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第56話 微睡んで(side保)【*】

「……い、……つせ……」 夢の中。 ふに、と口に何か当たった感触。 そして唇をペロッと舐められた。 俺にこんなことをするのは、一匹だけだ。 目を開けないで夢の世界で微睡んでいると、また舐められた。 「くすぐった……やめろよ、ケン」 俺はクスクス笑いながら、寝返りをうつ。 実家にいる、ケンタウロスという名前を付けられてしまった可愛い猫だ。 俺が小学生の時、母に頼み込んで飼い始めた。 本当は犬が欲しくておねだりしたけど、犬は散歩が必要だから飼いきれないと却下され。 それでも粘って粘って粘って代わりに許可が下りたのが、猫……ケンだった。 「……先輩。保先輩」 「……んー?」 眠い。 何か幸せな夢を見ていた気がする。 「保先輩、今日はバイト大丈夫ですか?」 「バイト……」 今日は何曜日だっけ…… 「今日は日曜日です。保先輩、今は朝の七時ですが、バイトは大丈夫ですか?」 日曜日……バイト……入れてたっけ…… 「日曜日は……居酒屋……」 そうだ、十七時からだ。 ふ、と笑った気配がする。 「なら大丈夫ですね。もう少しゆっくりしましょうか、起こしてすみません」 「……へーき……」 俺の横に、冷たい身体が滑り込んできて。 寒くないのかな、と心配になって、それに抱き着いた。 「……保先輩」 むちゅ、と口を何かに塞がれ、苦しさを覚えた俺は、空気を求めて薄く口を開いた。 「先輩っ、保先輩……っっ」 何かあったのかと思うような切ない声が鼓膜と胸を震わせて、俺は一気に覚醒した。 「……んんっ」 修平? と聞く予定だったけど、口内に侵入してきた修平の舌に自分のそれを絡め取られて、話せない。 どうしたんだ、とか大丈夫か、とか、修平の情緒を心配する気持ちはあるものの、今は何故かこのキスを拒まない方がいいような気がして、俺はいつの間にか修平の身体に回していた手で、修平の背中を落ち着かせるようにトントンと優しく叩いた。 「ぁ……ん、ふ……」 くちゅりくちゅりと耳に入る水音に、俺の下半身は徐々に熱を持ち始める。 修平も同じみたいで、俺の太腿には、スウェットの中で勃起した修平の巨根が擦り付けられていた。 「んぁ♡」 俺のペニスが元気になったことに気付いた修平は、大きな掌でパジャマごと俺の肉棒を掴み、優しく擦り上げる。 「あ♡ ぁっ♡ ぁんっ♡」 我慢出来なくて、腰砕けになりながら快感に耽けると、修平はパジャマ越しではなく、ズボンのウエスト部分から手を入れ直して直接扱いてくれた。 修平の掌は、ローションを使わずにペニスに触ったからか、どこかたどたどしい。 先端からぷくりと溢れた先走りを中指の腹で亀頭に広げながら、カリのあたりのダブっとした皮を伸ばすように上下に擦った。 「ふぁ♡ 朝からっ♡ ヤバイって……♡♡」 「保先輩……っっ」 修平は、余裕のない声で俺の名前を呼ぶ。 その声に、ギュッと胸を掴まれた時だった。 「……ケンって、誰、ですか……?」 絞り出したような低い声で、修平は俺に聞いてきた。

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