられるごとに大きくなっていく。
胸の上に顔を落とした鷹也に、唇で胸をまさぐられる。
「ふぁ、あ、んっ」
まずは右、そして左の胸先を唇で刺激され、薫の口から甘えた声が出た。
「敏感だな」
ハッとして両手で口を押えると、クックッと笑われる。
「いままで、誰かにされたことは?」
口を手のひらでおおったまま首を振ると、そっかと鷹也がうれしそうに目を細めた。キュンと薫の心がときめく。
(俺……)
こういう意味で、鷹也が好きなのだろうか。行為のすべてが気持ちよく、もっとしてほしいと望んでいる。ズボンの下では興奮がキリキリと膨らんで、自由にしてくれと叫んでいた。
「やめろって言わねぇと、どんどん先に進んじまうぞ」
「ううっ」
ニヤニヤされて、薫はうなった。両の乳首をつままれて、いじられながら腹筋を唇でなぞられる。
「んっ、んんっ、ふ」
「ガマンしてる顔、すっげぇクる」
腰に噛みつかれて、薫はブルッと大きく震えた。
「く、久間さん……ッ」
「ん?」
これ以上の愛撫は危険だ。凝り切った男の部分が耐えられなくなる。
(下着を汚してしまう)
けれど、もっと触れてほしい。羞恥と欲念に挟まれて、薫はモジモジした。
「どうした? 薫」
鷹也の首のすぐ下に、滾りきった熱がある。ズキズキと脈打つそこを開放し、飛び立つ心地を味わいたい。
「お、俺は……」
涙目で唇を震わせるも、この場をどうにかできる言葉が思いつけない。泣き声になった薫の腹を、鷹也がよしよしと言いながら叩いた。
「イヤじゃねぇんなら、続けるぞ」
「ふぁっ」
キュッと乳首をひねられて、薫は腰を突き出した。膨らんだ部分が鷹也の肌に擦れて、理性がパッと一瞬途切れる。そのまま擦りつけたい誘惑を必死にこらえ、薫は緊張に筋肉を膨らませた。
「なあ、薫。このまま続けていいのかよ」
体を伸ばした鷹也の顔が、薫の顔に影を落とす。
「このまま、乳首いじったり脇腹を噛んだり、上半身にキスしまくっててかまわねぇの?」
小首をかしげた鷹也は愛らしく、けれど雄の気配と劣情をみなぎらせていて、とてつもなくかっこよかった。キュウンと胸を絞られた薫の、素直な部分の先端がわずかに濡れる。
「っ、俺……」
こらえきれずにボロボロと涙をこぼすと、鷹也の唇が額に触れた。
「泣くほどイヤって言いてぇのか?」
やわらかくあたたかな声音に、薫はしゃくりあげながら言葉を絞り出した。
「っ、お、俺……こんな、で、でかいのに……ぜんぜん頼りなくて、なのに、久間さんはかわいいし、かっこいいし……」
自分でもなにが言いたいのか、きちんと把握できていないまま、思いついた言葉を吐き出す。
「俺、なんで……久間さんがキスとかしてくれるのか、ぜんぜんわかんなくって。久間さん、かっこいいのに……なんで俺……」
「俺にかまわれたくねぇの?」
ブンブンと首を振って、噛みつくように反論する。
「もっと、かまってほしいです! ブログに書いたの、正直な気持ちで……キスされて、なんかよくわかんないですけど、すっごい気持ちよくて、わけわかんなくて……俺、こんななのに」
かっこよくもかわいくもない上に、情けなく声を震わせ涙を流している。そんな自分に、どうして鷹也がキスをしてくれるのか。
両手で顔をおおった薫は、声を上げて泣きだした。
「なあ、薫」
ため息が手の甲にかかる。鷹也に愛想をつかされたのだと、薫は悲しくなった。
「そんな、泣くほど俺が好きかよ」
愉快そうに喉を震わせた鷹也の腰が、薫の腰に寄せられる。グリッと股間に硬いものを押しつけられて、薫の涙は驚きのあまりに引っ込んだ。
ニヤリと口の端を持ち上げた鷹也が、薫の顎をつつく。
「おまえに触れただけで、こんなに興奮してんだよ」
「……な、んで」
「決まってんだろ? 薫がめちゃくちゃかわいいからだよ」
「か、かわっ……」
わざとらしいくらいの落胆顔で、鷹也にもたれかかられる。
「何度もそう言ってたと思うんだがな」
たしかに、言われていた。けれどそれは、からかうための冗談だと認識していた。
「ブログを読んで、ウソついてまで部屋に連れ込んだ俺の気持ち、想像してみろよ」
(久間さんの、気持ち……?)
