うちの営業部は数字が若いほど規模の大きい取引をしている。事故などが起きた場合、会社に与える影響力はかなり違う。例えば一課内で一社と取引が無くなるのと四課のそれとでは、大きければ億単位で利益が変わってくるのだ。 あれは……もう十年は前のことになるか。眞島(まじま)は俺のこと恨んでる……よなぁ。 俺はかつて事実上の降格から、上司として部下を守ってやることが出来なかった。 業務時間が過ぎたフロアは、節電のため半分の電気が消されている。薄暗くなった社内では、まだ半数がパソコンに向かっていた。主に一、二課の人間だ。 課ごとに島分けされて、四島。課長の席はそれぞれの先端だ。俺に背を向ける形で並んでいる。 一課課長、眞島朝人(まじまあさと)の姿もそこにあった。そのスッと伸びた背筋をそれとなく見つめて、パソコンに目を落とす。 俺が一課の課長だった当時、眞島は新入社員で部下として配属されてきた。通常、新卒でいきなり一課へ配属はない。期待されたエリートだったという訳だ。 眞島には、相手が誰でも目をしっかりと見つめて物怖じせずにじっくりと話を聞く、新人とは思えない肝の据わった所があった。確かに一課にうってつけの人物だと、俺も思った。 かと思えば、飲み会などでは 「課長の中で一番若いのに、一課課長なんてすごいっす。マジでおれ此枝(このえだ)さんを尊敬してます。いつか此枝課長みたいになりたいっす！」 そう瞳を輝かせて年相応にはしゃいでみせる可愛気もあり、個人的にも好ましく思っていた。 元々素質と才能があり、ぐんぐん仕事を吸収する眞島は頼もしい成長ぶりだった。 それは時として直視をためらうほど眩しすぎた。だが、それもそのはずだったのだ。 慕ってくる眞島の想いは、純粋な敬愛からきているものだと思っていたが。 ……あの時は全てのタイミングが悪かった、言い訳に過ぎない。けれど、ほんとうに何もかも。