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第1話 そんなこと言ったって。
「現実的な人ほど、下手なくせにただ激しくしたがるよね。」
その言葉に、凛斗 は、眉を顰めることさえしなかった。
いつもの、相手──りぃかの戯言だと思ったからだ。
凛斗とりぃかは、明日行われるハンドメイドマルシェに参加のため、遠征に来ていた。
ふたりが知り合ったのは、ほんのひと月前だ。
偶然りぃかが凛斗の出店していた店に出向き、『専属にしたい』と言うほど作品に惚れ込んだ。
そんな風に言われれば、凛斗だって自分の作品は可愛いこともあり、直ぐにふたりは連絡先を交換した。
そう、凛斗はその時、ただの専属ハンドメイド作家になるだけだったし、りぃかもただ凛斗を専属のハンドメイド作家にしただけだった。
「で?それは、俺がどうだと言いたいってことですか?」
凛斗が、りぃかが横になっている、ベットに片足を着いて体重をかけると、ぎっと軽くベッドが軋んだ。
「男とラブホに泊まるような凛斗さんだからなぁ……。どうだろうね?」
りぃかは、小さくクスリと笑うと身をベッドに投げ出した。
マルシェ参加にはなかなかお金がかかる。
昔はチェーン展開しているビジネスホテルにとまっていたのだが、地方の郊外のラブホテルは案外安いと気づいてから、一度何も気にせずに二人で泊まったことが始まりだった。
使ったことがない訳でもなかったから、ホテルの設備でいやらしい動画が流れていても、大して気にしてないはずだったのに、と凛斗は思った。
何をあの時思っていたのだろう、と凛斗は思う。
何故、ふたりとも男なのに、一線をあんなにあっさり超えてしまったんだろうと。
ただ、あまり笑顔を浮かべないりぃかが、最中にかすかに笑みを浮かべたとだけ、凛斗は頭にこびりついて離れなかった。
「凛斗さん、激しいのだけは得意だから。」
「りぃか、何を言いたいんですか?」
りぃかは、目を細めて凛斗を見るだけだった。
凛斗は、目を細めて、釣り上げたような目線を向けると、りぃかの顔の横に手を置く。
「あんまり、からかわないでくださいね。」
ふわっと仕立て付きで、凛斗はりぃかの頬を指で掠めた。
それだけで、りぃかは凛斗が、自分を今日もあの時のように抱こうと思っている、というのが分かった。
凛斗は、無表情のまま、りぃかのシャツのボタンを外していく。
りぃかは、凛斗の手元は見ないで、頭を枕に預けた。
少しずつ、肌が露出してくるのがりぃかにも分かって、顔には出さないが少しドキドキする感情を覚えた。
りぃかは、少し長くなった自分の黒髪の先を見ていた。
何も感じないように、何も気にしないように。
そう自分に言い聞かせるようにしながらも、意識は凛斗の手元に向いてしまう。
別に、りぃかは凛斗のことが嫌いではなかった。
減らず口はきけど、りぃかが凛斗がこうして手を出してきた時、拒否したことは無い。
初めて男同士だと分かっていて、凛斗がりぃかに手を出してきた日も、りぃかは拒まなかった。
それに、凛斗は少しイライラしたような表情を見せたことをりぃかは覚えている。
(なんで、嫌じゃなかったんだろう。)
「俺だけに集中してください。」
ふと、考え込みそうになった時、あの時みいに、イライラした目をした凛斗と目が合った。
その目は、りぃかは嫌いではなかった。
(独占欲とか、結構好き。)
凛斗は、自分自身が独占欲を抱いているなど考えもつかないだろう。
だけども、一番初めに抱かれた時も、凛斗は独占欲丸出しだったのを覚えている。
