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第2話

子供の頃、本当にガキだった。同性を好きだと自覚してから、自分を異常だと思った。父の単身赴任でシオと離れることが決まった、でも最後の思い出が欲しくてキスをした。ガチガチだったから感触なんて覚えてない、なのに一丁前に独占欲があって、他のやつにはしないでくれと呪詛を込めた。 シオがマーケットの店員と身振り手振りで話している姿を見て、ふと昔を思い出した。あの頃のシオは、自分の意見を口にするのが苦手で、いつも俺の後ろを歩いていた。だが今は違う。堂々と店の前に立ち、決して流暢とは言えないが真っ赤なトマトを指さして交渉している。引っ込み思案のあいつが、今、俺の隣でこんなにも逞しく笑っている。そのことが、俺にとって何よりも誇らしかった。 俺はといえばJリーグで5年経った日、視察に来たイギリスの中堅チームにスカウトされた。まだレギュラーは安定していないが、充実した環境整備にこれからだと息巻いている。 “先に行ってる。待ってる” そのメッセージを最後にシオからの連絡が途絶えた。シオのwebサイトは連絡が途絶えた日から更新がない。でも俺はこれが準備期間だと思う。今、本腰を入れて賞を狙う気だと、なぜかシオが沸々と燃えてるのをこんなに離れていても感じる。 3ヶ月後、シオから連絡があった。 “待ってろよ” あのうさもちが大賞を獲った。俺はシオの絵が好きだから、いつかは獲るだろうと思っていた。疑いはなかった、でも何故か涙が溢れた。 シオとイギリスで再会した日、あの日は少し肌寒くて大人の顔になった、シオがいた。肩まである黒髪にノンフレームの眼鏡、切れ長の目やすっと通った鼻筋、細い筆で書いた眉、薄い唇。シオを形成してる全てが愛おしかった。   同棲生活がスタートした。シオは俺がメンタルが落ちてる時は、あまりそばに寄らない。回復するまで待ってくれる。料理もバランスの良い食事を作ってくれる、自分の仕事もあるだろうに、俺を優先してくれる。 「ユラ、がんばれ!もうすぐ坂の上だ」   あの坂の下で、後ろを押してくれたように今も支えてくれている。

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