薫はしゃくり上げながら、じっと鷹也の顔を見た。
「書かれていることが本当か、家に連れ込んでまで確認して、そんでキスしてる俺の気持ちだよ。わかんねぇなら、相当ニブいよな。……ああでも、薫ならそういうこともありうるか。自信がねぇもんな、おまえ」
コクリとうなずいた薫の髪が、クシャクシャと撫でられる。
「なあ。前に言ったこと、覚えてるか? 文句なく納得できる相手に、そういうおまえだから好きなんだって言われなきゃ、意味ねぇって話」
グズッと鼻をすすりながら首肯する。
「俺がそれを言ったら、おまえは自信が持てるのか?」
「え」
「本気だっつってんだよ。でなきゃ、こんなことするかっつうの」
(それって……)
「久間さんが、俺を好きだってことですか? 本気で?!」
「でなきゃ、こんなことしねぇっての。それとも、なにか? 俺が軽薄なヤロウで、誰にでもキスするなんて思っていたのかよ」
首を振り、思っていないですとつぶやくと、そんならわかるだろと腰で腰を擦られた。
「薫をいじってるだけで、俺はこんなに興奮してる。――なあ、薫。俺にどうされたい? 気持ちが固まってねぇんなら、ここで止める。そうじゃねぇんなら言ってくれ」
自信に満ちた鷹也の瞳に、わずかな不安の揺らぎが見えて、薫はドキリとした。
(久間さんでも、不安になるんだ)
そのくらい好きでいてくれているのか。
「俺!」
上半身を持ち上げた薫は、必死の形相で気持ちを吐露した。
「久間さんが好きです! かわいいし、かっこいいなって。それで、また会いたいなって思って。だからマスコットを作って……もっと話をしたいとか思って。それで、それで俺、久間さんともっと……」
「もっと?」
「一緒にいたいなって……」
答えになっているだろうか。
語尾を弱めた薫は、顎を引いて憂色を示した。
「それは、俺とおなじ気持ちだって理解で、間違いないか?」
肯定とも否定ともつかぬ動きで、薫は頭を揺らした。
「わ、わからないです。……久間さんとおなじかどうか」
「なら、こういうことすんのは、イヤか?」
ふるふると首を振って、薫はゆでだこのように真っ赤になった。
「じゃあ、続きをしてもいいんだな」
うなずいた薫はよしよしと頭を撫でられ、恥ずかしさのあまり逃げたくなった。しかし上には鷹也が乗っている。ベッドとちゃぶ台の隙間にいるので、薫が逃げ出せば鷹也がどちらかに体をぶつけてしまう。
「ううっ」
うなった薫の股間に、鷹也の指がそっと置かれた。布越しに撫で上げられて、思わず声が出る。
「あっ、はぁ……」
「声、そうやって聞かせてくれ」
口をおおいかけた手を止めて、指を握ってガマンする。ファスナーをなぞるように刺激されて、薫の呼気は荒く乱れた。たっぷりと愛撫され、濡れた乳首がジンジンと甘くしびれて、触れられたい情動が湧き起こる。
「すげぇ硬くなってんな。もしかして、もう濡れてる?」
「ううっ、く、久間さん」
「はは。そんな顔すんなよ。もっと意地悪したくなるだろ」
かわいいなぁとつぶやかれ、薫は顔をクシャクシャにした。
「見てもいいか?」
ズボンのボタンが外されて、ファスナーが下ろされた。待ち望んでいたとばかりに、硬く怒張した部分が下着を押し上げ飛び出した。
「元気だな」
「はぅう」
先端を指ではじかれ、薫の腰がビクンと跳ねる。下着を剥かれて根元を握られたかと思うと、あたたかなものに先端を含まれて、薫はギョッとした。
「く、久間さ……んっ、ぁ、そんな……っ」
鷹也の唇から己の欲が見えている。視覚的な刺激に気持ちが爆発して、薫は腰を突き出した。
「ぁあっ」
「っ、ん……はぁ。イクのはやすぎだろ」
からかわれ、薫は「だって」とちいさな子どものように口ごもった。
「驚いたか?」
うなずくと、そうかそうかと鷹也が満足そうにする。
「されたの、はじめてか」
「……はい」