「ねぇ、なんでさ、会ったばかりの男に組み敷かれてんのに、そんななんでもないって顔してるんですか。」
急に押し倒され、初めて肌を重ねた日。
凛斗はりぃかに、眉間に皺を寄せながら言ったのだ。
「──凛斗さんこそ、男抱いたことあるの?」
少し口元を釣り上げて笑ったりぃかが、同性の凛斗に組み敷かれても、少しも動揺してないことに、凛斗はカッとした表情を浮かべる。
それでも、シャツの隙間から、入ってきた凛斗のハンドメイド作家にしては、しっかりした太めな指だったことに少し──ほんの少しだけ、りぃかはドキッとした。
凛斗の指は、見よう見まね感が抜けない動きで、りぃかの肌を滑っていく。
それでも、りぃかの胸の突起を捉え、キュッと軽く引っ張られると、りぃかの肩が震えた。
「こんな男相手に感じちゃうんですね。 」
凛斗の満更でもなもない、満足そうな表情に、少しりぃかの不満気な表情が浮かんだが、凛斗が突起を引っ張るのと同時に膝をりぃかの足の間に割って入り、りぃか自身を刺激すると、りぃかの腰がビクッと跳ねてしまう。
「綺麗で、すました顔してるけど、りぃかもやっぱりココ触られると、感じるんですね。」
凛斗は、りぃかの胸の突起を爪で引っ掻きながら、グリグリとりぃか自身を膝で押し上げ続ける。
「ン………ぁ……。」
自然とりぃかから出た、小さな熱を帯びた声に凛斗はご満悦だった。
「ねえ、りぃか。そんな声、今まで出したことあったりするんですか?」
「うるさ……大したことできない凛斗くんの癖に。」
「例えば、こういうことですかね?」
そう言うと、胸の突起を軽く触れるだけにしながら、ボトムスの上からゆっくり親指でりぃか自身をなぞるように親指で刺激を始める。
「ん、く……ン……。」
じんわりと、りぃかの肌に汗が滲む。
素直に気持ちいいと言えない代わりに、色の付いた声がだんだん多くなってくる。
はぁ、と、りぃかが熱い吐息を無意識に洩らせば、凛斗に首筋を舐められた。
「明日……マルシェですね。ここ、痕みえちゃうかもですね。」
「凛斗さん、子供っぽいことするね……。」
「子供ですから。」
りぃかは、そう揶揄したものの、完全に拒む様子は見せなかった。
それに、イラッとしたように眉間に皺を寄せると、ガプッとりぃかの首筋に噛み付く。
確実に、服でもストールなどのアイテムを使っても隠しきれない場所──そう、りぃかも勘づいたが、抵抗はしながった。
そのまま、痛みが強く感じるくらいに噛み付かれ、吸い上げられる。
あとにできたのは、セックス出来たキスマークというよりは、内出血に近いものだった。
「サイテー……。」
りぃかは、見えないながらも、その痕がどうなっているかくらい薄々痛みでわかった。
付き合ってもいない、初めて肌を寄せ合う、しかも同性にそんな、女々しい痕を付けることが、りぃかには理解できなかった。
「別に意味は無いですけど。」
そう言いながらも、りぃかは、凛斗が明日マルシェで接客をするりぃかが何となく嫌だと思っているのではと探っていた。
そもそも、りぃかはマルシェでは、ハンドメイド作家ではなく、占い師としてブースを持っている。
凛斗は、元々あまり占いを信じるタイプではないし、自分に対してマイナスの感情から入っていると思っていた。
それなのに、りぃかは凛斗の作品は、好きでいくつもオーダーメイドしている。
その結果が、このセフレとも恋人とも言えぬ関係なのは何なのだろう、と。
(しっかり、嫉妬や独占欲は凛斗さんにはありそうだけど……。)
ただ、ふたりはふたりでマルシェに出かけることはあるほどの間柄にはあるが、今まで色恋の話をしたことは無い。
それなのに、りぃかは思う。
