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忠実②

 出口の方へ歩いて行く切り替えの早い蓮くんを、僕はすぐには追いかけられなかった。  やっぱり人は深く関わっちゃいけない。  いずれは憎しみ合う。最終的にはバイバイする。そのパターンには小さな差があって、過程に色んなバリエーションがある事を僕は知らなかった。  決定的な証拠なんか無い。  たった二日、一緒に過ごしているだけ。  でもどう考えても、疑われるような言動をしているお姉ちゃんが悪いよ。恋愛経験の無い僕ですら分かる事だよ。 「蜜?」 「ちょっと、待ってください」  追いかけてこない僕を不審に思ったのか、戻ってきた蓮くんが顔を覗き込んでくる。  なんだか心の中が沸々としていて、とりあえず蓮くんに待ったをかけた僕は、生まれて初めてお姉ちゃんに腹を立てていた。  蓮くんが疑いを持ったきっかけをまだ聞いていないけれど、お姉ちゃんはたくさんボロを出していたんだろうな。  大好きなお姉ちゃんが、大好きな蓮くんと幸せになってくれたら、こんなに素敵な事はないと思っていたのに。 「……許せないです」  賑やかなショッピングモールでは、僕の声はかき消されてしまう。けれど止まらなかった。 「大好きだけど許せないです。こんなのダメです。お姉ちゃんにガツンと言わないと」 「蜜、落ち着け。あと一日あるから。決定的な証拠は今夜……」 「待てません。こんなの黒です。真っ黒です。ただ食事をしてるだけでも、蓮くんに黙ってあんなの……あれはれっきとした浮気ですよ!」 「あ、おい! 蜜!」  頭に血が上っていて、蓮くんの制止も聞かずに浮気カップルのもとへ勇んだ。  周りなんか見えなかった。  ただただ、僕の大事な人が大好きな人を裏切った事が許せなくて、どういうつもりなんだって問い詰めたかった。  蓮くんに相談されても、信じていたのに。  信じていたから、尾行を手伝うのは気が進まなかったのに。  僕の絶対的な味方で、恩人で、感謝しれないほど感謝していて、だからこそ幸せになってほしいと思っていたのに。 「……何してるの」 「蜜っ!? な、なんでこんな所に……!」  二人の座るテーブル席をめがけて行くと、お姉ちゃんが目をまん丸にした。  なんでこんな所にって、僕が聞きたいよ。  僕が退屈しないようにと蓮くんが連れ出してくれたここで、まさかお姉ちゃんの裏切りを目撃するなんて思わなかったよ。  それに何より一番驚いてるのは、蓮くんだろう。 「……とりあえず場所を移動しましょう」  お姉ちゃんは立ち上がると、向かいに座る男の人に「待ってて」と声をかけて僕の腕を掴んだ。  人目があるからというのは分かるけれど、僕もなりふり構っていられない。  一度頭に上って沸騰した血は、なかなか冷めないんだ。 「お姉ちゃん……蓮くんのこと裏切っちゃダメだよ」 「裏切ってないわよ、人聞きの悪い!」 「裏切ったじゃん! なんで……っ、なんであんなにかっこ良くて優しい人を裏切れるの!?」 「だから裏切ってないってば!」  お姉ちゃんにどこかへ連れられる道中で、姉弟喧嘩が勃発。こうして言い合うのは初めてだった。  この目でしっかりと目撃した浮気現場を、ことごとく否定し続ける神経が分からない。  後ろからついてくる蓮くんの存在を忘れていた僕は、本当に腹が立っていた。  あまりにもイライラして、人通りの少ない場所で我慢出来ずにお姉ちゃんにこう言った。 「……ちょうだい」 「え?」  当然お姉ちゃんは首を傾げる。  伝わらないならと、僕は続けた。 「蓮くん、ちょうだい」 「ちょ、ちょうだいって……」 「蓮くんのこと好きでいていい権利、ちょうだい」

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