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第1話

「出張?」 「うん」 「今日ってエイプリルフールだっけ?」 「違うよ」 夕食後のリビング。 ソファに座ったカイの膝を枕に、スマホでゲームをしていた俺に、カイが明後日から出張に行くと告げた。 国内だけど、予定を聞く限り忙しそうだから、俺は付いて行かない方が良さそうだ。 「学校もあるし、俺は留守番してるね」 「・・・・・・・・・」 「なにか不満?」 「一緒に行こう?」 「いや、学校あるし、留守番するよ?」 「・・・・・・・・・」 「・・・待って、今なんか後ろに持ってなかった?それ首輪?やだよ鎖で繋がれんのは」 俺の旦那である変態束縛スパダリオオカミは、出張に嫁を同伴したいらしい。 しかし、鎖で引っ張られるのはごめん(こうむ)りたい嫁としては、打開策を探さなければならなくて。 「シグマも連れてくの?」 「うん」 「そっか・・・ちょっと電話で相談するから・・・って首輪を着けようとするなっ!待て!カイ、待て!」 「俺はハイイロオオカミの獣人なので待ては出来ません」 「イヌより賢い子でしょ?それに出張は明後日からじゃん、今から首輪する必要ないじゃんっ」 カイの膝上でごろごろと、首輪を嵌めようとするオオカミの手から逃げる。 カイは、俺がじたばたしてんのが面白いからやってるみたいで、本気で首輪を嵌めようとはしてないみたい。 首とか頭とか撫でてるだけだ。 ・・・今のところ。 「玲央(れお)、今電話していい?」 『ああ、いいぞ。どした?』 「明後日から2泊3日、カイが出張に行くんだけど、りっくんとうち来てくれない?出来ればローに学校の送り迎えもしてもらいたいんだけど・・・」 『成程。ちょっと待ってろ』 りっくんに相談しに行ってくれたのかな。 少し待つと、玲央から『おっけーだって。明日の夜から行く』と快諾してもらえた。 お礼を言って電話を切る。 「明日の夜から、玲央とりっくんとローが来てくれる事になりました」 「そう」 「学校行っていい?」 「・・・・・・・・・」 「な、なにかまだご不満ですか?」 「心配なんだ。リシドと玲央くん(ペットシッター)が来てくれたとしても、俺のネコちゃんは俺に会えなくて具合悪くなっちゃうかもしれないから」 ・・・そうだった。 俺、大丈夫かな。 いや、大丈夫だ、きっと。 だってスマホは手元にあるんだし、連絡取ろうと思えば取れる状況だし。 あの時はスマホもなくて、カイが俺に会えないの平気そうな態度とったからで・・・。 「ペットシッターってなんだよ、俺はペットじゃないからな。それに、今回は大丈夫。2泊3日って前もってわかってるし、スマホあるし」 「本当に?」 「・・・不安を煽るなよ。電話したらちゃんと出てよ?」 「それはもちろん。会議中でも璃都(りと)からの着信は最優先だから」 「いや、会議終わってからかけ直してくれればいいんだけど・・・」 俺の体調面に不安はほんのり残るものの、りっくんたち来てくれる事になったし、スマホもあるし、きっと大丈夫。 ─────── 「大丈夫じゃ」 「なかったな」 「・・・・・・ひっ・・・ぅ・・・っ」 カイが出張に行って2日目の夜。 1階のダイニングでりっくんが作ってくれた夕飯を食べようとして、急に震えが止まらなくなってしまった。 「・・・ご・・・ごめ・・・っ」 「ちょりとは悪くないって。カイザルに身体作り変えられちゃったんだからー」 「症状は震えと涙か。シド、どうする?カイザルさんに連絡する?」 いや、連絡なんて・・・明日には帰ってくるんだし。 平気・・・このままご飯食べないで、風呂入って寝ちゃえば・・・。 「・・・ぃい、も・・・っ・・・ふろ・・・ねる・・・」 「いやいや、それで風呂入ったら倒れかねないだろ。やめとけ」 「ちょっとカイザルに電話する。どーにか帰って来れないか聞いてみるよ」 「だ・・・っ・・・だめ・・・」 「あ、カイザル?明日の予定って・・・」 ああ、りっくん電話しちゃった・・・。 やめてよ、留守番もできないやつって思われる・・・。 