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パーカーの君が好き。(最終話)
【冬森 郁斗side】
東峰って、何ていうか……
「せ、先輩…っ あのっ」
「ん?」
うるうると潤んだ瞳。緊張で染まった頬。不安そうにへの字に下げられている眉。
「ゆ、ゆっくり……して、ください」
瞳を揺らして言う彼に、俺はがくりと頭を下げた。
何故ってそれは、男のくせに、東峰は色気があり過ぎるから。
ぽんぽんと、目元に涙を浮かべる東峰の頭を触る。
「分かったよ」
それだけ言うと、東峰は安堵したように表情を柔らかくした。
こういう行為をするのは初めてじゃない。
でも、当然だけど、男とするのは彼とが初めてで。
だから、彼とするまでは実際どうなんだろう…って、色々考えたりもしてた。
だけど、
「…っぅ」
東峰全然、……可愛いもんだから。
緊張と不安に耐えている東峰の健気な姿を見ていると、無性に虐めたくなるような、鬼畜な気持ちになってくる。
でも…ダメだ。落ち着け、俺……。
その気持ちをぐっと堪えて、ゆっくりと彼のナカに入れていく。
「大丈夫?」
尋ねると、東峰は涙目でこくりと頷き、
「あ…の、先輩」
そう言って、俺の首裏にそっと手を回してきた。
あ……。
その仕草に、初めて彼とエッチした時のことを頭に思い出す。
あの時もこうやって、東峰に腕を回されて、先輩先輩って…言われたんだっけ。
俺はおとなしく東峰に抱きつかれながら、ふっと頬を緩ませる。
少しだけ腰を引いて、また彼の熱いナカに自身を押し進めた。
「んっ」
「痛い?」
ビクッと体を揺らす彼に問うと、東峰は首を左右に振った。
「……先輩」
潤んだ瞳で俺を見上げ、吐息を吐くようにして俺を呼ぶ東峰のえろさといったら、半端じゃあない。
「うん?」
優しく聞いてやると、東峰は唇を小さく動かす。
何を言うのかと思ったら、
「好きです………」
と、呟いた。
あー…もう。どうしてやろうか、この天然たらし。
そんなこと言われたら、手加減できないんだけど…
こいつ分かってねぇんだろうなぁ…とか。
「東峰。ちゃんと持ってて」
東峰は俺の言う通り、ぎゅっと、俺の背に回した手を強くした。
従順な東峰はすごく可愛い。いや、――も、か。
*
東峰はその後、甘い声を上げ続けた。
「…先輩…っ」
あの日は分からなかった東峰の気持ちが、今はちゃんと分かる。
繊細な彼の想いが、俺を呼ぶ言葉の端々から、背に回された手の感触から、
ピンク色に染まった頬から、震える唇から、潤んだ目元から。
至るところから、痛いほどに…伝わってくる。
彼が流していた涙は、きっと、“悲しみの涙なんかじゃなかった”。
体を重ねながら、俺は彼と――心が通じ合うのを感じた。
***
行為後、隣で布団を被って寝そべる東峰が、横にいる俺の方へちらりと振り向く。
「なに?」
訊ねると、長いまつ毛を伏せながら、東峰がどこか照れたように呟く。
「冬森先輩がいる…って、思って」
「何言ってるんだよ」
また、そんな変なこと言って…。
東峰は、ほんのり口元を綻ばせて、俺の顔を見つめる。
俺は誘われるように、隣にいる彼の唇にキスをした。
俺はどうやら、彼のことが好きで堪らないらしい。
真面目で、素直で、
俺とは考え方も、性格も、服装も、何もかも違う、
“パーカーがよく似合う――彼のことが”。
「好きだよ」
唇を離した一瞬の間のあと、囁くように彼に告げる。
カッコよく決めたつもりが、何故か東峰が可笑しそうに笑う。
ちゅ、と東峰に唇にキスをし返され、驚いていると。
東峰がまた、恥ずかしそうにしながらも、幸せそうに笑いだす。
俺は絶えず笑顔を浮かべる彼を見つめ、同じように口元に緩く弧を描いた。――
【完】
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