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第27話 召集、そして——
——結局ヤられてしまった…
晴人は、雨のそぼ降る空を見つめながら、昨夜の熱の名残を体中に感じ、大きくため息をついた。
場所は新宿——陰陽庁の庁舎前である。たっぷりと晴人の精気を補給した百八はやる気満々といった様子で、尻尾をピンと立てたまま、彼の肩に乗っている。
——ま、いざという時のためにも霊力の残量不足は困るし、仕方ないか…
そう思いながらも、自分の乱れ具合や百八に施されたさまざまな性技の数々を思い出し、晴人は思わず恥ずかしくなる。
何でよりによって「淫」の式神と誓約をしてしまったのだろう。初めて彼の強さを目の当たりにしたときは、「当たり」だと思ったものの、ミヤビやレイといった、一枚も二枚も上手の陰陽師たちを見ていると、そんな気持ちもすっかり薄れていく。
——今更そんなこと言っても仕方ないんだけど…
今日は日曜日とあって、この天気でも新宿の街は賑わっていた。しかし、庁舎の辺りだけは空気が澱んでいるように感じられるのは気のせいだろうか。
それとも、これから再び任務を行わなければならないという緊張感が、晴人の視界を歪ませているのか。
(本日午後一時、新たなお仕事の依頼がありますので、執務室にお集まりください。)
鶴原から、晴人のLINEにそんなメッセージが入っていたのは今朝。それはほとんど召集令状のようなものだった。
昨日の今日でまた任務。結局、快楽に飲み込まれた晴人は、百八の言う「強力な力を手に入れる方法」とやらをろくに聞くこともできず、再び仕事をこなさなければならない。
「晴人、今日は昨日よりもっと強い奴と戦えるんだろうな」
「…もしそうだとしても絶っっ対に大人しくしてろよ。今度邪魔したら次はないからな」
「分かってる分かってる。いい加減俺を信用しろよ、あんなことまでした仲だろ」
「…ああもうマジで憂鬱」
そんな会話をしながら、エレベーターに乗り、局長の待つ執務室へと向かう。
レイとミヤビの冷たい顔、そして底知れないものを感じる鶴原の笑顔を思い出しながら、晴人はだんだん体が緊張してくるのを感じた。
——一体今日は、どんなミッションなんだろう?てか俺の存在って必要?ただ足手まといになってるだけじゃんか…
内心で再び大きなため息をつきながら、局長の部屋のドアをノックする。ドアを開けてくれた秘書に導かれ、奥の執務室へ入ると、そこにはすでに第4グループのメンバーが勢揃いしていた。
レイとミヤビは相変わらずの無表情、そして、一葉は眉間に皺を寄せた不機嫌そうな顔。唯一、響だけが、額に人差し指と中指を当て、小さく「よう」と言って晴人を出迎える。
「あ、すみません、お待たせしました」
慌ててその場に立つ4人の末席に加わると、鶴原はソファの上で笑顔を見せた。
「いえいえ、時間には遅れていませんのでお気になさらず。それよりも、昨日の今日でお疲れのところ、お呼びたてしてしまい申し訳ございません」
——ええ、全くその通りです。
申し訳なさを微塵も感じさせないその口調にやや不信感を抱きながら、晴人は小さく会釈だけして、なるべく目立たないよう部屋の隅に立った。
「では」
鶴原がソファに体を沈み込ませたまま口を開く。
「皆さんがお揃いになったということで、本日の任務についてご説明しましょうか」
「よろしくお願いいたします」
レイが、グループを代表するように言った。
鶴原は大きく頷くと、全員を見渡しながら、言葉を繋ぐ。
「昨日は、二手に分かれて新宿近辺の再調査を行なって頂きました。その結果、鴻巣様たちのチームが、我々にとって新たな鍵となる有益な情報を持ち帰ってくださいました。それは、もののけが発した『三隠者』という言葉です。今日はこの、『三隠者』について——さらに、調査を進めて欲しいのです」
そこで、一葉が腕を組みながら尋ねた。
「その『三隠者』について、何か具体的な目星はついているんですか?」
鶴原は、笑顔を崩さずに「いいえ全く」と、首を横に振る。
「陰陽庁のデータベースを当たっても、そのようなキーワードに該当する情報は見当たりませんでした。私個人としての見解ですが、恐らくは古参のもののけではなく、新たに発生した勢力なのではないかと踏んでいます」
「『三隠者』って言うからには、三体のもののけなんすかね」
響が、体育会系らしい太い声で、鶴原に向かって質問する。
「そうですね、しかも『強力な』、と言っても良いでしょう。晴人様のお父上たちが張った結界に、ヒビを入れるほどの妖力を兼ね備えているわけですからね」
「カグラの封印を解く理由は——やはりもののけ全体の勢力の拡大でしょうか…?」
レイが、顎に手を当てながらまるで独り言のように呟く。
「分かりません」と鶴原は応じ、コーヒーを一口啜った。この男はいつもコーヒーを飲んでいる。
「ですが、昨日鴻巣様たちが祓った、恐らくは末端のもののけにまでその名が知られているということは、さらに上位のもののけに当たれば、もっと有益な情報が手に入るはず——」
——おいおい、昨日のあいつって「末端のもののけ」なのか…
百八が苦戦していた様子を頭に蘇らせながら、晴人は心の中で呟いた。
——この話の流れからすると、嫌な予感しかしないんですけど…
「そこで」と、鶴原は晴人の心の声を読み取ったかのように、一段階声のトーンを上げて、再びメンバー全員を見渡して言った。
「今日は五人全員で、この『三隠者』に関する情報の収集にあたってもらいます」
「場所の目星は?」
レイが尋ねる。
「確実ではないのですが、一応ございます」
「でもさっき、対象の目星はついてないって」
響の質問に、鶴原が答えた。
「まあ、ほぼ私の勘というやつですかね」
「また新宿近辺ですか?」
ミヤビが聞くと、鶴原は首を横に振った。
「いえ、今回はちょっと遠足に行って頂こうかと」
「遠足?」
一葉が眉を吊り上げる。
「はい」と答えると、鶴原は立ち上がって、まるでクイズ番組の司会者のように腕を広げ、笑顔でこう言った。
「本日皆様に向かって頂く先は——京都です」
——あのー、だから俺の本業は大学生だってお忘れじゃないですか?
晴人は、そう思いながらも、抗いきれない自分の運命を静かに悟っていた——
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