何故、抱かれているのだろう、と。
「何、考えてるんですか?」
その言葉と同時に一気にボトムスの上からとはいえ、強めにりぃか自身を握られ、擦られると、ビクン!と足が跳ねた。
我を忘れるほどの快感ではない。
けど、中途半端に気持ちよくてぎこちなくて、先を自分から求めてしまいそうになる。
りぃかは、それだけは絶対に嫌だと思っていた。
なのに──
「ぅ……ンッ!ちゃ、んと……!」
思わずりぃかのすべり出た言葉に、凛斗が動きを止めた。
そのまま凛斗は、ニヤッと笑みを浮かべると、りぃか自身を人差し指でなぞりながら目を覗き込もうとする。
「りぃか、結構その気ですよね?」
「ちが……。」
「拒否はしないのに?」
りぃかが、言葉に詰まるように黙ると、凛斗はりぃかのボトムスの隙間から手を入れて、下着のゴムを弾く。
「もっと、悦くなりません?」
「──っ。」
「残念ですけど……拒否権はないですけどね。」
りぃかが、なにか言おうと口を開いたところで凛斗の手が下着にズルりと入ってきた。
「う、あ……!!!」
手が入った勢いで、りぃか自身の先端を擦られるように手が当たると、りぃかの腰が浮いた。
「確かに、男の人を抱いたことは無いですけど……気持ちいいとこの共通点はあると思うんで。」
そう言うと、凛斗はりぃか自身の先端を人差し指の腹で擦るように動かし始める。
「く、ん……!それ、やめ……!」
「やめて欲しいなら、抵抗したらいいんですよ?何も縛ってないんだから。」
「うるさっ……!」
物理的には、りぃかはいつでも凛斗を止めさせられるし、逃げることは出来る。
でも、りぃかは何故かそれが出来なかった。
逃げるよりも、そのさきを期待してしまう……そんな感覚に陥っていた。
「逃げないなら、もっとするだけですけど?」
そう、りぃかは凛斗に念を押されるように言うと、りぃか自身の裏筋をなぞるようにしながら指を素早く擦りあげる。
「ン、ンン……!っ、く、ん……!」
「ねえ、りぃか。すっごい濡れてるけど?」
「んー、ンン!」
それは、違うと言うようにりぃかは、行為が始まって初めて首を横に振った。
しかし、りぃか自身はトロトロと先走りをこぼし、臀部まで濡らしていた。
「こんなになって、女の子みたいですね?」
その言葉に、りぃかは微かに頬を染め、ギュウッとシーツを握りしめた。
「恥ずかしいくせに、拒否はしないんですね……。」
りぃかの様子に、凛斗は目を細めて笑うと、りぃか自身をキュッと握り直し、速度を早めてりぃか自身を扱いていく。
「う、ん……!ンン……!!」
「イク?」
「ンーーー!!」
まるで、イキたいのとイキたくないのが同時に現れたように泣きそうな顔を浮かべたあと、りぃかは何度も腰を揺らして、ボトムスも下着も脱ぐことなく、達してしまった。
「なに、思い出してるんですか。」
その、凛斗の言葉でりぃかは我に返った。
いつの間にか服は脱がされ、指がりぃかの蕾に伸びているところだった。
りぃかにかけられた言葉で、凛斗にはりぃかが、集中してなかったことはバレているのが分かった。
「何も……。」
「いいですけど。集中させるんで。」
そう言うと、凛斗はりぃかの足を大きくグイッと開かせた。
りぃか自身も、蕾も顕になるこの瞬間は、いつになっても恥ずかしいとりぃかは思った。
「りぃか、優しくされるの嫌いですよね。」
「嫌い、とかじゃない。」
「じゃあ、言い方変えます。俺が無理矢理挿れるのが好きなの覚えてますか?」
「……煩い。」
それは、最初から一貫して変わらない凛斗の行動だった。
慣らしてくれない訳ではない。
ただ、狭いところを押し広げて挿れたがる傾向がある。
