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第173話 逃げ場

 向こうから走ってくるのは太郎だ。目立つ背の高い高校生。 「陸!」  制服のまま、グランドを走っていた。 「もう帰れるよ。マラソン大会の自主練。 グランド10周したら帰っていいんだ。」 「マジメだなぁ。誤魔化して8周位でもバレないのに。友達が待ってるぞ。」 「ああ、直樹、俺、帰るから。じゃあな!」 陸の腕を組んできた。 「いいのか、学校だよ。」  太郎は大胆になった。 「どこに行こうか?」  汗ばんで紅潮した横顔が眩しい。若さを全身で体現している。 「明日は土曜日だから泊まれるよ。 日曜日はマラソン大会だから学校に来なくちゃ、だけど。」  今日はずっと一緒だ、とはしゃぐ太郎が可愛い。この頃は徹司の許可が出ている、と言うか呆れている。諦めているようだ。  陸は思う。 こんな屈託の無い学生が、ちょっとしたキッカケであの闇バイトの罠に落ちるのだろう。 「何が悪いか、なんて一言で言えない。 極道になるのだって、そうだ。」  太郎の好きなものを食べよう、と繁華街に行った。 「何がいい?」 「うん、焼肉かな?」  旺盛な食欲は、見ていて楽しい。 ふとした瞬間に汗ばんだ髪に手を入れて抱き寄せる。 (こいつは俺のモノ。) そんなガキっぽい事を考えてしまう。  いつもの断崖のホテルに行く。 「すごい所に建ってるねえ、この建物!」 「景色がいいだろ。」 「夜は真っ暗で何も見えないよ。 波の砕ける音がすごいけど。」 「おいで。」  両手を広げて抱きついてくるのを受ける。 抱きしめる、しっかり筋肉のついた身体。  部屋に入って大きな窓から海を見ている太郎。 後ろから抱いてシャツを脱がせる。 「きれいだな,太郎の身体。」 「いつもそう言うね。」  引き締まった身体は筋肉が付いても華奢だ。 その腹を撫でる。 「腰を振るなよ。」 「なんだか、感じちゃうんだもん。 くすぐったいよ。」  首にキスをする。 「キスマーク付けて。 直樹に自慢するから。」

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