「ふうん? なあ、薫」
服を脱いだ鷹也のむき出しの熱が、絶頂を迎えた薫のそれをつついた。
「抱かれるのは、はじめてか」
それどころかキスでさえ未経験だった。金魚のように口をパクパクさせていると、わかりやすいなと鷹也が笑う。
「もし平気なら、俺のコレ、薫ん中に入れたいんだけど?」
「ふえ?!」
「やっぱ無理ってなったら、ちゃんと止める。だから、試していいか?」
ドキドキしながら、薫は鷹也の下半身に目を向けた。下生えから、たくましいものが薫に向かってそそり立っている。ゴクリと喉を鳴らして、薫はぎこちなくうなずいた。
にっこりとした鷹也がチェストからチューブを取り出し戻ってくる。
「男は自然に濡れねぇから。悪いけどさ、ちょっとベッドに上がってくんねぇ?」
のろのろと従った薫の額に、サンキュと鷹也のキスが落ちる。太ももを広げられ、片方をグイと押し上げられて尻が浮いた。
「どこに俺が入りたがってんのか、わかるよな」
わかっていると示すため、羞恥と緊張で爆発しそうになりつつも、薫はうなずき自ら脚を開いて腰を浮かせた。
(いやいやじゃないって伝えたい)
驚いた鷹也が「ありがとな」と目元をとろかせる。
「慣れるまで辛いだろうけど、ガマンしてくれよ」
そう言った鷹也は指にチューブの中身を乗せると、薫の秘孔の口をくすぐった。
「んっ、ん」
「力、なるべく抜いてくれ」
(そう言われても)
そんな場所に触れられていながら、リラックスするなんてできやしない。
「まあ、そう簡単にできたら、苦労しねぇけどな」
秘孔の口を潤した鷹也に、チューブの口を押し込まれたかと思うと、中身をすべて注がれた。
「んぅうっ、あ、あ」
「痛くしたくねぇんだ。だから、ガマンしてくれ」
指が押し込まれ、内壁をくすぐられる。未知の感覚に恐怖と悪寒が引き出され、薫はブルブル震えた。
「ふっ、ぅう、ぁ、あ」
「薫、薫」
名を呼ばれ、内部を刺激されながら陰茎を扱かれる。気持ちがよくて、けれど吐き気に似たものが湧き上がって、薫は混乱した。
「は、ぁあ、久間さ……ぁ、ああ」
「そうだ。そうやって息を吐いてろ」
「ひぁあっ」
しばらくすると吐き気と悪寒が消えて、不思議なうずきを覚えた薫は、鷹也の指にすがりつく己の秘孔に気がついた。
「はっ、ぁ、ああ、あ」
「いい具合になってきたんだな」
「ううっ」
「もうちょっと、ほぐしたら……な、薫」
「んんっ」
グゥンと大きく広げられ、薫は背中をまるめた。扱かれる陰茎の先からは、歓喜の蜜がトロトロとあふれている。
(俺、感じてる)
体中が淫靡なうずきに包まれている。自覚した瞬間、それはさらなる刺激となって、薫を乱した。
「ああっ、は、ぁああ、あっ、ふぁあ」
恥ずかしくて、けれど抑えきれなくて、薫は淫らな声を上げて身をよじった。
「ああ、薫。もうすこしだ……もうすこしで」
なにが「もうすこし」なのか、秘孔の変化に気づいた薫はなんとなく察した。
(もうすぐ俺の中に、久間さんが……)
そう思った瞬間、収縮した媚肉が鷹也の指にすがりついた。
「っ、あ」
「薫」
熱くかすれた鷹也の息に、クラクラとめまいを覚えて達しそうになる。
「んっ、久間さんっ、俺、また」
「何度でもイケよ」
「でも……」
「いいから」
グッと内壁の一点を刺激され、薫の目の奥で火花が散った。
「っ、はぁああ」
白く弾けた薫の中から、指が抜かれる。余韻に全身がゆるんだところで、太く熱いものに貫かれた。
「っ、が、ぁはぁううっ」
「……っ、薫」
「く、まさ……ぁ、あ」
ず、ず、と押し込まれるそれが、鷹也であると知った薫は、圧迫されて詰まる息を抜こうと、必死に喉をそらした。
「は、ぁあ、あっ、は、ぁうう」
「苦しいか?」
「んっ、へ、いき……です」
ちっとも平気ではないけれど、正直に答えれば終わりになりそうで、薫は強がって笑おうとした。
