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第171話 綻び
そんな諦めムードの中で倭塾の新人が問題を提起した。
「オレ、たまたま国内でバイトしたんで助かったけど、一緒に遊んでたツレがカンボジアに行ったんですよ。」
仲間がやめろと言うのにパスポートを取って渡航した。
「奴は借金塗れで、闇金に手を出したんです。
スロットです。あっという間に金がなくなる。
機械相手に勝てるわけないのに止められなくなってた。」
他にも金のない仲間がかなりいたと言う。
陸も情報としては知っていた。
中華マフィアのチャイニーズドラゴンが日本の暴力団と盃事を行ったと言う。情報は登龍会にも入ってくる。
「シノギにはC国がいいですよ。
ものすごく稼げる。」
会長の堂島鉄平が訪ねてきた。
「目の前に現ナマ積まれてよ。
陸ならどうする?」
「デカいスーツケースいくつも開けて、中は日本円よ、人民元でなく。よく、用意したなぁ。
数億の金運ばせて、盃をくれって言うんだよ。」
日本のヤクザの盃の重さを知っての事だろう。
「で、断ったんですよねえ。」
「当たり前だ!
ヤクザ舐めんなって言ってやった。
奴らは、他にも組はありますよ。覚悟しなさい、って捨て台詞を残して出て行ったよ。
赤穂の天塩、袋ごと投げつけてやった。
ワハハ!」
会長は豪快に笑った。
「藤尾さんの耳には入ってるんですか?」
「当然だ。あの人が動くと国際問題になりそうだが。」
ドリーム事件もまだ解明されていない。
トクリュウ(匿名・流動型犯罪)も蔓延っている。海外に連れて行かれては手に負えない。
警察では安易な海外の仕事に飛び付かないように注意喚起しているが、効果は怪しい。
繁華街に
「海外の高額バイトは危険!」
などのポスターが貼られているが、誰も見ない。
長引く不況に失われた30年、と言っても相変わらず賃金は上がらない。
非正規雇用が増えて明日の保証もない。
「政治が悪いんや。」
「それな。一朝一夕に変えられることやない。」
「バーのカウンターで酒飲みながら、この頃の話題はそればっかりでんな。」
健ちゃんも呆れている。
「ぎりぎりの奴、見つけたら助けろよ。」
「なんや、話聞こか!言うてまんがな。」
こんな高いホストクラブには来そうもない。
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