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第2話
23時半、カイが帰宅。
「お帰りカイザル」
「お疲れさまです」
「2人ともありがとう。うちのネコちゃんが世話をかけたな。璃都 、頑張ったね」
「・・・っ・・・ぅぇ・・・っ・・・ひ・・・っ」
玄関ホールで、カイが入って来た瞬間に泣きながら飛び付いた。
スーツが皺になるのも構わず、ぎゅうぎゅうしがみ付く。
「次に出張あったら連れてってやれよ?」
「今回も連れて行こうとしたんだけど、留守番するって言って玲央 くんに電話しちゃったんだ。まあこの様子なら、次は付いて来てくれると思う」
「甘えベタめ。素直に付いて行けばよかったものを」
「・・・ご・・・っ・・・ぇん、なさ・・・っ」
カイが俺を抱き上げ、レセプションルームへ。
カイとりっくん、玲央は話しながら酒を飲み始める。
明日は土曜だから、このまま飲み会するみたい。
「璃都、コート暑くない?脱ぐ?」
「・・・ぅん」
ソファに座ったカイの膝上で、コートを脱がせてもらいながら気付いた。
そうだ、俺、カイのコート着てたんだった・・・。
「あ、コートの事言わないでって言われてたんだった」
「ああ、俺の着てる事?璃都は恥ずかしがり屋だからな」
「着たまま自分でバラすとか、ほんとちょりとはちょりとだよな」
「ぅゔ・・・うるさい・・・っ」
カイもスーツのジャケットとネクタイを脱ぎ、シャツのボタンを外す。
俺はりっくんにグラスを渡され、白ブドウジュースをごくごくと飲んだ。
泣き過ぎて喉渇いた・・・。
「明日の予定は大丈夫だったのか?」
「ああ、ただの食事会だし、番が分離不安を起こしてると言ったら急いで帰るよう言ってくれたよ。先方の奥さん、ポメラニアンの獣人らしい」
分離不安て・・・。
でも、ちょっと症状当てはまってるかもな。
「粗相と破壊行動、過剰なグルーミングは今のとこしてないと思うぞ」
りっくんが言った。
粗相なんてするかっ!
あとグルーミングって、それネコの分離不安じゃないの?
「今回は吐かなかったよな。その代わり過剰に鳴き続けてはいたけど。にゃーにゃー寂しいにゃーって」
完全に俺をネコ扱いしてるな、玲央。
お前はどうなんだ?
「玲央は泣かないのかよ」
「泣かねぇよ。一緒に行くもん」
あ、そうなんだ。
留守番するとか言った俺が間違ってたのか・・・?
「璃都、次の出張は一緒に行こうね?」
「首輪しない?」
「するよ。迷子になったら大変でしょ?」
するんだ、首輪。
「おい、さすがに僕は首輪なんてしないぞ?そんな事しようとするから留守番するって言ったんじゃないの?」
「ネコちゃんがホテルの部屋から勝手に出るかもしれないだろ。それに、首輪出す前に留守番するって言ったんだ」
「シグマに見張らせればいいだろ」
「璃都には脱走の前科がある。シグマが止められないの知ってるんだ」
「ああ、前に首輪した時のアレか」
だからあれは、逃げようとしたんじゃないって言ったのに・・・。
「敢えてシグマに捕まえさせて、お仕置きすれば?」
「お前な・・・いや、その手もアリか」
「やだっ!!」
その手もアリってなんだよ?
ナシだよ!
「ちょりと、お仕置きって具体的にナニされたんだ?」
トワイスアップを飲みながら、玲央がなんでもない事のように聞いてくる。
言う訳ないだろ。
「聞かないで」
「触らせた時のお仕置きはお尻ぺんぺんだよ。璃都は痛いの好きだけど、2発目で泣いちゃった」
「言うなっ!」
「「お尻ぺんぺん・・・」」
りっくんと玲央が呆れてる。
そうだよ、子どもみたいなお仕置きされたんだよ!
