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第1話 誕生日は期待しない
八分咲きの桜が彩っている閑静な住宅街。
月明かりに照らされた薄桃色は、白く舞う雪のようにも見えた。
その中を、俺は一人で歩いている。
右手にはデパ地下で買った和牛ステーキと数種類の惣菜が入ったビニール袋。
左手には桜のクリームを使ったホールケーキが入った四角い紙の箱。
今日は俺の誕生日だ。
自分で誕生日祝いを用意するなんて独り身の寂しい奴みたいだけど、俺にはちゃんとパートナーがいる。
白井優一さん。
俺より六歳上の三十三歳。
名は体を表すとはよく言ったもので、色白の肌に優しさが滲み出た甘い顔。
物腰柔らかく、人当たりもいい。
社内で接点がなかった俺たちだけど、交際、同居に発展したのは、一昨年の暮れ、社員旅行で俺が女性陣に絡まれていたところを「部屋飲みする約束してたよね?」と助けてもらったのがきっかけだ。
口実を嘘にしないため優一さんの部屋で飲んでいたら、酒の勢いで互いにカミングアウト。
勢いのまま一夜を共にし、その流れで交際スタート。
その後、休日を待てなくなった俺が同居を申し込んだ結果、今に至る。
この世の春を謳歌している俺たちだけど、一度だけ衝突……というか、俺が一方的に泣き散らかしたことがある。
ちょうど一年前、優一さんは俺の誕生日を忘れていた。
かなりショックだった。
いい歳した大人がって思うかもしれないけど、付き合って初めての誕生日くらい期待してもいいだろ?
でも、俺の考えが甘かったのも認める。
年度末かつ新年度直前。
繁忙期を迎えた人事部にいる優一さんに、他のことを考える余裕はない。
そのことに気付けず駄々を捏ねた俺も悪い。
俺の誕生日と優一さんの仕事の相性は最悪。
だからこそ、今日は俺の誕生日会と優一さんの慰労会を兼ねることにして料理を買い込んできたんだ。
今日も優一さんは俺が起きる前に家を出て行った。俺の誕生日だということを忘れて。
悲しい回想をしていると、いつの間にか家に着いた。
優一さんはまだ帰ってきていないはず。
そう思ってドアを開けたら、オレンジ色の光が俺を照らした。
電気つけっぱなしにしたかな。
「ただいま、っと」
「おかえり」
聞けるはずのない声。
脱いだ靴から視線を上げる。
俺は、そろそろとリビングから現れた優一さんに釘付けになった。
だって優一さんは、俺がよく着ているグレーのシャツ――もちろん大きくて萌え袖になっている――と、大変けしからんパンツを履いた、所謂彼シャツ姿だったからだ!
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