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第1話 後輩の☓☓現場に遭遇(side保)

俺は、いや俺達は数秒お互い固まったまま見つめ合った。 「……あ、え? ……ごめん、失礼しました」 「……」 気まずい状況を打破すべく、俺はくるりとその相手……可愛がっていた一学年下の後輩である修平に背を向け、サークル部屋から出ようとする。 ……のだが。 「保先輩、行かないで下さい」 廊下に出ようとした俺の腕は力強く掴まれ、ぐいっと部屋の中に引きずり込まれた。 修平はそのまま、パタンと扉を閉め、ガチャ、と施錠する。 いやいや、今は鍵閉める必要ないよな!? 俺は若干引腰になった。 大学の敷地内の片隅にあるプレハブ小屋が、俺達のサークル部屋。 とは言っても、大学生活を華やかに彩る賑やかなサークルとは違って、俺達の将棋サークルは基本二、三人しか集まらない。 何故なら、大学の自由に使えるパソコン室に集まることの方が多いからだ。 だから、オンラインで、世界中の人と自由に対戦する熱心なサークル仲間の方がむしろこの部屋に寄り付かないと言っても過言ではなかった。 そんな中、友人に誘われてこのサークルに入った俺は、逆にパソコン室よりこのサークル部屋に入り浸ることの方が多かった。 あまり将棋は詳しくないからこのサークルの奴らと対戦しても直ぐに負ける俺だが、時間を持て余した時に寝っ転がる場所がある環境は大いに歓迎だ。 だから俺は、このサークル部屋を我が物顔で使用していたし自由に過ごしている。 基本は寝にきてるけど、スマホでしょっちゅうネットサーフィンしまくってるし、何ならエロ動画見ながらヌいたこともあるんで人のことはどうこう言うつもりもないんだが。 オナるなら、せめて鍵は掛けておいてくれよ……!! 事故が起きた後じゃなくてさ……!! いや、まさかこんな遅い時間に誰か来る訳がないというのもわかるし、ノックをしなかった俺も悪かったと思う。 酔っ払ってたから、そう言えば部屋の窓から明かりが漏れていたな、とか今気付いたんだよ。 うん、俺も悪かった。 それは認める。 今日は大学の近くで飲みだったから、少しこの部屋で酒を抜いてから家に帰ろうとしただけなんだよ。 だから、気まずさマックスのこの部屋から早く逃げ出したいんだよ、頼むよ、見逃してくれよ。 「いやー、こう、色々と溜まるよな」 「保先輩」 「ノックしなくて悪かったよ、ちょっと休んでいこうとしただけで、別にこの部屋じゃなきゃダメって訳じゃないからさ」 「保先輩」 「邪魔したけど、俺は帰るわ。またな」 「保先輩」 俺は何も視界に入れないようにしながら、細目で笑顔を作って、じりじり、と鍵の掛けられた扉に近付いた。

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