それで、その後もっと酷い目にあったんだ・・・。
「今度僕も玲央にやろ」
「おいやめろ」
「良かったね璃都、仲間が出来て」
「カイザルさん!?」
余計な事聞くからだ。
玲央もあの屈辱と痛みを味わえばいい。
「まあ、俺はちょりとと違ってお仕置きされるような事しないからな。仲間にはならねぇ・・・」
「するでしょ。うちの玄関も玲央が開けられないようにしちゃおうかな」
「ああ、業者を紹介してやる」
「カイザルさん、やめて・・・」
よしよし、玲央もお家 から出られない子仲間になりそうだな。
それにしても、玄関 ってどういう仕組みなんだろ。
───────
プチ飲み会がお開きになり、俺とカイは2階に上がったんだけど、寝室の前まで来てやっと、俺はある事を思い出した。
「カイ、先にお風呂行ってて」
「なんで?一緒に・・・」
「ちょっと寝室散らかしちゃったから先に片付けとく・・・」
「どれ?」
「だめっ!」
寝室のドアを開けようとするカイの前に立ち塞がる。
見られたくない・・・だって・・・。
「ああ、粗相しちゃったの?それは見たいな」
「ちが・・・っ!?」
19にもなって粗相なんてするかよ!
見たいってなんだ変態!
いや、だから、ドアを開けるな・・・っ!
「・・・え、これって」
「だっ、だから散らかしちゃったんだってば!服なに着ようか迷ってそれで・・・」
「これ全部、俺の服だよね」
ベッドの上に散らばった服と参考書。
さっきまで着てたコートも、同じようにベッドの上にあった。
・・・俺、ほんと、なにしてんだろ。
「寂しくて寝られなかったんだ?」
「ち、ちがくて・・・」
「ねえ、嘘つかない約束でしょ?」
カイが俺を抱き上げ、ベッドの前まで行く。
そんなまじまじ見て確認するな!
「・・・あれ、昨日の朝、俺が脱いだ部屋着もあるね」
「・・・・・・っ」
「ランドリーバスケットに入れたはずなのに」
「・・・ご・・・ごめん・・・」
カイが出張に行く朝、スーツに着替えてる隙に、ランドリーバスケットから出して隠しといた、カイが着てた部屋着。
夜、カイが帰って来ないって思ったら、なんか衝動的に、隠しちゃったやつ。
そのまま学校行ったら、ハウスキーパーさんが洗濯しちゃうから、洗濯されないように・・・。
「あれで一晩は我慢できたんだ?」
「・・・ぅん」
「でも参考書が何冊もあるのを見ると、あまり寝られなかったのかな?」
「・・・ぅん」
「可愛い・・・俺の璃都が可愛い・・・ほんと、欠片も残さず食べちゃいたい・・・っ」
「ぅあっ・・・!」
カイが俺の首筋に噛み付いた。
ぞくぞく・・・と背筋が痺れて、あらぬトコロがきゅんとする。
「だけど、今夜はもうお風呂に入って寝ようか。璃都は寝不足だろうし」
そう言って、俺を抱いたままバスルームへ向かうカイ。
・・・シないんだ?
俺も寝不足だけど、カイだって出張から無理やり帰って来て疲れてるだろうし。
そうだよな、風呂入って寝る、よな。
「璃都、大丈夫?眠いなら寝ちゃってもいいよ?俺が全部してあげるから」
風呂に入って、身体洗って、髪を洗ってもらってる。
カイに洗ってもらうの、好き。
カイを洗うのも、好き。
昨夜は独りで入った。
凄く、寂しかった。
「りと・・・んっ」
湯船に浸かってすぐ、カイに抱き付いてキスした。
寂しかった、欲しかった、会いたかった、触って・・・。
「な・・・で・・・っ、ちゅう・・・してくれな・・・っ」
「したかったけど、璃都泣いてて苦しそうだったから。もう平気?息出来る?」
「んっ・・・できる・・・っ、して、もっとぉ・・・っ」
俺からこんなに強請 るなんて。
俺どうしちゃったんだろ。
もうカイの事しか考えられない。
もっと抱きしめて、もっとキスして、もっと触って、もっと撫でて・・・!
「んぅ・・・んふ・・・んぁ・・・っ・・・っ」
「ふふ、こんなに可愛く誘ってくれるなんて。出張行って良かった」
「らぇ・・・も、いっちゃ、らめぇ・・・っ」
「・・・っ、出よう、璃都が逆上 せちゃう。ベッド行こうね」
カイの首にしがみ付いてキスしたまま、俺は抱き上げられバスルームを出た。
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