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滲んだ紫
「わかん、ない」
「嘘。…いい加減、認めろよ。」
……そうだよ、
本当は分かってる。
俺はずっと、この感情の起結から逃げ続けているだけなんだ。
口元に定めた視線が、見慣れた生徒会室の書類の山に彷徨う。そのいく層にも重なった紙は、素直になれず、蓄積されていった俺の心の堆積のよう。
近すぎる距離に感じるのは嫌悪感じゃなく、本音を吐き出せずに彷徨う、息苦しさだった。
「頼む、言って、」
「……陽嗣、俺はお前との関係が…変わってしまうのが………こわい、」
周りからの目なんて、それほど気にならない。
だけど、恋愛に“別れ”はつきものだ。
いつか、終わってしまう未来があるのなら、俺は最初から“それ”を手にしたくはない。
友情が永遠なら……葉嗣の“親友”として、隣にいられるなら、それでよかったのに…
縋るように掴んだ陽嗣のワイシャツを、震える指先で握りしめる。
なんだこれ、
何で俺の手、震えてんの。
肌に触れる吐息は生々しく、下げた先の視線は、男らしい喉元にとどまった。
震える俺の指先を包み込んだ手の感触。冷たいのに熱くて、痛いほどひりつく。
「それ、もう手遅れなやつなんだわ」
ふっと漏れたような微笑。そこに滲んだ満悦さ。
「ぜんぶ、お前のせいだ……っんぅ、」
投げやりに責め立てた言葉は、抱き寄せられた葉嗣の胸板に堰き止められてしまった。
ドクドクと早鐘を打つ鼓動が体に響く。
これって俺の……いや、葉嗣の…か?
「うん。全部俺のせいにしてくれていいから……好きだって、言ってよ。」
耳元で囁かれる、絆すように甘い掠れた低音。心なしか、言葉尻が揺れた気がしたのは、気のせいだろうか。
「渚、俺はお前が好きだよ。」
中耳をくすぐる息遣いに、ビリリと背筋が震える。
「…………葉嗣、」
「ん?」
「いつか別れるくらいなら、俺はお前とこの先には進みたくない…っ、」
「ふはっ、なんだそれ。渚、お前想像以上に拗らせてんのな。」
喉を鳴らして、猫のように擦り寄ってきたかと思えば、ちゅくっと音を立てて耳を舐めてくる。体をかけ巡った刺激に眩暈がした。
「っ、やめ…ろ!」
「わり、渚がかわいくて、つい。」
なおもクツクツと笑いを漏らす葉嗣に、湧いてくる羞恥と苛立ち。
「笑うな…!俺は真面目に、」
そう言って、ドンっと葉嗣の肩を叩けば
「ばーか。俺は終わる未来なんて、はなから想像すらしてねえんだよ。」
と手首を掴まれる。
見上げた視線の先、俺を見下げる葉嗣の目は優しく細められ、言葉に出来ない愛おしさを感じた。
「っ、離せ…!」
「ぜってえ離さねえ。」
「————好きだから、離せよっ!」
「あほか。そんなんもっと離せるわけねえだろ、」
再び重なった2つのシルエット。光りの差さなくなった、静かすぎる生徒会室。そこに溶けた、熱を孕んだ吐息を交わしあう音。
品行方正であるべき俺たちの、乱れてしまった秩序を正すことは、もう出来そうに無い。
「愛だの恋だの言う前に、俺はお前だけが欲しいよ。
なあ、渚————…」
窒息していまいそうなほど、息苦しい感情。
色濃く滲んだ紫に、あとは落ちるだけ。
そんなの、
……俺もだ、ばかやろう。
満ちた紅、滲んだ紫。
END.
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