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第84話 こっそり結託(side保)
翌朝俺が一階に降りると、頭を抱えた母親と、そんな母を甲斐甲斐しくお世話するスーツ姿のおじさんがいた。
「ううー……、頭痛い……喉も痛い……」
「雛子さん、シジミの味噌汁と大根おろしのハチミツ割り、どっちが良いですか?」
「それより、保が起きてくる前にシャワー……」
「あ、保君、おはようございます」
「ぎゃあああ!!!」
「人を化け物みたいに……おはよ、ケン、母さん。おはようございます、おじさん」
朝から我が家は賑やかだ。
足元に擦り寄るケンを撫でつつ、チラッと母親を見れば、サササッっと一生懸命身だしなみを整えていた。
あー、多分、ずっと一階に籠もってヤラれてたな。
寝室で寝かせて貰ってないな。
ちょっとおじさん、人の母親に無理させないでよ、と思いながら少し睨む。
おじさんからは、ごめん、というジェスチャーをされた。
まぁ、気持ちはわかる、許す。
……や、違うか。
おじさんを焚き付けたのは俺か。
「保君は、朝ご飯パンとご飯、どっちが良い?」
「簡単な方で良いです。……いや、やっぱり自分でやります」
ヤバイ、完全にこっちが客人扱いされてたわ。
それを普通に受けてたわ。
俺が立ち上がろうとすると、「いいよ、疾風にやらせとけば!」と言って母は風呂へと直行した。
取り残された俺達は、もう気の置けない仲なので通常運転だ。
「おじさん、今日、仕事なんですか?」
「あー、そう。でも、午前中は半休取ってるから大丈夫だよ」
「そうですか。わざわざ本当にすみません」
「いや、違うんだ。本当は雛子さんと一緒に保君をお迎えしたかったんだけど、雛子さんに断られてしまってね……」
「母にはもう、プロポーズしたんですか?」
「やー、保君が中学校、高校、大学って進学する度にしてるんだけど、全滅」
「そりゃ酷い。おじさん可哀想」
マジで同情した。
「中学校に上がる時は、まだ再婚は早い、余りにも旦那に対して不義理な気がするって言われて」
「あー、言いそう」
「高校に上がる時は、保君が多感な時期だから、刺激したくないって言われて」
「あー、言いそう。てか、勝手に決めつけないで欲しいなぁ」
「で、大学上がる時は、保君が就職して独り立ちしたらって」
「何その三コンボ」
「結構頑張ってるんだけど」
「俺から言っておきます」
「頼む。もう、保君しか頼れない」
「その代わり、俺の恋人連れてきた時もお願いしますね?」
「それは勿論! 絶対味方するから!!」
俺達はこっそり結託した。
朝ご飯を食べ終えた頃、母が風呂から出てくる。
うーん、またおじさんが視線のやり場に困るような格好でウロウロするのってわざとか?
「母さん、俺、今日帰るわ」
「えっ!?」
年始までいる予定だったからか、母は驚愕する。
「何でっ!? お節、二人前のやつ予約しちゃったよ!」
そこかい。
「んー、母さんさぁ。そろそろ、おじさんと再婚しなよ。で、俺は年の離れた兄妹が欲しい。出来たら二、三人欲しい。俺は子供が作れないから、その分母さんが頑張ってよ」
「は、はぁっ!?」
俺がそう言うと、母は顔を真っ赤にさせた。
「俺をダシにして、おじさんのプロポーズ三回断ってるんだって?」
俺がジト、と見れば、母はおじさんをジト、と見た。
おじさんはパッと視線を反らして誤魔化している。
「とにかく、俺は再婚大賛成。再婚して、住むところも自由にしていい。再婚したって、父さんの記憶がなくなる訳じゃないし、ここにいなくたって、何かあれば思い出すし」
「保……」
母は、泣きそうな、微妙な表情を浮かべる。
「俺はもう、母親を独り占めしたがる子供じゃないから。すんごい好きな人が出来て、めっちゃ幸せだからさ」
「保……」
母は、目に涙を浮かべて笑った。
母親ながら、物凄く綺麗な笑顔だったと、思う。
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