「・・・うん、そう。お前と電話で話した後、ご飯食べさせようとしたら震え止まんなくなって、泣き出しちゃった」 「いっ、言わないで・・・っ!」 「おー、気を付けてなー」 俺の言い分はまるっと無視したまま、りっくんが電話を切った。 気を付けてな・・・って、まさか、カイ帰ってくるの? 「り、りっく・・・」 「明日の予定はキャンセル出来るから、今からすぐ帰ってくるってさ。日付変わる前には帰って来られるんじゃないかな」 「・・・な・・・んで・・・っ・・・」 「なんでじゃねえだろ。カイザルさん、お前が心配だから帰って来てくれんだよ。ほんと甘えベタだな」 「・・・ふ・・・っぅ・・・ぅえ・・・っ」 「あーもー、玲央ってばちょりと泣かせないでよー」 とりあえず、りっくんと玲央には食事しといてもらって、俺はテラスに出て自分を落ち着ける事にした。 「おい、外寒いんだから上着てけよ?」 「・・・ゎ、かった・・・」 玲央に言われて、2階に上着を取りに行く。 2階はカイに入るなって言われてるから、階段の下でりっくんが待っててくれた。 寝室に入り、ウォークインクローゼットに自分のモッズコートを取りに行こうとして、ベッドの上のコートが目に留まる。 カイのコートだ。 ・・・何やってんだ、俺。 自分のコートでいいじゃんって思うのに、手は勝手にカイのコートを取って着てしまった。 「ちょりと、階段気を付けて・・・って、それ・・・」 「かっ・・・カイに・・・言わな・・・」 「言わないよ。ほんとにテラス出るの?」 「ぅん・・・っ・・・ふたり、は・・・ごはん・・・っ」 「うん、食べてるよー」 はあ・・・りっくんと玲央にまた迷惑かけた・・・俺ほんとなにやってんだよ。 カイも、出張行って忙しかったはずなのに、この時間から帰って来なきゃいけなくなったし。 最悪だ・・・もう・・・。 ガーデンカウチに座り、ぎゅって小さくなる。 ふわりと、カイの匂いがして、少し落ち着く気がした。 「・・・えっ・・・でんわ・・・?」 スマホに着信。 画面にはダーリンの表示。 『璃都』 さっきも電話したのに。 その時は大丈夫だったのに。 「・・・っ・・・ひっく・・・ぅゔ・・・っ」 落ち着いてきてた涙がぶわっと戻ってくる。 こんな子どもみたいに泣くなんて。 『ごめんねネコちゃん、今帰ってるから。ちゃんと息して?』 「ご・・・め・・・っ、がま・・・でき、なか・・・っ」 『うん、いいよ。璃都は俺の事が大好きだもんね』 「んぅ・・・っ・・・かいぃ・・・っ」 『璃都、愛してるよ。ねえ、もしかして外にいる?寒いから部屋にいて?』 ぐすぐすと泣きながら、言われた通り部屋に入る。 ダイニングではまだ、2人が食事中だ。 レセプションルーム(隣の部屋)にいよう・・・。 「ちょりと、ここ座ってろ」 「・・・あっち、いってる」 『璃都、玲央くんたちといて?』 「・・・ゎか・・・た、れおんとこ・・・いる・・・」 カイに言われ、大人しく玲央の隣に座る。 ・・・いい匂い。 「シチュー、ちょっとだけでも食べる?」 『璃都、食べて』 「・・・たべ、る」 りっくんがシチューよそってくれて、玲央は俺の手からスマホ取ってスピーカーにしてテーブルに置く。 ・・・お義従兄(にい)ちゃんたちがいてくれて、本当に良かった・・・。 『璃都、食べてる?』 「ちゃんと食べてるよー。ちょっとずつ」 「まだめそめそしてるけど」 「・・・ん・・・ぃしい」 「美味しい?良かったー」 ゆっくり食べてから、3人でレセプションルームに移る。 カイは車で移動中、ずっと電話繋ぎっぱなしにしてくれて、俺もやっと普通に喋れるようになってきた。 「やあっと泣き止んだな」 「・・・うん・・・ごめん」 「謝んなくていーよ。カイザルなしじゃ生きられない身体にされちゃっただけだし」 『ふふ。俺のネコちゃんは俺が大好きなんだ』 いつもなら言い返すのに、この通話が切れたらと思うと、俺は言い返す事が出来なかった。

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