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第43話 モヤモヤの正体(side保)

「あのっ……!!」 予定通り乗り換え駅で降りた時、後ろから声が掛かった。 ん? 「あ、ありがとうございました!」 振り返ると、先程の可愛い女の子が修平に頭を下げた。 勇気を振り絞っているのか、頬が赤い。 「それで、お礼を……したいので、れ、連絡先を……」 女の子は髪を触りながら、小さな鞄からスマホを取り出す。 修平はスマホを手にすることはなく、「いえ、余計なことでなければ良かったです」と笑顔で言った。 「お礼とかいらないので。では失礼します」 修平は俺の腕をひき、歩き出した。 「えっ……と。え? いいの??」 だいぶ可愛い女の子だったけど……。 そう、修平の隣に並んで、ちょうど良さそうな。 と、そこまで考えて。 なぜだか胸がモヤッとした。 ん? なに今の?? 控え目だと思っていたその女の子は、「じゃあ、なにか飲み物だけでも奢らせて下さい」と言って、俺の腕を掴んでない方の修平の腕に、そっと小さな手をのせた。 綺麗に磨かれた爪が、光る。 俺は小声で修平に耳打ちした。 「可愛い子じゃん、連絡先聞いとけば?」 言いながら、胸のモヤッがモヤモヤッに膨れ上がった。 修平は、一瞬目を見開いてから、何か言いたげに、俺を真っ直ぐ見つめる。 「……保先輩の好みとは違いますよね?」 まぁ、そうだな。俺は頷いた。 てか、なんで俺? 明らかにこの子、修平狙いのような……? 胸の中のモヤモヤッが、とうとう胸中を埋め尽くした。 「生憎、俺の好みからも外れてます。俺の好みは、」 「髪も肌も瞳も色素が薄くて、笑うと八重歯が少し見えて、髪の毛がサラサラのショートヘアで、胸はぺったんこで、お酒に弱くて、切り替えが早くて、好奇心旺盛で、寝ぼけたところが可愛い人だろ?」 俺の返事に修平は苦笑する。 「正解です。てか、よく覚えてますね」 「お前が何度も何度も何度も何度も言うから、いい加減覚えたわ」 「保先輩……意味わかってます?」 その時、蚊帳の外にされた女の子が声をあげる。 「あの~……」 「あ、ごめん」 女の子を放って二人で話してしまった。 ともかく、この子は修平の好みではないらしい。 そうわかると、俺の胸の中に巣食っていたモヤモヤは嘘のようにスウ、と消えていった。 「じゃあ、あそこの自販機で何か買って貰えば?」 俺は直ぐ傍にある自販機を指差す。 女の子は修平にお礼がしたい、その気持ちがコーヒー一本で解消出来るなら、貰ってもいい気がする。 向こうの気は晴れるし、お茶代よりは安い。 「……保先輩が言うなら、それで」 修平はそう言って、笑った。 俺に向かって笑ってどうするよ。 ここは俺は出さないよ? 万年金欠舐めんな。 「なんかこっちで勝手に決めちゃったけど、それでも大丈夫?」 俺が女の子に笑い掛ければ、「あ、はい。勿論です、ありがとうございます」と顔を赤らめて微笑んでくれた。 自販機に向かって歩きながら、俺はとうとう自覚した。 ……ヤバイな、俺。 修平に対して、独占欲らしきものを抱え出した、らしい。

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