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【完結】第11話 二人で……

「僕、ですか?」 「あぁ、タクシーに乗せた日。彩真くんと話した時間が心地良くて。癒されたというか……自然すぎて初対面だとは思えなかった。でも翌日に風邪で呼び出さなければ、それっきりだったよ。きっとね。  普段はタクシーは使わないって言ってたし、会いたいって思ってくれたとして、その理由だけで電話をかける人だとも思えなかった。お互い、まだ同性愛者だと暴露もしてなかったから、まさか電話がかかってくるとは思ってなかった」  加賀美は、風邪で苦しんでいる時に頼ってくれたのが自分で、だいぶ張り切ったと笑う。 「病院に行きたいから、そりゃタクシーなんだけどさ。でもあの日、帰らないでって言われた瞬間、俺だけを必要としてくれてるって思ったら、もう彩真くんに落ちてた。完全に」  あの時、加賀美はその場で蹲り、しばらく身悶えたと振り返る。    十年以上ぶりの恋情は、加賀美を拗らせたそうだ。相手は自分より二十も歳下の人だし、いくら好意を持っていてくれていたとしても、流石に恋人ではなく親子ではないかと、悶々と自問自答を繰り返したらしい。 「一歩を踏み出せないのは過去の経験からだけど、それがなくとも四十六のおっさんが、彩真くんみたいな未来ある人の人生を奪っていいとは思えなかった」 「僕はそんなの関係ないって言ったのに?」 「年齢は、それだけで人を臆病にさせるものだよ」と加賀美は自嘲する。 「加賀美さんに過去を忘れて欲しいとは言わないし、恋人だった人への想いは大切にして欲しいです。  僕に加賀美さんの傷を癒せるなんて大それたことは言えません。でも、もしも加賀美さんが新しい恋と向き合えるようになった時は、それは僕とであって欲しいです」  一人で抱えてきた大きな傷を、少しでも分けてもらえれば嬉しいと素直に伝える。    加賀美は臆病な人だった。  誰も傷つけないように、他人と深く関わらないように防衛線を張ってきた。でも、そんな苦しい人生をこの先も送るつもりだったなんて、彩真ならとても耐えられない。  もう充分償ったのではないかと云いたいけれど、やめておいた。それを決めるのは加賀美自身だから。    その代わりにキスをした。  加賀美の細胞のほんの僅かなスペースでいいから自分を刻み込みたい。  大の大人を支えたいだなんて烏滸がましいと思われるかもしれない。けれど、隣で一緒に歩ませてくれれば嬉しいと思う。  加賀美は何も言わずにキスに応えてくれた。  ねっとりと絡み合う舌が二人の官能を誘う。   腰を寄せられ、互いの中心が反応しているのを確認すると、加賀美はベッドサイドに置いてある飾り棚の引き出しから、一本のボトルを取り出した。   「俺ね、もう落ちてるって言ったでしょ。過去を話したのは、前に向く覚悟を決めたかったのもあるけど、君に美化されたくなかったのが一番の理由。クズだった過去は消せないし、それを知って彩真くんが離れていくなら追わないって思ってた。なのに、君ときたら……」  加賀美はうなりながら髪を掻き乱す。 「なんですか? 僕は本音しか言っていません。加賀美さんもはっきり言って下さい」  ボトルの蓋を開け、手に液を垂らす。  それは紛れもないセックスに使うオイルではないのか。  手許から目が離せない。さっきは無いと言って最後までしてくれなかった。もしかして、彩真の気持ちを最終確認していなかったからなのか。   「すっかり彩真くんに絆されたなって思っただけ。甘え上手で懐に入り込む度胸もあって、なのに最後には俺自身に答えを出すよう仕向ける。全く素晴らしい営業さんだ」 「我が社と契約してくれますか?」 「彩真くんとしかしないよ。俺の恋人になってくれる?」  彩真は大きく頷いた。そして加賀美を睨みつける。 「加賀美さんがまだ全然足りてないんです。オイル、持ってないって嘘を吐きましたね?」 「君に後悔をさせたくなかったから。でも、もう我慢しない」  濡れた手を孔に宛てがう。彩真の口から甘い声が漏れた。  こんなふうに誰かと体を重ねるのはいつぶりだろうか。彩真だって加賀美のような遊び方こそしていないが、性に多感な時期に都会に引っ越し、こちらの生活に慣れてきた頃はマッチングアプリで一夜限りの関係を持っていた。    けれど、好きになった人とのセックスは初めてだ。  触れられるだけで甘い痺れが体内を奔流する。孔を解され、加賀美の指が隘路を拓く。  媚肉を擦られ、奥の気持ちいい場所を探り当てられた。 「あっ、そこ……んんっ」  ぐっと指先を押さえ込まれ、身を捩る。加賀美に脚を全開にされ、恥ずかしい部分を徐に見られた。  