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第17話
送り火が見られる河川敷にまで来ると、近くにある地下鉄の駅と直結している駐輪場にバイクを停めた。
「京都にも地下鉄があるんだ…なんかさ、京都って地面の下は遺跡だらけのイメージがあるからさ」
「まぁな。昔、おばあちゃんの実家が古なって作り替えしてたらな、なんや土器みたいなんが出てきたらしいわ。それでどっかに届け出して工事は中止や。調査に時間がかかって大変やったって。掘らな分からんて博打や、ってな、おじいちゃんが言うとったわ」
「歴史のある街は大変だ…」
「まぁ、京都は言うても東西に二本走ってるだけやけどな。この地下鉄に乗ったら京都駅まで行けんぞ。解りやすうてええやろ」
俺は思い出してクスッと笑った。
東京で初めて会った時、健吾は東京駅に行くのにまったく見当違いの地下鉄の駅へ行こうとしていた。
「お前…何か思い出してるやろ」
「…別に」
健吾は、嘘つけ、と言うと俺をヘッドロックした。ヘッドロックした腕を緩めて、俺たちは肩を組んで歩いた。健吾は、本当に俺がドキドキすることを平然としてしまう。
加茂街道まで行くと、警察が既に車両の通行止めをしていた。賀茂川に架かっている橋の近くのスロープを下りていくと、広い河川敷は人でいっぱいだった。
「真っ暗で何も見えへんけど、あっちの方向に見えるからな」
「うん。もうすぐだよね」
もうすぐ、火が点火される。俺の気持ちにも火を点けてみようか…
俺は隣で立っている健吾の手を握った。
「ねぇ。大の字がはっきりと見えるまで、手を繋いでても…いい?」
健吾は、少し驚いたようだったが、ええよ、って俺の手を握ってくれた。
しばらくすると、健吾が、あっちの方向といった所に、小さな明かりの点が一つ見えた。周りの人からも、静かな歓声が上がった。そして、その点は二つ三つと数を増やしていった。
その火の点は炎となって繋がり、大の文字に見え始めてきた。
「なぁ、綺麗やろ。お前に見せたかったんや」
また、そんなことを言うんだから。
「ありがとう、健吾。本当に、見られてよかったよ…本当に…本当に、ありがとう」
「どないしてん…本当、連発して」
俺は健吾の手を、ぎゅっと握った。
「俺ね、健吾が好きなんだ」
俺は繋いでいた手を解いた。
健吾は俺のマジな告白に、少し驚いたようだった。暗くて表情は見えないけど、繋いでいた手から力が抜けていったのを感じた。
しばらくの沈黙。それと反比例して周りの歓声は高まっていく。
「唯斗…俺もお前のこと好きや。一緒におったら、オモロイしな……でもな、お前の好きと俺の好きは、ちょっとちゃうんや…俺は、その、お前のちんこ見たいとか触りたいとか思われへんっていうか…ごめんやけど」
「うん。分かってるよ…困らせるつもりはないからさ…でも、最後に俺の気持ちを伝えたかっただけなんだ…ごめんな」
「…唯斗」
「じゃあ、俺、新幹線の時間があるから、ここから地下鉄で帰るね。ありがとう、楽しかったよ、健吾」
俺は、走った。
走らないと泣けてきそうだったから。
まさか、ちんこの話が出るとは思わなかったけど、それも、健吾らしい。
俺は、ジーンズの上から触ったもんね。
やばい…前がぼやける。
京都駅から新幹線に乗り込んだ。
乗車の予約をしたのがギリギリだったから、三人席の通路側だった。窓際に座りたかったんだけどな。
隣席の女性二人は、楽しそうにおしゃべりをしている。旅行帰りのようだ。
「ねぇねぇ。今日、大文字焼きだったんだ…ほら、ネットに上がってる」
「本当…一度は生で見たいよね」
「じゃあ、来年は京都にいく?」
「いいね。約束よ」
俺は、笑った。
大文字焼きじゃなくて五山の送り火ですよって言いたくなった。
もう、ご先祖様は荘厳な炎に送られて、あちらの世界に着いただろうか。
そして、俺の想いも…
健吾…ありがとうね。
終わり
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