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第1話
遊びでならいくらでも軽い男でいられるのに、本気になると、とたんに駄目になる。
自分にもどうしようもない──そんな悪癖が俺にはある。
好きになればなるほど、その気持を隠してしまう。本心をさらけ出すことが怖くて遠ざかる。
真剣に想う相手ほど、遠くからただ眺めるだけだ。永遠の片想い……不毛すぎる。
それも今となってはある程度、諦めている。不惑といわれる歳から、もう五年は過ぎた。人間いまさら変われやしない。
それにあくまで恋愛が絡むとき限定だ。仕事上なら、どんな相手とも上手くやれる自信がある。クレーム対応なんか率先してやりたい。俺の上っ面の良さは、営業という職種と非常に相性が良かった。
「──部長、業務報告メールしました」
営業三課の課長が帰り支度をして報告に来た。口頭伝達は義務ではないが、帰るついでだろう。
「はい、お疲れさん」
親しみを込めた笑顔で部下をねぎらう。
「部長もあんまり根詰めないで下さいねー。じゃあすみません、お先に失礼します」
「ありがとさん。気ぃつけてなー」
職場では人間関係がなによりの宝だ。社内で努めて円滑に業務が進められるべく、対等に付き合うように気を配っている。要は常に皆とコミュニケーションを取っている。お喋りが過ぎて部下に仕事の邪魔と言われても気にしない。
そのお陰なのかどうなのか、営業部四課を束ねる部長職だ。
その俺の内面が、夢見る少女のように奥手だと、人に知れたら人物像が崩壊する。立派な中年の俺にとって欠点でしかない。社内恋愛など、もってのほかだ。
恋愛においてだけ、なぜ普段と対称になるのか自分でも理解できない。本当の自分はどちらかなど青臭いことは、とうの昔に考えるのもやめた。
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