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15-2 愛してる、誰よりも(2) 聖都への行路

聖都からの召喚状が届いて三日後。 王城の前庭には、白銀の甲冑をまとった騎士たちが整列していた。 太陽の光を受けて、まるで氷柱のように輝いている。 その中央に立つのは、黒髪を後ろへ撫でつけた鋭い眼差しの女――聖堂騎士団長、ガイウス。 「聖者レオンハルトを、聖都へ護送する。王家の協力を期待する」 その声は冷たく、響き渡った。 玉座の間の階段に立つユリウスは、睨むように目を細める。 「協力、だと……? それは拘束と同義ではないか」 「聖都の意志は絶対だ」 ガイウスの返答に、一歩踏み出そうとしたユリウスの腕を、レオンハルトが横から押さえた。 「まぁまぁ。俺の足で歩くんだから、護送って言葉は似合わねぇだろ」 「黙れ、異端者」 「ほぉ。初対面から随分な言いぐさだな」 火花が散るような視線の応酬。ユリウスは声を荒げそうになるが、レオンハルトに軽く肩を抱かれて足を止める。 「子猫ちゃん、ここで噛みついたらお前が損するぞ」 「だが……!」 「大丈夫だ。俺はお前を残していかない」 その一言に、胸の奥のざわつきが少しだけ収まる。しかしユリウスの瞳はなお怒りに震えていた。 こうして、聖都への旅路は始まった。 昼は騎士団に囲まれた馬車の中。 窓から見えるのは、騎士たちの銀の鎧と、広がる大地。 だが景色を楽しむ余裕などない。 馬車の中には、ユリウスとレオンハルト、そして監視役として一人の聖堂騎士が同席していた。 「……まるで罪人扱いだな」 ユリウスが小声でつぶやく。 レオンハルトは肩をすくめ、腕を組んで座っていた。 「まぁ、連中から見れば俺は異端者だ。拳で神の奇跡をやるなんて、気に食わないんだろ」 「異端者? ふざけるな! お前はこの国を何度も救った英雄だ!」 「はは。お前がそう言ってくれるだけで十分だ」 横に座る騎士が咳払いをした。 「無駄口は慎め」 「おう、すまんな。恋人同士の会話を邪魔するのは野暮ってもんだぞ?」 「……!!」 ユリウスは顔を真っ赤にしてレオンハルトの腕を叩いた。 「な、なにを口走っているのだ!」 「事実だろ?」 「しっ、静かにしろ!」 騎士は無表情で目を逸らしたが、耳がわずかに赤くなっていた。 夜。 一行は街道沿いの宿に泊まった。 とはいえ部屋は別々ではなく、監視役の騎士が近くの部屋で待機している。 小さな部屋に押し込められると、ユリウスは深く息を吐いた。 「……やはり我慢ならん。どうしてお前が、こんな屈辱を……」 その言葉を遮るように、レオンハルトはベッドに寝転び、片腕を伸ばす。 「ほら、こっち来い」 「なっ……なにを言って……!」 「夜くらい、甘えてこいよ。外じゃ格好つけても、ここじゃお前は子猫ちゃんだろ?」 顔を真っ赤にしながらも、ユリウスは抗えなかった。 躊躇いがちに彼の胸に寄りかかると、すぐに大きな腕に抱き寄せられる。 「……あったかいな」 「お前、震えてるな。怖いのか?」 「こ、怖くなど……!」 「強がるなよ。けど、そんなお前も可愛い」 耳元で囁かれ、ユリウスの心臓が跳ねる。 騎士団の監視がどれほど厳しくとも、この腕の中だけは安らぎを覚えてしまう。 「私は……必ず守る。何があっても」 「その言葉、ちゃんと覚えておく。俺を守る王様……悪くないな」 「ばっ……ふざけるな!」 「ふざけてないさ」 二人の指が絡み合う。 窓の外に月が浮かぶ頃、互いの温もりに包まれながら眠りについた。 一方その頃。 宿の外で月を見上げていたガイウスは、静かに呟いた。 「異端者は必ず、聖堂の裁きで潰す」 その瞳には、一切の迷いも情もなかった。

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