1 / 6

プロローグ

「これがご主人様の望んでいたことだよね?」  甘く蕩けるような声が、談話室に響いた。数分前まで部屋を明るく照らしていたシャンデリアは無残にも砕け散って、月明かりだけがぼんやりと室内を照らしている。赤い絨毯の上には、複数の人間が物のように転がっていた。  そんな惨たらしい光景の中で、濃紺の髪を持つ青年と、銀髪に狼のような耳と尻尾が生えた獣人の二人が、部屋の隅で対峙していた。銀髪の獣人──リベルはゆったりと赤い目を細めて、恍惚とした笑みを浮かべた。 「僕、ご主人様の言うとおりにしたよ。ねえ……褒めて?」  リベルは自らの「ご主人様」──ユリウス・フリートウッドのもとに近づいて跪き、彼の手を取って自らの頬をすり寄せた。  彼の行動に、ユリウスは身体をびくりと震わせた。敬虔な信徒のような盲目さ、それでいてドロドロとした執着が見えるような視線に、背筋が凍りつく。 (たしかに「俺を守ってほしい」とは言ったが、まさかここまで過激な行動に出るなんて……)  ユリウスは震える手でリベルの頬を撫でながら、彼と出会ったときのことを思い返していた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!