中を掻き乱され、屹立が揺れる。何も隠すものがなく、全てを見られている羞恥心が更に感度を上げ恍惚としてしまう。  彩真は思わず顔を枕に埋めて隠した。 「顔見せてよ」 「いやです」 「感じてくれてるって確認しながらがいいんだけどな」 「恥ずかしすぎてしぬ」 「でも体はもっとして欲しそうだけどね」  三本に増やした指で肉胴から覗けるほど拡げられた。 「あっ、ん……はぁぁん……」  二度達しても、まだまだ体は素直に反応を示す。先端からは透明の液が流れ出し、屹立をしとどに濡らしていた。  これから加賀美が這入ってくると考えただけで、腹の奥が疼く。自分の中に、加賀美の精液をたっぷりと注がれたい。 「も、我慢できない。早く、加賀美さん」  少しくらい乱暴にしてくれても構わない。そう言ったが、加賀美はたっぷりと甘やかしたいのだと言った。  結局、彩真は孔を解されている間に一度絶頂を迎えてしまった。    息切れしている彩真に、加賀美は容赦なく男根を宛てがう。 「待って、今挿れられると……僕……はっ、ぁ、あ……這入って……」  加賀美の男根が押し込まれ、孔から圧迫感を感じた。ゆっくり腰を揺らしながら、着々と隘路を抉り侵入する。 「彩真くんの中、あったかくて気持ちい」 「僕も……気持ちい……んっ」  鋭敏な身体は、またいつでも白濁を飛沫させる準備が整っている。  加賀美は徐々に律動を早め、同時に彩真の屹立を扱いた。そのリズムに合わせて彩真も自ら腰を揺する。  前も後ろも同時に責めるのは反則だと言いたいが、喘ぐのに忙しくて言葉にならない。  頭の中では『一緒にイきたい』しか考えられない。 「加賀美さ……キス、したい」 「ん、俺も」  胡座をかいた加賀美の上に跨る姿勢にされると、最奥を突き上げながらキスをしてくれた。  自分の体重がかかり、より奥まで加賀美の男根が這入り込む。  キスをしながら指で乳首を捏ねられ、何度も体が爆ぜる。  思い切り出したい。なのに焦らされている気がする。  加賀美は彩真の顔を微笑ましく眺める余裕を見せている。  喘ぎすぎて涙を浮かべ、飲み込み切れなかった唾液が口端から垂れている。こんな情けない顔を見て何が楽しいのか。彩真は加賀美にしがみつき、背中で足を絡め、腰を大きく揺らした。 「彩真く……中が締まって……」 「僕ばっかり、ズルいです。加賀美さんにも気持ちよくなって欲しい」  加賀美の長大なそれが、彩真の中で硬さを増した。絶頂が近い。  もう少し長く愉しもうと思っていたようだが、加賀美は観念したように彩真の腰を鷲掴みにし、下から強く貫いた。 「中に、出してほし……」 「またそんな事言って」 「やだ、加賀美さんは意地悪ばっかりだもん。僕を甘やかしてくれるんでしょ」 「後で後悔するでしょうが」 「しない。中にくれない方が後悔する」  彩真は抜くもんかと必死に腰を落とした。  流石の加賀美も限界が近く、逃れられない快感には抗えなかったようだ。 「……射精()す」 「あっ、ん……。這入ってる……あったかい」  腹の奥から温かさを感じる。加賀美は何度か腰を振るわせながら、彩真の中で果てた。 「全く、君には敵わない」  言いながらもキスをしてくれる。 「加賀美さんって、キスが好きだよね」 「彩真くんがして欲しそうな目で見るから」 「……バレてる」 「嘘、俺もしたいよ」  二人で笑いあった。  雨はいつの間にかやんでいた。  ベランダに出れば虹が見られるかもしれないが、まったりとした気怠さに酔っていたい。 「このまま泊まってよ」 「着替え、取りに帰らないと」 「休憩してから車出すよ。ドラッグストアに寄ってゴムも買わないと、また彩真くんが無茶言いそうだから」  彩真の孔から精液を掻き出しながら、苦笑いを浮かべる。  彩真はもう少し中に置いておきたかったと拗ねたが、流石に「ダメ」だと一喝された。   「……ねぇ、加賀美さん。ここに他の人も入れてるの?」 「入れないよ。ここは俺が自分らしくいられる唯一の場所だから。彩真くんが初めて。君は俺の特別だからね」 「そっか」  ふふ……、と笑みが漏れる。  バーは臨時休業にして、二人の時間を堪能した。一緒にお風呂に入って、ご飯を食べた。  目が合うとキスをして、鼻先でくすぐり合う。  加賀美の服を借りて外に出ると、雨の匂いが漂ってきた。  空からポツンと一雫の雨粒が彩真の頬を濡らす。  指先で拭いながら、加賀美と車に乗り込んだ。  夏の夜が訪れるまで、もう少しかかりそうだ。  加賀美の家に帰る頃には、澄んだ夜空の星を、並んで見られるだろう。

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