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第44話 先輩は俺を悶死させたいらしい(side修平)
女の子に向かって笑顔で手を振る保先輩を、俺は顔を引き攣らせながら見守った。
……ああ、無自覚で男女問わず落とさないで欲しい。
保先輩が美人であるのは誰が見ても一目瞭然で。
ただただ、将棋サークルという地味なサークルに所属し、目立つことをせずにバイトに明け暮れるような大学生活を送っているからこそ、保先輩は埋もれられているのだ。
将棋サークルの保先輩の友人曰く、最初こそ女性陣のお誘い攻撃は半端なかったらしく、保先輩の「あ、ごめんバイト」という定番の言葉を断り文句と全員が悟るまで半年掛かったらしい。
因みに、断り文句ではなく、事実なのだが。
「痴漢かぁ、男だからわからないけど、本当に嫌なんだろうな」
保先輩は、気の毒そうな表情を浮かべながらポツリと呟く。
俺はその話を聞いて、保先輩が痴漢にあったことがない、とわかってホッとする。
先輩は知らないっぽいし、地方から出てきてるからピンとこないかもしれないが、この路線は普通に男でも被害にあう。
電車の中で、涙目で耐える保先輩の後ろから手を回して、パンツの上からその形をなぞるようにペニスを優しく愛撫する……なんて、ケシカラン。
想像しただけで勃起して股間が痛い。
寝盗られ趣味はない為、自分が保先輩に痴漢したところを想像して激しく興奮してしまった。
想像だけならセーフだ。
だが、いつかやりたい。
「まぁ、居酒屋でもよくお客さんが酔っ払って尻を揉んでくるんだけど、冗談だとわかってても不快感はあるしなぁ」
保先輩は世間話の延長のように、爆弾を投げ込んできた。
……は!?!?
「え?そんなこと、あるんですか?」
俺が聞けば、保先輩は苦笑いして言う。
「あるよー。最初はマジビビったけど、もう慣れた。尻ならまだマシって達観レベルだよ」
はあああっ!?!?
「え、尻以外も触られるんですか?」
俺は、握り拳を作る。
今すぐそいつ、殴りに行きたい。
どこの誰だか知らないけど。
「うん、まぁ今は流石に慣れて、上手く避けられるようになったけど、やっぱり気持ち悪……」
保先輩はそこで一度、ハッとしたように言葉を切る。
隣で邪悪な空気を醸し出していたことに気付かれたと思った俺は、慌てて笑顔を準備した。
保先輩には、短気だと思われたくない。
そろ、と保先輩が俺を見上げる。
やべ、その様子も可愛い。
怒りで収まりかけた息子が、ギュン! と元気を取り戻すのを感じた。
「修平に……だ、よ?」
「え?」
すみません先輩、声が小さ過ぎるのと、股間に意識がいって全然聞こえませんでした。
俺が聞き返すと、先輩は俺の腕を自分の方へ少し引っ張りつつ、自分は背伸びして内緒話をするかのように手を当て、耳打ちした。
「修平に、お尻を揉まれるのは、平気だよ」
顔を真っ赤にさせて言う保先輩。
……俺を悶死させたいんですか?
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