2 / 2

滲んだ紫

「わかん、ない」 「嘘。…いい加減、認めろよ。」 ……そうだよ、 本当は分かってる。 俺はずっと、この感情の起結から逃げ続けているだけなんだ。 口元に定めた視線が、見慣れた生徒会室の書類の山に彷徨う。そのいく層にも重なった紙は、素直になれず、蓄積されていった俺の心の堆積のよう。 近すぎる距離に感じるのは嫌悪感じゃなく、本音を吐き出せずに彷徨う、息苦しさだった。 「頼む、言って、」 「……陽嗣、俺はお前との関係が…変わってしまうのが………こわい、」 周りからの目なんて、それほど気にならない。 だけど、恋愛に“別れ”はつきものだ。 いつか、終わってしまう未来があるのなら、俺は最初から“それ”を手にしたくはない。 友情が永遠なら……葉嗣の“親友”として、隣にいられるなら、それでよかったのに… 縋るように掴んだ陽嗣のワイシャツを、震える指先で握りしめる。 なんだこれ、 何で俺の手、震えてんの。 肌に触れる吐息は生々しく、下げた先の視線は、男らしい喉元にとどまった。 震える俺の指先を包み込んだ手の感触。冷たいのに熱くて、痛いほどひりつく。 「それ、もう手遅れなやつなんだわ」 ふっと漏れたような微笑。そこに滲んだ満悦さ。 「ぜんぶ、お前のせいだ……っんぅ、」 投げやりに責め立てた言葉は、抱き寄せられた葉嗣の胸板に堰き止められてしまった。 ドクドクと早鐘を打つ鼓動が体に響く。 これって俺の……いや、葉嗣の…か? 「うん。全部俺のせいにしてくれていいから……好きだって、言ってよ。」 耳元で囁かれる、絆すように甘い掠れた低音。心なしか、言葉尻が揺れた気がしたのは、気のせいだろうか。 「渚、俺はお前が好きだよ。」 中耳をくすぐる息遣いに、ビリリと背筋が震える。 「…………葉嗣、」 「ん?」 「いつか別れるくらいなら、俺はお前とこの先には進みたくない…っ、」 「ふはっ、なんだそれ。渚、お前想像以上に拗らせてんのな。」 喉を鳴らして、猫のように擦り寄ってきたかと思えば、ちゅくっと音を立てて耳を舐めてくる。体をかけ巡った刺激に眩暈がした。 「っ、やめ…ろ!」 「わり、渚がかわいくて、つい。」 なおもクツクツと笑いを漏らす葉嗣に、湧いてくる羞恥と苛立ち。 「笑うな…!俺は真面目に、」 そう言って、ドンっと葉嗣の肩を叩けば 「ばーか。俺は終わる未来なんて、はなから想像すらしてねえんだよ。」 と手首を掴まれる。 見上げた視線の先、俺を見下げる葉嗣の目は優しく細められ、言葉に出来ない愛おしさを感じた。 「っ、離せ…!」 「ぜってえ離さねえ。」 「————好きだから、離せよっ!」 「あほか。そんなんもっと離せるわけねえだろ、」 再び重なった2つのシルエット。光りの差さなくなった、静かすぎる生徒会室。そこに溶けた、熱を孕んだ吐息を交わしあう音。 品行方正であるべき俺たちの、乱れてしまった秩序を正すことは、もう出来そうに無い。 「愛だの恋だの言う前に、俺はお前だけが欲しいよ。 なあ、渚————…」 窒息していまいそうなほど、息苦しい感情。 色濃く滲んだ紫に、あとは落ちるだけ。 そんなの、 ……俺もだ、ばかやろう。 満ちた紅、滲んだ紫。 END.

ともだちにシェアしよう!