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第2話
ぞわ、と腰のあたりに快感が走る。
触腕がざわついて動き出す。遙隼の肢体を呑み込むように動き出したそれは、二人を包んで閉じ込めた。
暗くなった視界に気付いたのか、遙隼がジグを呼ぶ。彼の頬を手で撫でてやって、ぎらついた目をして微笑みかける。
「遙隼」
「なん、──」
ぴとり、と、彼の首筋にある触腕を当てる。それの先端の舌状片がぴるる、と動いて彼の顎下をくすぐった。
「っは、交接腕、か……」
遙隼が口を薄く開く。煽るようにこちらを細めた目で見上げた彼は、舌を唇から垂らすとに、と笑った。
「来たいんだろう、ジグ。おいで」
性器である交接腕を伸ばしたジグに、遙隼は笑って受け入れる。
自覚こそ薄かったがどうやらジグもまた、つがいのフェロモンに当てられて発情していたらしい。交接腕を伸ばす動きを自制できない。
「んっ……ぅ、んんっ」
口腔内に侵入した性器を遙隼が舌で迎え入れる。にゅるっとしたそれを舌で舐め、しゃぶって甘く吸い上げられると背筋にぞくぞくとした快感が走る。
息を詰めれば遙隼が瞳だけでにやっと笑った。
ざこ、と言われた気がして、ただでさえ感情の制御が効きづらいのに苛立ちを煽られてしまう。
お返しにと乳首に吸盤を押し付け、そのままぢゅっと吸い上げる。口腔内に迎え入れられていた交接腕に歯を立てられた。ちりっとした痛みで背が震える。
乳首を吸い上げ、彼の陰茎を触腕でにゅこにゅこと扱く。尾の付け根の吸盤も動かせば、遙隼がくぐもった声をあげる。
「んん~~っっ!ん、んぐ、ぅぶ、んぅ……っ!」
「とんだ暴れん坊だな……ヒート中のクセに」
暗いコクーンの中、交接腕をしゃぶって勝ち気に笑っているつがいが憎たらしくて触腕をざわざわとうごめかせる。交接腕を口腔内から引き抜いて、彼の拘束を緩め、そのまま両脚の間に指を当てた。
くちゅ、と濡れた音が響く。わざと大きく鳴るように指を動かし、ぬかるみをぐちゃぐちゃと荒らす。
「いやらしい音だなあ」
「っ、これ、は、生理現象であって、はしたないとか淫乱だとかそういう言葉は不適切だからな!いいか、これは僕が出したくて分泌したものじゃない」
「はいはい」
「きちんと僕の話を聞け、そもそも君は往々にして僕の言うことを聞かないだろう。そういうところはどうかと思うぞ。仮にも僕の方が年上だろう、年長者の話はきちんと聞くべきじゃないのか」
何か心に火が付いたのか、ぐだぐだと理屈っぽい話をし始めた恋人にうんざりする。面白い奴だがこういう時は面倒でしかない。ご機嫌取りのようにキスをして上目遣いに覗き込む。
「わかったから続きをさせてくれ、ダーリン」
「またそうやって話を聞かない。君なあ、いい加減に僕をなめてかかるのは止めろ。いいか?つがいと言えども相互理解と対話というのはだな」
「うるせえって」
もういい加減続きをしたくなった。指をナカに挿し込み、ぬかるんでいる温かいそこをかき混ぜる。
「ぅあっ!?も、こらっ、はなし、をっ……」
「俺に集中してよ」
お仕置きのつもりでナカに挿し込んだ指を動かし、軽く抽挿をする。遙隼の体が面白いくらいに震えだす。ナカの弱いところを意識的にそらして内壁を擦れば、彼がジグの首元に縋りついた。
「あッ、あッ、あぁッ!んぐ、ぅ、ゔぅ……~~~っ!!」
「かわいい声」
「る、さいっ!こ、んなっ、おろかな、とこ、みる、なあっ!」
耳元でぽろぽろと溢される甘い声にくつくつと喉を鳴らして笑う。腕と触腕を同時に動かし、彼の言う『興味深い』動きでもって彼の性感帯を刺激する。
胸と、陰茎と、内部。耳元にも舌を這わせて舐めあげればすぐに遙隼は嬌声をあげた。
「君は愚かなんかじゃないよ、かわいいだけだ」
「あッ、ん、ぅ、うっ、ひ、や、やめっ!や、めろっ……!!」
「やめていいのか?本当に?ほしくない?」
ナカを指だけでくちゅくちゅと揺らす。動かすたびに彼の腰がくねって、ジグの指をイイところに当てようとしているのがわかった。
