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アフター1:休日
ある夏の晴れた日。
片桐君と藍沢、黒崎さんと佐野さんと一緒に、ボウリングをすることになった。
「せっかくやるなら、チーム戦にしません?」
ボウリング場に辿り着くと、黒崎さんが言った。
チーム戦?
「別にいいけど、どう分けるんだ?」
隣に立つ佐野さんに訊かれ、黒崎さんは顎に手を添えて考えるような仕草を一瞬させた。
「どうせ片桐さんは上手いだろうし…そうだな。片桐さんと君の2人対、俺と佐野と藍沢さんの3人でどう?」
にっこりと黒崎さんが微笑んで告げた。
***
レーンに向かうと、俺は緊張気味にボウリングの玉を手に取る。
…ボウリングなんて、いつぶりだろうか。もう何年もやっていないし、ヘマをしでかさないかめちゃくちゃ不安だ…。
「星七さん」
ひとり不安で胸をドキドキとさせていると、後ろから声をかけられる。
振り向くと、半袖シャツを着た私服姿の片桐君が、紙コップを両手に持って俺を見てきている。
「これ、星七さんの分のジュースです」
机にコップを置く片桐君に、俺は慌ててボールから手を離してお礼を言う。
「あ、ありがとうっ」
片桐君は俺に向かって、ふっと優しい表情で微笑みかけた。
な…なんか…
こういう普通の日常的なデート、よく考えたら久しぶりかも…。
これまで色々あったのもあるし、片桐君の仕事の都合とかもあったしな。
黒崎さんたちもいるとはいえ、休日に片桐君と遊びに来られている事実に、変わりはない。
「星七さんって、ボウリングしたことあるんですか?」
椅子に腰掛けながら、片桐君が穏やかに尋ねてくる。
「ああ、えっと…したことはあるんだけど、遠い昔というか…」
その場に立ちながら、俺は視線を若干横にずらして話す。
「片桐君は、やったことあるの?」
「ありますよ」
言いながら、片桐君は睫毛を伏せ、静かに紙コップに口を付けている。
「やっぱり上手なの?」
「普通ですよ」
片桐君は俺に視線を映しながら、また優しく笑った。
多分だけど、片桐君の“普通”は、普通じゃないんだろうな…。
同じチームだし、絶対足引っ張らないようにしないと!
「お前、ボウリングできんの?」
意気込んでいると、隣のレーンから藍沢にしれっと話しかけられる。
「失礼な。できるよ」
「お前がボウリングしてるとこ見たことないけど」
「藍沢としてないだけで、したこと自体はあるから」
俺は言って、ボールを手にレーンの前に立つ。
緊張しながら、手に持ったボールを並んだピンの真ん中目掛けて放つ。
割と倒れたが、右端に数本ピンが残った。
「スペア狙えんのか〜?」
横からちゃちゃを入れてくる藍沢に、うるさい。と言って俺は再びボールを放つ。
結果は……
「……ごめん。片桐君」
スペアを取れなかった俺は、落ち込み気味に少々恥ずかしさも抱えながら、椅子に座る片桐君の元まで帰っていった。
「上手じゃないですか」
「…気を遣わないで」
「本当ですよ」
肩を落とす俺の前で、片桐君はにこ、と笑みを浮かべている。
(ああ、これまで勉強とバスケしかしてこなかったツケが今ここに……)
片桐君は、おもむろに立ち上がりボールを手に取ると、俺の方へと振り向いた。
「――大丈夫」
片桐君は元気づけるように俺に向け微かに笑うと、レーンの前に立った。
スっと綺麗なフォームで、片桐君が並んだボウリングのピンに向かってボールを放つ。
…思えば、片桐君がボウリングしてるところって、初めて見るんだ。
見事ストライクを決めて、椅子に腰かける俺の元まで戻ってくる片桐君。
か、カッコいい……!
「わー!すごいね!片桐君」
チーム戦のことも忘れて、椅子から立ち上がって笑って声をかける。
「全然ですよ」
「全然ある!全然ある!」
あはは、とふたりで笑い合って話していると、隣から視線を感じた。
にこにこといつも通り笑っている黒崎さんと、じとっとした目つきで見てくる藍沢と佐野さんがいた。
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