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第67話 痴漢と気付き(side保)

嘘だろ……っっ!? 俺は、電車の中で息を止めた。 俺の直ぐ側で、発情したハァハァという痴漢の荒い息遣いを感じる。 終電間際の車内は混んでいて、俺はいつも少しでも混雑を避ける為に階段から遠く離れた車両まで移動していたのだけど、今日は早く帰りたくて、修平を待たせてるという気持ちが焦りになって、一番混んでいるとわかっていながら、普段使わない車両を選んでしまった。 それがまさか、こんな事態を引き起こそうとは、露程にも思わず。 ……俺、男なんだけど……っっ!? 始めは尻を揉まれ、驚きつつも「こいつ、相手が男だとわかってないのか、馬鹿だな」なんて余裕をぶっこいてそのまま放置していた。 相手が男だと気付けば、勝手にやめるだろうし、むしろ慌てるだろう。そんな思いで痴漢を馬鹿にしていたの、だが……。 痴漢は尻を揉んでいた手をスルリと前に移動し、明らかに俺のペニスをその手で扱き出したのだ。 こ、こいつ、俺が男だとわかっていて痴漢してる……!? 当然、慌てたのは俺だ。 嘘だろ。 一縷の望みを掛けて視線を下げその手を見れば、それはやはり女性の手ではなく男のものだった。 修平の手はもう一回り大きいし、俺のペニスを知り尽くしているように動くから、修平の手でもない。 うわあああ!  どうしたら良いんだよこんなん!! 電車の中で叫ぶのか!?  痴漢をやめろって!? 俺の尻やナニを揉むな触るなって!? 出来るかあああっっっ!!! ふと、修平が痴漢から助けた女の子を思い出した。 ああ、そりゃ惚れるわ。 こんな状態で、身動きも取れなくて、声も出せなくて、半分パニックになってるところに颯爽と現れ助けられたら、そりゃ、ああなるわ……。 過去に思いを馳せて、今下半身に直接与えられる刺激をやり過ごそうとしても、限界は来るもんであって。 誰だか知らんオッサン(仮定)の手は俺のペニスをなぞるように這い回り、気持ち悪いとか嫌悪感しか抱かないのに、俺の息子だけは反応しようとしているのにまた、絶望する。 頼むから、反応するなよ……!! 修平の手なら、いくらでもこの後反応して良いから。 俺は、修平じゃなきゃ嫌だ……っっ!! ──そこで俺はやっと、自分の気持ちに気付いた。 ああ、そっか。 気持ち良くしてくれるなら誰でも良い訳じゃなくて。 修平だから、許してたし。 修平だから、心から気持ち良いと感じたし。 俺は、修平のことが好きだから、セックスしたんだ……。 それは、気付けば余りにも簡単すぎる答えで。 性別であるとか、社会の常識であるとか、親の気持ちとか、色々なことを考えてしまって、障害の多さに尻込みしてしまったけど。 俺が触れて欲しいのは、そして自分が触れたいのは、修平だけなんだ、と改めて気付かされた。

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