「理性のない獣、じゃないのか?今の君は」
「ッ~~~!!こういう時だけ饒舌だな!?」
「はは、そういう君はいつもより控えめじゃないか」
とん、と前立腺に指先を当てる。遙隼の喉が物欲しげにごくりと鳴った。そこをとん、とん、とノックする。
「なあ」
「ッん、ぅ、ぅあっ……な、なんだい」
「欲しい?」
と、ん……。動きを止める。遙隼が自分から動かないように触腕で腰を固定して、指をそこに当てるだけですべての動きを止めた。
「ぅ、え……?あ、な、んで……」
「遙隼。どうする?君は理性のない獣にはなりたくないんだろう。だったら、理性のある君として、俺にどうしてほしいか、言えるな?」
「……最低の、いい趣味を、お持ちのようで……っ、ジグ、君、こういう時に楽しそうに追い詰めてくる癖をどうにかしないと永遠に評価はサディストのままで終わるぞ。いいのか?嗜虐趣味の変態ムッツリ蛸獣人で」
煽るように言ってはいるが快楽に流されているせいでいつもより棘が少ないのが見て取れる。
ああ、かわいいな。ジグは薄く笑った。
「君が評価してくれるのであればなんでも」
ぐ、と息を呑んだ気配。顔を見れば真っ赤になっていて、どこか照れているように見える。
ストレートな愛情表現に弱い男だ。かわいい俺のつがい。
「なあ、遙隼。俺は君をもっと愛したいんだが、つがいとしてはどう思う」
「……勝手にしろ」
せっかく逃げ道を作ってやったのに。ああ、強情なやつ。愚かな人間を嫌うくせ、こうして自分が愚かな選択をしているなんて知ろうともしない。
「そうか」
とん、と前立腺を叩く。遙隼の肢体が歓喜に震えた。挟んで、ゆっくりと擦る。腰をがっちり触腕で固定して、彼が自分の意志で動けないようにして。
「ひ、ぁ、っあ……、あ、ああっ……そ、れっ」
「きもちいい?」
「し、らなっ、んぅ、あっ!」
明確な性感帯のひとつ、弱いところをゆっくりじっくり嬲ってやる。先ほどまで抑えていたはずの声は、もうそんなこと覚えていないようにきゃんきゃんと大きく奏でられていた。
「ひぐ、あッ!あ、ァ、ぁ、ッイ、イくッ……!!あ゛、ッ……~~~──っ、あ、れ……っ?」
指を止めた。イく、と自己申告してくれたのだから、きちんと反応してあげたのだ。
動きをすべて止め、彼が勝手に気持ちよくなれないように吸盤の吸い付く力を強めた。
すべての性感帯を刺激しないように細心の注意を払って、彼の熱を押し留める。
「な、んでっ……ど、ぅしてっ!?イけな、イきたい、のにっ」
「欲しくないんだろ」
「っは?なんで……」
指をゆっくりと引き抜く。軽微な快楽だったようだが、イくには役不足らしい。赤らめた顔が泣きそうに歪む。尾さえもしゅんとうなだれて、ジグの首に回された手が肌をかり、と引っ掻く。
「言って、遙隼」
「……ほしい」
「何を、どこに?」
恨めし気な鋭い視線がジグを貫いた。全然怖くないどころか、潤んだ瞳では煽ることにしかならない。わかっているのだろう、舌打ちをして遙隼は自ら動こうと身じろいだ。
「動けないだろ」
「っ、君は本当に意地も性格も上等だな」
ああ、この男はまたこうやって意地を張る。そんな矜持を守る場面なんかではないのに。
「褒めてくれたの?嬉しいな」
心底嬉しそうに微笑めば、遙隼は悔しそうに唇を噛んだ。
彼の唇を指で撫でる。
噛んだらいけないと言うように、唇を指先で割る。口腔内に少しだけ侵入して、舌の先端を撫でて指を離す。
「なにが、どこにほしい?」
「っ……が、ここ、に」
「聞こえない」
「……最低だな。……君の、……性器、を……僕の中、に、ッ~~~!ああもう、いいからはやく挿れてくれっ」
叫ぶようにおねだりをした遙隼の頭を撫でる。高揚する気分のまま額に口付けて、「了解、ダーリン」言葉を言い切る前に交接腕を動かしていた。
純粋に興奮していたのだ、自分も。
遙隼のひくつく後孔に切っ先を当てる。そのままぐぷぷ……っともぐりこませ、舌状片で内襞をくすぐっていく。
「っあぐ!?ぅひッ、は、あ、ああッ!!」
