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第2話 二年分のバースデープレゼント

 僕の彼氏力に点数をつけるならば、マイナス一万点だ。同居している彼氏――手塚大――の誕生日をスルーするなんて最低すぎる。    でも、言い訳はさせてほしい。  誕生日は覚えていた。  プレゼントも用意していた。  それでも、大から誕生日を忘れられていたと思われているのは、僕のこだわりのせいだ。    電話でもメールでもなく、直接「おめでとう」と言いたい。  その方が、よりお祝いの気持ちが伝わると思うから。    大の誕生日は僕の繁忙期真っ只中。  大が起きる前に家を出て、大が寝た後に帰宅する。  だから、お祝いしたくてもできなかった。    でも、その週末、大に号泣されて気付かされたんだ。  いくら直接お祝いを言ったとしても、当日でなければ意味がないことに。    僕は決意した。  もう二度と、大を悲しませないと。  僕は今年、繁忙期に入るよりも前から大の誕生日に休みを入れ、料理の試作を重ねたり、プレゼントの腕時計を用意したり、着々と準備を進めた。    あとは、去年の巻き返しを兼ねて何か別に用意しよう。  そう思ってネットを見ていた時、ある煽り文句が目に入った。   「あなたが最高のプレゼントになればいいんじゃない?」    可愛い下着を着てパートナーに奉仕するという、エッチなプレゼントを提案する記事。  これだと思った。  だって、ベッドの上では歳上のくせにリードもできず、大が与えてくれる快感に善がるばかりだから。  僕は早速、エッチな下着を取り寄せた。    そして当日。  サプライズでお祝いしたかったから、僕はいつも通り大が起きる前に家を出て、大が出勤した時間を見計らって家に戻った。  家中を飾り付け、ステーキをメインにした料理と苺のホールケーキを作っていく。  そして、大の帰宅時間に合わせて夜の準備も済ませる。    全部の準備が整った頃、ガチャリと玄関ドアが開く音が聞こえた。  僕は胸を逸らせながら、そろりそろりとリビングから廊下に出る。   「おかえり」    こんなエッチな姿を見られるのは恥ずかしい。  モジモジしながら出迎えた僕を、大は目を見開き、口をぽかんと開けて凝視した。   「ゆ、優一さん? なんで家に? いや、てか、その格好……」    大がびっくりするのも無理はない。  僕が着ているのは、大のシャツとネットで買ったエッチな下着だけ。   「大、誕生日おめでとう。僕、去年ちゃんとお祝いできなかったでしょ? だから、ね?」    恥ずかしさで視線が彷徨い、最後は消え入りそうな声になってしまった。  そんな僕を大は引き寄せ、猫を撫でるように頬をくすぐる。   「優一さん、ありがとう。最高の誕生日です」 「大の好きなステーキも、ケーキも作ったんだ。一緒に食べよう?」 「はい。でも、先に優一さんを食べたいです」    耳元に吹き込まれた、低く掠れた甘くて淫らな吐息。  くちゅりと首筋を啄まれたのを合図に、僕は大の手を掴んで寝室のドアを開けた。  そして、大をベッドに座らせ、その足の間に体を滑り込ませる。   「優一さん?」 「今日は僕がする」    戸惑う大を見上げながらベルトを外し、スラックスのチャックを下げる。  黒い無地のボクサーパンツを下ろすと、元気な大の剛直が顔を出した。  その先端にキスをして、そして口に含んだ。    熱くて大きなそれは、僕の口の中でびくりと跳ねる。  それが可愛くて、大がいつも僕にしてくれるように吸いながら唇で愛撫していく。   「ふ……気持ちいい、です」    大から髪をくしゃりと掻き乱される。  大を気持ち良くさせているのは僕だ。  それが嬉しくて激しく動くと、口内にじわりと苦味が広がる。  でも、それは何故な蜂蜜みたいに美味しい。   「優一さん」 「ん?」    甘く蕩けるような声で名前を呼ばれて動きを止めると、両脇を抱えられて大の膝の上に乗せられた。   「ごめんなさい。せっかくだけど、もう我慢できないです」 「でも」 「可愛い優一さんを気持ち良くしたい。駄目ですか?」    僕を見上げる潤んだ瞳。  こてんと傾けられる首。  そんな可愛いおねだりをされて、断れるわけないじゃないか。  確信犯め。   「いいよ、大の誕生日だからね」    甘やかすように唇を重ねると、下からがぶりと噛みつかれた。  長い舌に、僕の舌の裏側をしつこく舐められ、背中に痺れが走る。  薄らと開けると、情欲の炎が揺らめいている目に貫かれ、それだけで腰がずんと重くなった。    僕を支えるように添えられていた手がシャツを捲り、背中を泳ぎ回る。  浮き上がった肩甲骨をくすぐられると、お尻がきゅっと反応した。  それに気付いた大の手が、するするとそこを目指して下りていく。   「こんな可愛い下着。どこで買ったんですか?」    意地悪く聞く大は、僕が履いている下着のウエスト部分に指をかけた。  総レースのジョックストラップ。  白兎をモチーフにしたそれは、ウエストのお尻側に丸い尻尾が付いている。   