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第75話 母と父とおじさんの話(side保)
※人が亡くなる描写があります。苦手な方は飛ばして下さい。
「保先輩のお母さんって、どういう方なんですか?」
二人でズルズルと朝ご飯のカップラーメンを啜りながら、修平から聞かれる。
「んー、息子の俺が言うのもなんだけど、めっちゃ美人で竹を割ったような性格の人、かな」
「じゃあ、保先輩よく似てるって言われませんか?」
「そうそう。よくわかったね。父親はずんぐりむっくりしてて、凄く優しくて、熊さんみたいな人だったよ」
「お母さんは今、シングルなんでしたっけ?」
「ああ、うん。父親がさ、俺が小学校上がった時に、死んじゃってさ」
家族でキャンプに行った時だ。中洲に取り残されて、流されそうになった女の子を助けたところで、自分は力尽きて川に流された。
いつも豪快に笑うか怒るかしかしなかった母親が、大粒の涙を流して、父の大きな身体に縋りついていたのが目に焼き付いて離れない。
と、ここまで話すと辛気臭くなるので話さない。
「母さんは、父さんとの結婚を反対されて、駆け落ち同然で地方に越したから、実家とは音信不通で。父さんは元々、天涯孤独だったからさ、母さんの家族は俺と猫のケンだけなんだ」
修平は、言葉を挟むことなく耳を傾けてくれた。
「あ、でも俺にも、父親代わりに可愛がってくれた人はいたから、そこまで寂しくなかったよ? 父さんの親友でめっちゃイケメンで金持ち。母さんは借りを作りたくないっていつも言って突っぱねてたけど、俺が懐いてたから、なんだかんだで結構そのおじさんが入り浸ってた」
正直、イケメンおじさんは母親にべた惚れなのは子供から見てもバレバレだったから、本当に父親になって貰っても良かったんだけど。
中学に上がる時にそう言ったら、母親が「お父さんを裏切れないし、子供がそんなこと気にしないの!」と言ったのでもう言わないことにした。
でも、大学で独り暮らしを決められたのは間違いなくおじさんのお陰だし、最後に「母をよろしくお願い致します」と行って出てきたのだ。
俺がこっちに来てる間に、何か進展あると良いんだけど。
母親はまだ若くて四十前だから、是非歳の離れた弟か妹が欲しい。
めっちゃ可愛がる。
「先輩?」
「あ、ごめん。ともかくそんな感じなんで、やっぱり母親には一番わかって貰いたいんだ」
「わかりました。成る程、だからあの時……」
「ん?」
「保先輩が、“考えさせて”と言った理由がわかって、むしろすっきりしました」
「あはは、ごめん」
ズズズ、と最後にスープまで完食して、御馳走様でした、と俺は手を合わせる。
「ただ、これからもイチャイチャはして良いですか?」
そう言われて、赤くなる。
イチャイチャ……つまり、昨日みたいなことはしたいということだ。
素直にそう伝えてくれる修平が愛しくて、嬉しい。
だから、その想いには応えたい。
「うん、俺も……イチャイチャ、は、したい」
「大好きです、保先輩」
ラーメン味のキスをして、二人して笑い合った。
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