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第40話 夢みたいな幸せ

早朝、一度家に帰宅して着替えたり従兄弟の様子を見に行くと言った飾音と名残り惜しくなるようなキスをしてから、その後ろ姿を見送った。 ベランダから飾音を眺めつつ、ヤバイ、俺のイケメン彼氏自慢したい、あれが俺の恋人ですーって叫びたい、なんて考えてしまう。 それは近所迷惑だな、と思いながら自分の恋愛脳に笑っていると、飾音がふと振り向いた。 ベランダにいる俺の存在に気づいて一度その場に立ち止まると、小さく俺に手を振って再び歩き出す。 いつもは玄関でバイバイしたら、自分の用事を済ませていたから、ベランダから飾音を見ていたのはこれが初めてだ。 でも、多分、俺の勘だけど。 飾音はいつも振り返って、俺の部屋を見上げてくれていたのだろう。 だから、今日俺がいて、驚いていたんだ。 会うのは基本的に飾音の家だから、回数的には多くないとは思うけど。 駅に続く道の角を曲がって、飾音の姿は見えなくなった。 「……やっば……」 え。 なにこれ、幸せすぎる。 こんな幸せに半年間、いや十年以上気付かなかったなんて、人生損したかもしれない。 しかし、進展のなかった親友の時間もきっと、俺たちには必要な時間だったのだと思う。 飾音には長く想わせてしまった分、これから俺が一緒にいることでたくさんの幸せを感じて欲しい、と改めて思った。 金曜日、せっかく朝早くに起きたのだからと、早めに出社する。 さっさと仕事を終わらせて定時で切り上げ、飾音の家に行きたいというのが本音だが。 ご機嫌なのが会社の後輩にはバレバレだったのか、「今日はデートの予定でもあるんですか?」と聞かれて「まぁね」と笑いながら返事をする。 普段であれば、仕事に打ち込んでいる間の時間はあっという間に過ぎていくが、今日に限ってやたら遅く感じた。 幸いにも今日は定時間際で仕事を振られることもなく、皆がそわそわとしていた俺を笑顔でお疲れ様です、と見送ってくれる。 階下へ向かったエレベーターを待つのももどかしくて、浮き立つ心のままに階段を駆け下りた。 あとで思ったのだが、怪我しなくて良かった。 それくらい、俺は浮かれていたから。 定時で帰宅出来た旨と、時間が出来たから今日は俺が買い出しをしていく旨を飾音に連絡し、飾音の家に向かう。 今日はセックスしまくるぞ、と風呂場でひとりせっせと事前準備に励んでいると、何やらバタバタと騒がしい音がして、風呂場のドアが急に開いた。 「……か、飾音……?」 驚きに目を見開く俺の目の前で、髪を乱した飾音が突っ立っている。 「彬良。あのさ、俺たちって……付き合ってたりする?」 「へ? 俺はそのつもりだけど?」 俺が口を尖らせて返事をすれば、飾音は「夢じゃなかった……」と言って、その場に座り込んだ。 「ちょ、ちょっと飾音、スーツが濡れる」 俺は慌ててシャワーを止め、座り込んでいる飾音と視線を合わせて「どうした?」と尋ねた。 素っ裸なので格好つかないのは、ご愛嬌だ。 「や、俺……白昼夢でも見たかと思って……」 「そんなの、人生で一度も見たことないだろ」 思わずクスクス笑ってしまう。 ほら立って、と飾音に手を差し伸べようとして、その手がシャワーで濡れていることに気づき、引っ込めようとした。 「わ……っ」 飾音は俺の手を掴むと立ち上がり、全身びしょ濡れの俺をスーツ姿のまま抱きしめる。 「……ごめん、少し、このまま……」 「スーツ濡れても良いなら」 どうしたのだろうかと思いながら、俺は飾音の乱れた頭を手で撫でながら整えた。 少し遊び心が芽生えて、前髪を全て後ろに掻き上げる。 オールバック飾音の出来上がり。 ……ヤバイ、格好イイ! 俺がひとり勝手に胸をキュンキュンさせていると、飾音は少し落ち着いたらしく、俺から離れて洗面所へ移動した。 ドアを開けたまま、着ていた服を脱いでいく。 「飾音、一緒に入るの?」 「うん、一緒にいたい。俺さ、片思い期間が長すぎて、彬良と少しでも離れると、夢だったんじゃないかって思って不安になるんだ。ずっと……彬良と恋人になること、妄想してたから。だから……いい?」 なにそれ。 俺の知らないところでそんな妄想膨らませてくれたなんて、俺の飾音最高。 でもそうか。 飾音に幸せを感じて貰う前に、俺と離れても不安にさせないようにする方が先なのかもしれない。 スマホで連絡を入れる時も、好きだってちょこちょこ書き込もうと思いながら俺は頷く。 「勿論、いいよ。でも俺、その、色々と準備してたところで……」 ちら、と鏡の前に並べた諸々のグッズを見る。 「今日は、準備を含めて俺がしたい」 「えっ? うん、じゃあ……お願いします」 少し恥ずかしかったけど、頷いた。 男同士の行為について何も知らなかった俺に色々教えてくれたのは飾音だし、今さらだ。 不安そうだった飾音の表情が、肉食獣のそれへと変化する。 ああ、やっぱり俺は、飾音に支配されていたい。 「嬉しいな。彬良がたくさん気持ちよくなるように、頑張るよ」 飾音が顔を近づけて俺の耳元で囁き、俺のアナルがひくり♡ と期待に震えた。

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