「はは、これ、好きだもんな」
舌状片を細かく動かしながら交接腕で前立腺を押しつぶす。ぐちゃぐちゃと淫猥な音を立てて内部をかき混ぜ、愛液と粘液で泡立たせる。彼の尻からは白濁色の粘着質な液体が滴っているのが見えた。
「ぅあ゛~~ッッ!!あ゛っ、あぁっ、ぐ、んぐ、ぅ、ああッ!!」
必死な声をあげて、なりふり構わず喘いでいる。身体はけいれんして陰茎からはとろりと精液が落ちていた。
甘くイっているのだろう、胎内もジグの交接腕をきゅうきゅうと締めつけていてうっかりすれば射精してしまいそうだった。このつがいは、相変わらずジグを煽るのが上手らしい。
ばたばたと暴れている脚を抑え込み、イっている最中の胎内をずちゅっ!と激しく突き上げる。
「んあ゛あっ!?イ、っで、るぅッ!!今、いあッ!イ、っで、ぅ、ぅあ゛あッッ!!」
「そうだな、きもちいいな?」
「やだッ!これやだッ!!しぬ、ぅ、ゔぅッ!」
交接腕を抜き差ししているだけなのに遙隼は狂ったように喘いでいる。泣き声が混じってきて、さすがにいじめすぎたかと動きを止めた。奥にずっぷりとはめ込んで、舌状片で最奥の子宮口をちろちろとくすぐる。
「ひぃッ!?あ、あ、ッあ……ジグ、ジグッ……!それッ、や、やだ……っ、むり、も、できな、したくな、ね、ぇっ」
「大丈夫、大丈夫だ。第一、君は今ヒートだろう。これぐらいじゃ満足できない。そうだな?」
「や、むり、むりッ!こわ、れるっ、おかしくなる、あたま、おかしくな、──っひぃい゛!?」
逃げを打とうとした悪い子を、押さえつけて触腕を体中に絡みつかせる。ぎちぎちと締め上げ、吸盤で表皮を吸い上げて、そうして舌状片をすこしだけ子宮口の奥へ挿し込んだ。
たったそれだけで遙隼はがくがくと震えだし、陰茎から飛沫を飛ばす。
潮を吹いたのだ。
舌を垂らした赤い顔で、ぼたぼたと泣きじゃくりながらけいれんしている。完全におかしなイきかたをして、『理性のない獣に成り下がって』いた。
「いいなあ、これ、好きだろ?なあ」
奥にハメこんだ交接腕をさらに押し込む。締め付けがひどく強い。絶頂に押し上げられる感覚。心地好い。舌状片を動かして子宮口の中を甘く舐めれば遙隼が声にならない悲鳴をあげた。かわいいなあ。
激しくしてないのに、動き自体は静かなものなのに。遙隼の陰茎からはぷしゅ、ぷしゅっと潮が飛び散っていて、彼が快楽に壊されたことがよくわかる。
ジグをめちゃくちゃに締め付けて喰らいついてくるつがいの身体は、かわいくて仕方ない。奥にぐりぐりと交接腕を押し付け、そのまま吐精する。
「っは、ぁ……。はあ、遙隼……」
締め付けていた触腕を解く。交接腕も引き抜くが、その刺激でまたイったようで潮が滴った。イきっぱなしになってる。
その頭を撫で、頭頂に生え変わっていた獣耳を撫でる。虎の耳は小さくてかわいらしい。ちゅ、と口づけを落とし、その耳孔に囁きかける。
「後悔はしたか?」
「……している」
「そうか。なら、もう一回」
ぐ、と脚を抱え直す。遙隼が目を見開いて暴れ出した。
「どうしてそうなる!?馬鹿か君は!?」
「後悔しなくて済むようになるまで、しないとだろ」
「どんな理屈だ!普段の理性的な君はどこへ行った!?」
騒ぎ立てて逃げようと全力でもがくつがいに、ジグは笑いかける。
「俺たちも所詮、理性なんてない獣だったってことだ」
◆◆
夜半。ぐったりとベッドに身体を沈みこませた愛しのつがいの、その額にキスを落とす。
普段は冷静沈着、何事にも冷淡だと言われるジグの表情は甘く蕩けきっていて。この姿を部下が見たらきっと怯えるだろうが、あいにくこの場に彼を見ているものなどいなかった。
「かわいいな……俺のつがいは、ほんとうに」
黙っていれば顔立ちこそ幼く愛らしい。口を開けば皮肉と冗長な言葉ばかりで可愛げなど消え去るが。そんなとこもかわいらしいと思ってしまうのだから、恋というのは本当におかしなものだ。
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