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第23話 二人してスキップしそう(side修平)
予定とは大幅に違ったが、結果的に保先輩の確保に成功した俺は、ほくそ笑む。
保先輩の過去に触れて、トラウマを植え付けた女には天罰が下れと思わないでもないが、それが今まで、モテ顔美人の保先輩が女性に対して積極的になれず、彼女が出来なかった理由かと思うと気持ちは複雑だ。
保先輩が俺の知る大学生活で女性に興味を示したのはただ一度だけ、俺の柔道部の女友達だった。
当時は保先輩の女の好みは独特だと思っていたが、その女友達には同じ部活内で付き合っている男臭い友人がいて、間を取り持つ以前に終わっていた。
保先輩の、失恋前の失恋に少し小躍りしたのは申し訳ないことだったが、その女友達曰く、「自分より美人な男と並ぶのはマジ拷問」とか言っていたので、多分彼氏がいなくても、保先輩は彼女の好みからかけ離れていたのだと思う。
禍根のあった相手と仲直り出来たのが嬉しかったのか、保先輩はスキップをしそうな位にご機嫌だ。
「あ、今日のお礼に、何か奢ろうか?」
先輩がニコニコしながらコンビニを指差し、聞いてくる。
俺も胸をほんわか温かくしながら、「じゃあ、何か甘いもの、お願い出来ますか?」と返事した。
「ん~、スナックとかも欲しいな~」
本日二度目のコンビニで、ケーキやらアイスやらチョコやら、スナック菓子の袋もいくつかポイポイとカゴに入れる。
「保先輩、酒はどうします?」
俺は酒に弱い保先輩を誘導した。
「え? 要らないよ、修平まだ飲めないじゃん」
当たり前のように言う保先輩が愛しい。
「折角保先輩の和解記念日なんですから、飲みましょうよ」
新歓で保先輩が飲んでいた酒は確か、焼酎だったな、と思い出しながら適当な缶焼酎をカゴに入れていく。
「えー、何か悪いなぁ。でも、ありがと」
ニコニコとご機嫌な保先輩。
すみません、悪いのはこっちです。
あわよくば、他の記念日にしたいと思ってます。
「へへ、結構買っちゃた」
コンビニを後にし、満足気な保先輩に、俺は手を差し出した。
「持ちますよ」
「え? でも、修平も荷物……」
「これは、保先輩の服です。軽いので、交換しましょう」
「そう? んー、じゃあ……」
保先輩は、紙袋を覗き込みながら「あれ?何かコンビニの袋入ってる」と首を傾げた。
「ああ、それはバイト上がりの保先輩にあげる予定だったおにぎりです」
俺が言えば、保先輩は顔を輝かせた。
今回ファミレスに寄ったから出番はなかったが、保先輩の好きな具は、ツナといくら、それに昆布だ。
「え? わざわざ買っておいてくれたの? わーい、明日の朝ご飯で貰っても良いかなぁ?」
「勿論です」
おにぎりの差し入れに喜ぶ、万年金欠を公言する保先輩。
こんなんで先輩が釣れるなら、いくらでも買って来ますがね。
俺こそ、スキップを踏みそうな浮かれ具合を、ぐっと堪えた。
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