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第4話
仕事に影響は出ていなかったと思っている。あのとき眞島が俺の変化に気付いたのは、別の理由だ。
離婚してしばらく経った金曜日、初めて眞島の方から飲みに誘われた。
「俺なんかが課長を誘うのもおこがましいと思うんですけど、良かったら気晴らししませんか」
「ずいぶん命知らずだね、君」
「え、やっぱそんなにマズいことっすか!?」
正直、救われた。誰もいない家に帰って自分で部屋の電気をつける毎に、少しづつダメージが蓄積していく気がしていた。けれど独り酒も誰かを誘う気力も湧いてこなかったから。
「──冗談だよ。じゃあ家に来てゆっくり飲まないか」
「いや、それは、奥さんに悪いですから……」
その時まで離婚の件が耳に入り、気を使った眞島が誘ってきたのだと思っていた。
「……お前どうして今日、俺のこと誘ったんだ」
「それは──此枝課長がここのとこ元気ないように見えたんで……なんとなく、ですけど」
もちろん表に出したつもりはない。余程よく見ていなければ分からないはずだ。驚くよりも感心した。
「お前の観察力すごいね。さすが仕事が出来る男は違うな」
「そんなんじゃないっす!マジで違いますから──」
「謙遜するなよ、それより飲みの話。奥さんとは離婚しちゃったからさ、気兼ねしないでウチ来いよ」
「え──そう、なんですか……?」
眞島が放心したように俺を見つめて動きを止めた。単にびっくりしたにしては大袈裟すぎるので俺は苦笑する。
「お前がそこまで驚くことか?」
そんな反応されたらこっちが気を使うだろうがと、眞島の腕をバシンと叩いてやった。
どこかに行っていた眞島の目に光が戻って、少しマシな表情になる。だが口にした言葉は意味不明だった。
「なら尚更お宅には伺えません。先輩にいい店きいたんで、そこ行きましょう?大丈夫です、潰れたら責任もって送りますから」
「なんだよ、ウチには来たくないってことか」
「そう、です──俺が……保ちません」
ゴニョゴニョ言う眞島の語尾は聞き取れなかった。そして強引に押し切られ、納得のいかないまま店へと連れて行かれた。
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