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第42話 一夜にして作り替えられた身体(side保)
「保先輩、座って下さい」
俺を労ったのか、周りに座席を譲るべき人がいないかどうかざっと見回してから、修平は俺をひとつだけ空いていた席に座らせた。
「ありがと」
俺は、目の前に立つ修平を見上げて御礼を言う。
平日は全然混まない時間帯なのに、土日は違うらしい。人に当たらないで立つのは不可能な程に、通勤ラッシュ、とまではいかないものの、適度よりは明らかに乗客の数が多い。
「何かのイベントでもあったのかな」
「どうでしょう。そんな感じはしますね」
俺の乗り換え駅は比較的発展していて、買い物でも遊ぶのでも、近隣の駅から人が集中しやすかった。
──沈黙。
普段より顔の距離が遠いから、あまり話し掛けるのも周りの迷惑になるかなと思い、俺は口を閉じた。
修平も会話を振ってこないから、似たようなことを思ったのかもしれない。
バイト前の時間は凄くバタバタしていて、恥ずかしいとかどんな顔して話せばいいか、なんて二の次だったから緊張も羞恥心も吹っ飛んでいたけど。
改めて二人きりになって、俺は修平と何を話して良いのか、わからなくかった。
俺達、ただの大学の先輩と後輩……だよな?
セックスした時点で、せフレとでも言うべきなんだろうか?
というか、修平はどんなつもりで俺とセックスなんて……。
そんな考えが頭の中にぐるぐる渦巻いて、けれども当然どれも電車では出来ない話で、俺は口を開いては、閉じた。
ふと、目の前の修平の股間に視線が向いてしまい、一人勝手に慌てる。
「……っ」
昨日は、修平のペニスが俺の……。
昨日の情交を思い出してしまったその時、俺の後ろの穴は、ヒクヒクと何度も物欲しげに刺激を求めて動きだした。
う、嘘だろ……!?
修平とのただ一度の交わりは、一夜にして俺の身体を作り替えていた。
まさか肛門に何かを突っ込まれて快感を得る日が来るとは思わなかったが、実際に一度味わってしまえば、それはあっさり忘れられるものではなくて。
……早く、あそこを突いて欲しい……っ
そんな淫らな願いが、俺の脳裏を占拠していく。
下半身が元気になってパンツの生地を押し上げ、地味に痛い。
何で、俺、一人こんなに興奮しちゃってんだろ……これじゃ変態じゃん。
情けなくて、恥ずかしくて、俺は膝に置いた鞄をぎゅ、と抱き締めた。
すると、上からハァ、というため息が降ってくる。
修平だ。
タイミングが良すぎて、俺が勝手に発情したのに気付き、こんな電車の中で、なんて呆れたのかと思ったけど、どうも違うようだった。
仏頂面で、苦虫を噛んだような、不機嫌さの滲む顔。
露骨に嫌悪感を出すなんて珍しい、と思いながら首を捻ると、修平はぐら、と傾いて「あ、すみません」と何故か斜め後ろに立っていた男にぶつかった。
……ん?
体幹のしっかりした柔道部の修平。
今のってわざとだよな……?
俺が訝しく思いながら状況を見ている中、修平は声を落としてコソコソ、と男に何か言った。
「……そんなこと私はしてないっ!!」
男は、顔を真っ赤にさせて怒る。
ザワつく車内。
ん??
よくわからないが、次の駅でその男は電車から降りた。
「──どうしますか?」
修平が声を掛けたのは、修平の隣に立っていた同い年位の女の子だった。
女の子は俯き、そのまま顔を小さく横に振る。
痴漢、だったらしい。
ボブカットの可愛い女の子は、目に涙を浮かべながら、それでもホッと安心した表情を浮かべていた。
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