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第80話 久々の帰省(side保)
「だからっ、少しは気を遣いなさいよっ!! 親子水入らずなんて、久しぶりなんだからっ!!」
「ケン、ただいまー」
「あ、保、お帰り~っっ♡♡」
「母さん、ただいまー」
「あんた、ケンに先に挨拶するって変わらないわね……」
「つい、癖で」
小学生の頃からずっと、家に必ずいるケンに先に挨拶しているからか、いるかいないかわからない母親は後回しだ。
これを言うと母親は落ち込むから、言わないけど。
「今保帰って来たから、切るわよ」と言って母はスマホを置いた。
綺麗に片付いた部屋を見回しながら、俺はケンを呼ぶ。
「ケン? ケンー? ほら、お土産の豪華な高級フード買ってきたぞー」
「ちょっと保、ケンの舌が肥えたらどうすんのよ」
「おじさんに買って貰ってよ」
「な、なんでそこにあの人が出てくんのよ!!」
挙動不審な母親。
いや、だって部屋めっちゃ綺麗じゃん。
基本的に何でもそつなくこなす母だが、唯一苦手なものがある。
それは、掃除だ。
だから、専ら実家を片付けていたのは俺だった。
たった三泊四日の修学旅行で家を空け、帰宅した時のジャングルっぷりを俺は忘れることはないだろう。
それが、どこを見てもピカピカ。
花まで飾ってあるし、そこかしこから何だか良い香りまで漂ってくる始末。
これで、おじさんが常駐してないと考えない方がおかしいと思う。
洗面所で手を洗う。
おじさんの歯ブラシやシェーバーやコップは見当たらず、恐らく俺に気を遣ったおじさんが持ち帰ったか、片付けたかしたのだろうと想像した。
「さっきの電話もおじさんでしょ? 俺も会いたいし、来て貰いなよ」
「ええっ……、保は、それでもいいの?」
「いいのも何も、おじさんはもう俺の二人目の父親みたいなもんだよ」
そう言いながら、俺は二階へ向かった。
俺の部屋は出て行った時のままで、高校時代の時間がそのまま残されていた。
勉強机の上に旅行鞄を置いて、ベッドにゴロンと寝転ぶ。
下の階で、声の大きい母親が「うん、そう……だから、保が会いたいって」と話しているのが聞こえる。
この一軒家は、父親が生きていた頃に三十年ローンかなんかで購入したものだ。
父親が亡くなったと同時にローンもなくなる保険に入っていたので、幸いにも俺達は家を失うことはなかった。
でも、おじさんと一緒にこの家で暮らしていくには少し……いやかなり、母にとってもおじさんにとっても、何かしら精神的にくるだろう。
「なかなか、丸っと上手くはいかないもんだなぁ……」
母も、俺も、おじさんも。
大学に入学した時は、まさか自分が男を好きになるなんて想像もしていなかった。
「修平……」
別れたばかりなのに、もう、会いたい。
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