「ネットで買ったんだ」 「受け取りは?」 「駅前の宅配ボックスで」 「何それ。エッチですね」    くすくすと笑う大は、僕のお尻を撫でまわし、白い尻尾をツンと突いた。  感覚が繋がっているはずがない。  けれどその瞬間、お尻の中を刺激されたような感覚に襲われた。    どうしよう、我慢できない。    大の腕の包囲網から抜け出した僕は、ベッドに四つん這いになる。  お尻を高く上げて肩をシーツに沈め、手を後ろに伸ばす。  そして、大がよく見えるようにお尻を掴み、左右に開いた。   「ねえ、大が欲しい。ここに大の、早く挿れて」    キュンと収縮を繰り返すお尻。  左右に開かれたことで中に仕込んでいたローションがとろりと流れ出す。   「可愛い兎さんですね。そんなに食べられたいなら、ご希望通り食べてあげます」    ごくりと喉を鳴らした大は、服を脱いで僕にのしかかった。  僕の手の上からお尻を掴み、そこをじっと見てくる。   「うん、早く食べて。準備、してあるから」    重なった大の手を掴んで、濡れたお尻の穴の中に僕と大の指を沈める。  頑張って準備したそこは、柔らかく、そしてきつく指を締め付けた。   「本当だ。ちゃんと準備できて、偉いですね。でも、優一さん。準備する時、ひとりでシたでしょ?」 「しっ、した……」 「我慢できなかったんですか?」 「だって、ずっとしてなかったから」 「そうですね」 「でも、ね。大に触ってもらうところ、届かなくて、もどかしくて……」    準備した時から、ずっと中が疼いて止まらない。  僕は我慢できず、浅いところにある、どうしようもなく感じるところに指を当てようとお尻を振る。  すると、同時に兎の尻尾も左右に揺れた。   「じゃあ、早くご褒美をあげないと、ですね」    くちゅ、と音を立てて抜かれた指。  それを追いかけてお尻を突き出すと、固くて熱い大の剛直が押し当てられ、お尻の穴に擦り付けられる。先走りで滑った熱いもので刺激されると中がキュンと疼いた。  そして、ぐぷっと入ってきたそれを、僕のお尻は美味しそうに飲み込んでいく。   「あ、あ……!」    浅いところを擦り上げられながら奥まで貫かれる。  求めていた熱がやってきて、焦れていた僕は呆気なく白濁を散らした。   「う、うそ……」 「優一さん、可愛い」    大は僕が着ているシャツを脱がせ、繋がったまま器用に僕を仰向けに変えた。  その動きだけで、僕はまた軽くイッてしまう。   「もっと食べてもいい?」    獰猛な欲を抱えた大は、肩に担いだ僕の脚に唇を寄せねっとりと舐った。  その視線に射抜かれ、期待にぞくりと肌が粟立つ。   「いっぱい、食べて」    途端、激しく奥を突かれる。  絶え間なく打ち寄せる快感の波に翻弄され、僕は大にしがみついた。  揺れる視界は、目を細め、愉悦に耐えている雄の顔をした大で占領されている。 「優一さん」と何度も僕を呼ぶ大が愛しくて、僕も大の名前を何度も口にした。   「大……大、イクッ……イッちゃう!」 「はい、俺も……もうッ……優一さん、好きです!」 「僕も、大が好き、ぃ……!」    絞り出すような高い嬌声を上げると同時、僕と大は奥の奥で繋がり、真っ白な快楽の上昇気流に打ち上げられた。  息が整うまで待てない。  僕らは唇を重ねて吐息を交換しながら絶頂の余韻を味わい、そしてまた、愛しい気持ちを伝え合った。  *  下弦の月が現れた頃、僕と大はリビングのソファでぴったりくっついて座り、遅い夕食を食べ始めた。  僕が作ったものと、大が買ってきてくれたもの。  パンやサラダ、メインのステーキは四人分。  ホールケーキは二個。  二人で食べるには多いけど、夕方からついさっきまで体を重ねていた僕らにはちょうどいい。   「俺たち、同じこと考えていたんですね。料理が全部同じ」 「そうみたい。来年はサプライズなしにしよう」    僕はこくりとスパークリングワインを飲んだ。  シュワッと口の中で弾ける酸味が絶妙にいい。  でも、今度は甘いものも欲しくなって、ケーキにフォークを突き立てて切り取り、フォークの腹いっぱいに乗ったそれを頬張る。   「その前に、優一さんの誕生日ですよ」 「あ、そっか」 「六月七日ですよね。少し早めの夏休みってことで、旅行に行きませんか?」    僕と同じようにケーキを口にした大の手が腰に回る。  より密着した体は、また誘われているのかと思うほど。  それなら、しっかり期待に応えましょう。   「いいね。温泉とかどう? 部屋付き露天風呂のある旅館とかさ」 「あ、優一さん。エッチなこと考えてるでしょ」  エッチなことを考えているの大の方だ。でも、僕は狡くて優しい大人だからね。責任転嫁されてもいいんだ。 「駄目?」    こてんと大の肩に頭を乗せる。  鼻腔を擽るのは、僕と同じボディソープの匂い。  その匂いを嗅ぐと、弧を描く唇に吸い付きたくなってきた。   「まさか。大歓迎です」    重なった唇。  それは、苺と桜が混ざり合った甘い甘い味がした。

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