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第22話 何年ぶりかの雪解け(side保)

先輩の彼女の悪口を言うようで今まで気が引けていたが、先輩のことで相談があるからと呼び出され逆レイプされたこと、そこで散々先輩の悪口を聞かされたこと、初めて会った時からその女は嫌いだったが、嬉しそうに話す先輩には言えなかったことなどをぶち撒けた。 「すみません……俺、あの女のこと思い出すだけで、未だに鳥肌立つんです」 俺が、ダボダボのトレーナーを捲くって腕に立った鳥肌を見せると、先輩は唖然としたままだった。 それくらい、嫌いだった。 俺と仲の良い先輩のことを馬鹿にする態度も嫌だったけど、その女の本性を見抜けずにいつも彼女自慢する先輩も、少し嫌になりかけていた。 俺とセックスしないなら、今すぐ先輩と別れるとまで言って迫ってこられて、俺はどうして良いのかわからずただ呆然と女が跨るのを、どこか遠くから眺めることしか出来なかった。 先輩とのエッチに満足出来ない、イけないからあんたがイかせろ、とかも言われたけど、それは胸に閉まっておく。 客観的に見れば先輩は悪くなくて。 俺がその女と関係を持ったのは事実だし、謝ることしか出来なくて。 結局、先輩からもその女からも、距離を取った。 「いや実は、保のこと以外でもさ。そいつヤリマンだとか噂あって、他の奴らに確認したら、結構モーション掛けられたとか言っててさ……」 「俺は、全く靡かなかったのが気に食わなかったらしいです……」 自分を美人だと自負していて、初めて会った時に「へえ、イケメンって聞いてたけど、女みたい」と馬鹿にしたように言われたのは、今でも思い出す。 「……そっか。俺、保がそんなことする訳ないって思ってたから、本当は否定して欲しかったんだ。でもお前、謝ることしかしないし……マジで元カノと一回遊びたかったのかって……」 「二人の話聞いて、どっちが真実に近いのか信じるのは先輩の自由です。でも俺も、こんな真面目な先輩が自分から人の女を……って言うのは想像もつきませんね」 修平の言葉に先輩は、憑き物が落ちたかのように爽やかに笑った。 「よし! 今日は飲み直すぞーっ!!」 「保、修平、また会おうぜ! 連絡するわ」 「待ってます」 俺と修平は、そのまま騒がしく俺のバイト先に向かう二人を見送り、静けさが俺達を襲う。 修平の方を見るのが何だか照れくさくて、スマホで時間を確認した。 「うわ、終電やべっ!!」 「先輩」 「修平、今日はマジで、ありがとうな」 先輩とのわだかまりが解けた俺は、スッキリした顔で修平にお礼を言う。 修平がいなければきっと、話したところで信じて貰える訳もないし、相手を傷付けるだけだと思って話さなかったと思う。 「先輩」 「ん?」 「俺、役に立ちました?」 「勿論! 凄く、助かった」 俺は力強く頷いた。 絶対に修平は、俺の味方をしてくれるという安心感。それがどんなに心強かったことか。 「じゃあ、役に立ったご褒美に、今日……うちに泊まりに来てくれません?」 修平の笑顔に、俺はバイトの直前までナニしていたこともすっかり忘れ、「ああ、いいよ!」と笑顔で返した。

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