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08-4 好きになってしまうじゃないか(4) 灯りの散歩道

夕暮れが訪れると、王都は再びざわめきに包まれた。 無数の提灯が灯され、夜空には花火が咲く。 昼間の熱狂が冷めるどころか、夜の幻想に変わり、人々の笑顔はより鮮やかに輝いていた。 ユリウスは王としての役目を終え、こっそりと城を抜け出していた。 護衛には当然レオンハルトがついてくる。 「……祭りの夜くらい、一人で歩きたかったのに」 不満げに言うユリウスの隣で、レオンハルトは肩をすくめた。 「無理言うな。子猫ちゃんが人混みに放り込まれたら、一瞬で迷子だろ」 「なっ、お前……!」 ユリウスの頬がふくらむ。 だが、心の奥では当然のこと、嬉しくて仕方ない。 (こいつと一緒なら、迷子になってもいい……むしろそしたら……) そんな風に思ったユリウスは、「ほら、いくぞ」と手を引くレオンハルトの顔をチラッと伺った。 **** 二人は人混みを抜け、小さな裏通りへと足を運んだ。 喧騒から外れた場所には、屋台がぽつんと並び、香ばしい匂いが漂っていた。 「ほら、綿菓子だ。甘いの好きだろ?」 レオンハルトが買ってきた大きな綿菓子を差し出す。 ユリウスは戸惑いながらも、恐る恐る一口。 「……甘い」 「だろ? 顔がとろけそうになってんぞ」 「なっ……! べ、別に……!」 言葉とは裏腹に、頬がほんのり赤らむ。 そんな様子をレオンハルトは楽しげに見つめていた。 「……お前は、本当に何でもない顔で私をからかうんだな」 「お前が可愛いからな」 「……!」 その一言に、ユリウスは思わず立ち止まった。 胸が跳ね、視線を逸らすことさえできない。 「か、可愛いって……王に向かって、なんて無礼な……!」 「じゃあ、王じゃなくて一人の男、ユリウスとして言う」 レオンハルトの声は、真剣味を帯びていた。 「……お前は、可愛い」 心臓が破裂しそうな沈黙。 周囲の喧騒が遠のき、二人だけの世界が広がる。 「……ずるいぞ、そうやって……」 ユリウスは小さく呟き、綿菓子を見つめたまま俯いた。 「私は……王になったんだ。弱いところなんて、誰にも見せてはいけないのに」 レオンハルトは黙って近づき、彼の肩に手を置いた。 「誰にも見せられないなら、俺だけに見せりゃいい」 その言葉に、ユリウスの胸の奥が熱くなる。 ずっと抑えてきた不安も、孤独も、溶かされていくようだった。 「レオン……」 名を呼んだ瞬間、花火が夜空に咲いた。 鮮やかな光が二人を照らし、影を重ねる。 ユリウスは花火を仰ぎながら、そっと心に決めた。 (もしも……もしもこの人が隣にいてくれるなら。私は、王として永遠に歩んでいける……) そしてほんの一瞬、彼は無意識のままレオンハルトの袖を掴んでいた。 それだけで、胸のざわめきが少し落ち着いた気がした。 「……俺を決して離すなよ、子猫ちゃん」 「なっ……!」 顔を真っ赤にしながら、ユリウスは袖を放そうとした。 だがレオンハルトは握り返すように、彼の小さな手を包んだ。 「……まぁ、俺がお前を離さないがな」 「……!」 夜空に響く花火と歓声の中、二人は唇を重ねた。 二人だけが別の鼓動を共有していた。

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