この関係が、恋人だったら、セフレなだけだったら、もっと違かったのかもしれない。
しかし、凛斗とりぃかは、形容しがたい関係だった。
恋人と言うには遠すぎ、セフレというには近すぎた。
だが、友達とも違った。
凛斗は、無理矢理という言葉を使ったが、それでも指2本入るまでは、待ってくれる時もある。
つまり、そんなこと関係ない時もあるが──。
今日の凛斗は、後者だった。
たっぷりローションを付け、中指をゆっくり抜き差ししながら根元まで埋め込めたことを確認すると、指を抜いてしまう。
「ちょ……がっつき過ぎ……。」
このままでは、りぃかには痛みが待っている。
それでも、凛斗はうっすら笑みを浮かべた。
りぃかは、どんなときでも行動で抵抗することはなかったのもあるかもしれない。
凛斗は、自分自身に、トロトロとローションを塗りたくると体重をかけられるように体位を整える。
「意識飛ばしてくださいね、りぃか。」
「っ……下手なくせに……あ!ア、アア……!!」
下手なくせに、も最後まで言えないくらいに、勢いよく体重をかけることで、無理矢理奥まで押し入って来ようとする。
「む、りっ……!いたぁ──!!」
「力入れすぎなんです。ほら、まだ、半分ですし。」
「は、う、んん!!や、う……!!」
少しずつ抜き差しして、奥へ奥へと凛斗は無理矢理りぃかのナカを押し広げていく。
凛斗の口元には、薄ら笑みが浮かんでいた。
「ほら、りぃか……根元までイケるじゃないですか。」
「いた……痛いから……!動かな、いで……!」
行為に対して拒否はないものの、少し止めようと手を伸ばした時、ぐっ、と一気に凛斗の先端を残して自身が一度抜かれる。
微かに痛みが和らいだ──と思ったのと同時にまた一気に凛斗は自身をりぃかの奥深くまで突き上げるのを繰り返す。
何度も、何度も凛斗はりぃかを突き上げ続けた。
「んんぅ……!く、あ……!は……!!」
「りぃか……気持ちよくなってきたんじゃないですか?腰、揺れてるし、」
「ちが、んん、あっ……!」
りぃかは、涙でぐしゃぐしゃな顔を凛斗に晒しながらも、拒まなかった。
「や、んん、は、あ!!」
凛斗に乱雑に何度も突き上げられ、りぃかの喘ぎ声は止まらなくなる。
段々と痛みなのか快感なのか分からない、ジンジンした感覚に襲われてくると、急激に快感が湧き上がってくる。
「ふ、あ!だめ、やめ……!イッちゃう……!」
「俺は、りぃかをイかせたいんですよ?」
「ダメ、ん、んん、ア、あ!ああっ……!!!」
ビクンビクンと全身が痙攣するようにして、りぃか自身の腹にまで白濁が飛び散った。
りぃかが意識を飛ばしかけた時、また凛斗は勢いよく突き上げ始める。
「や、あ!イったのにぃ……!!」
「俺、まだなんで。」
そう冷たく凛斗は言うと、自分勝手に腰を動かし続け、りぃかがぼんやりした目をし、ピク、ピクと震えるまで何度も精を吐き出し続けた。
「ほんと、いつも言うけど、凛斗さんって、サイテーだよね。」
好き勝手されたりぃかは、大きく溜息を吐いた。
凛斗は、行為中の自分勝手さとは違い、優しく丁寧だ。
「好きじゃないんですか?好き勝手なの。」
「凛斗さんのは、度が超えてる。」
それに、凛斗は微かに笑みを浮かべただけだった。
「体痛くて、明日集中出来なかったらどうするつもり?」
「大丈夫ですよ。集中させてあげますから。」
りぃかが凛斗に「どういう意味?」というふうにバッと顔を上げて見るも、凛斗は浴室に消えていったところだった────。
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