「薫……」
息を呑んだ鷹也がほほえむ。
「サンキュ」
「んっ」
喉仏を吸われて、胸の先をつままれる。クリクリとこねられると、そこで生まれた快感が内壁に走った。
「はふ、ぅ、うう……んっ」
「ああ、薫」
苦しげな鷹也の息に、どれほど彼がガマンをしているのかを察して、薫は体を揺すった。
「久間さん……っ、あ」
「そんなに誘惑すんなよ。まだキツいだろ?」
「んっ、でも」
「ほんと、かわいいなぁ」
とろけた鷹也の声が、薫の心に沁み渡る。
「俺……久間さん、俺……」
「ん?」
「ほんとに俺で、いいんですか?」
「俺で、じゃなくて、俺が、だろ? ったく。謙虚すぎるのも問題だぞ、薫。俺は、おまえが、いいんだよ」
一言一句、はっきりと言い聞かせるように発音されて、薫はうれし涙を浮かべた。
「久間さぁん」
「泣き虫だなぁ、薫は」
「だって……すごい、うれしくて」
「そっか」
「はい」
内部の圧迫からくる息苦しさも、鷹也に与えられたものだと思うと愛おしくてたまらない。
「だから、久間さん……もっと、俺に久間さんの気持ち、ください」
「俺が好きか?」
「はい」
「俺も、薫が好きだ」
「久間さ……ああっ!」
グゥンと深く突き上げられて、薫は仰け反り叫びを上げた。勇躍する鷹也に支配されるよろこびに包まれた薫は、官能の苦痛に顔をゆがめる彼にしがみつく。
「はぁあっ、あっ、久間さ、ぁあっ、は、ぁううっ」
「んっ、薫、薫」
首を伸ばして唇をむさぼり、荒い息を絡めながら体を揺らす。自分の内側で鷹也がさらに興奮していくのを感じて、薫は胸がいっぱいになった。
「ああっ、久間さん、久間さん」
「薫……っ、く、ぅ」
ズクンと深く奥を突かれて、熱い奔流を注がれる。短くうなってビクビク震える鷹也の熱を飲みながら、薫も三度目の開放を迎えた。
「っは、あぁああ――ッ!」
小刻みに震えながら、残滓までをも吐き出し終えた薫は、ぐったりとベッドに体を沈めた。その上に力を抜いた鷹也がかぶさる。
「は、ぁ……」
汗ばんだ肌から立ち上る鷹也の香りに、薫は幸福を味わった。
(ああ、俺……)
心身ともに鷹也に抱きしめられ、求められたのだと実感が湧いてくる。心の奥がクスクス震えて、薫は酩酊に似た恍惚に意識をゆだねた。
「よ……っ、ふぅ」
「んぁ」
体をずらした鷹也が、薫の内側から離れる。なんとなくさみしくて顔を上げると、鼻先に噛みつかれた。
「あのまんま、繋がってたら第二ラウンドに突入したくなるからさ」
「だっ、第二……」
「はじめてで、それはさすがにキツイだろ」
「えっと、たぶん」
圧迫が抜けた箇所がヒクヒク動いて、消失を訴える。けれどまだ、なにかが挟まっている感覚もあった。
「なんだよ、その返事は。そんな顔するんなら、またヤるぞ?」
「えっ、ぁん」
唇をふさがれて、息苦しくなるほどたっぷりとキスを与えられる。
「んっ、ふ」
「ったく、エロい顔するなぁ」
(エロい顔って、どんな顔だろう)
キスのせいでボウッとなった頭で考えていると、抱きしめられた。
「はぁ。俺の勘違いでも、はやとちりでもなくて安心した」
腰を重ねていると、背の低い鷹也の頭は薫の胸に乗る形になる。心臓のあたりに耳を置かれて、薫はそっと鷹也の髪に触れてみた。日向ぼっこをする猫のように、鷹也がうっとり目を閉じる。
(こうしていると、すごくかわいいのに)
目を開けて動き、しゃべっているとかっこいい。そんな鷹也みたいになりたいと、薫は彼の髪を指でもてあそびながら、考えるともなしに思っていた。
しばらくそうしてまどろんでいると、事後の気だるさが眠気を運んできた。大きなあくびをした薫は目を閉じて、鷹也の重みとぬくもりを胸に感じながら、至福を味わい眠りについた。
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