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忠実
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結果僕はベッドを使うように言われたものの、ほとんど眠れなかった。
そばに蓮くんが居る。軽くてふわふわの毛布から、蓮くんのいい匂いがする。それをすっぽり被ると、まるで蓮くんに抱きしめられてるみたい──。
視覚と嗅覚が研ぎ澄まされて、何度も寝返りをして、床で寝ている蓮くんの姿を出来るだけ見ないようにしても、ずっと緊張状態が続いているせいで脳がまったく休まらなかった。
明け方ほんの少しだけ落ちたんだけれど、起き抜けの蓮くんからの「おはよ」が僕の眠気をふっ飛ばした。
破壊力抜群の微笑みも相まって、僕なんかがこんなにも贅沢で幸せな経験をしていいのかと猛烈な不安に駆られた。
けれど蓮くんは、昨日に引き続き上機嫌だ。
モーニングを食べに誘ってくれたかと思いきや、その後は家族で賑わうショッピングモールに連れて行ってくれて、何を買うでもなくウィンドウショッピングをした。
蓮くんの隣を歩くとすれ違う人達の視線が痛かったけれど、そんな事よりも擬似デート体験に僕の心は浮ついていた。
あまりにも出来すぎた展開だと、本来の目的をうっかり忘れそうになるくらいには楽しんでしまった。
「── お、いたいた」
夕方前、そろそろ帰ろうとショッピングモールを後にする間際、蓮くんがふと立ち止まる。
僕も同時に立ち止まって、一点を見つめる蓮くんの視線の先を追い掛けた。
「あっ!」
思わず声を上げてしまう対象を見つけた僕は、呑気に浮ついていた自分を叱咤した。
僕と蓮くんの視線の先には、なんとお姉ちゃんが居たんだ。
「なんで……」
ラフな格好でお姉ちゃんに笑いかけているのは、昨日見た知らない男の人。
誰がどう見てもカップルにしか見えない二人は、これから食事をするみたいでフードコートの店舗を見て回っている。
僕は、唖然とした。
とてもじゃないけど蓮くんの顔を見る事が出来なかった。
なんで……どうして……?
僕はもう、庇えないよ。
蓮くんに隠れて二日続けて会っている時点で、黒に近いと思わざるを得ない。
「ステーキとラーメンで悩んでんな」
「……」
「やっぱりステーキ選んだか。花はあんな細えわりに肉好きなんだよな」
「…………」
離れた位置から二人を見守る蓮くんは、一人で呟いて一人で納得し、フッと鼻で笑う。
声をかけるでも証拠を撮るでもなく、ただジッと二人を目で追う蓮くんにかける言葉なんか見つからない。
公衆の面前で問い詰めるわけにはいかないからか、はたまた笑うしかない状況だからなのか、まったく動こうとしないわりには証拠を撮らないのが気になったけれど……。
「……蓮くん」
「ん?」
きっとショックでそれどころじゃないんだ。
問い詰めるための材料を集めると言っていたけれど、いざ現場を目撃しちゃうと頭の中が真っ白になるよね。
裏切られた、だなんて思いたくなかったはずだもん。
「蓮くん、あの……」
「俺らもパーッとうまいもん食って帰るか」
「……」
── あ、そうか。やっと気付いた。
昨日からどうしてこんなに蓮くんの機嫌がいいのか。
いや……そうじゃない。機嫌がいいわけじゃなく、恋人の浮気現場を目撃したら空元気でいなきゃやってられないんだ。
僕の手前、優しい蓮くんは感情を抑えているに違いない。
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