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第6章 急襲4

「――魔王様に(ささ)げる供物とする」と騎士隊長が涼し気な表情を浮かべ、玉の中のカイトを凝視する。 「まさか、おまえら、カイトを食うつもりか!?」  ふっと口の端を上げて騎士隊長がニヒルな笑みを浮かべた。 「……さあ、どうだろうな。オレは、あくまで魔王様から受けた命令を遂行するだけだ。あの方の真意を知っていても、おまえごときにたやすく教えると思うか?」  底意地の悪い表情と、人をはぐらかすような発言に(いら)()ちを覚え、頭に血が上った俺は思わず怒鳴る。 「質問に質問で返すな。ちゃんと答えろ!」  その瞬間、視界がぶれる。気づいたら、ひざが地面についていた。  全身から力が抜け、頭がグラグラして重い。気を抜いたら、そのまま意識が飛んでいってしまいそうだ。 『本来なら襲った村や町の乙女を(いけ)(にえ)として捧げる。魔王様が人間の魂をお食べになった後、空になった器を我ら魔族が食べることになっている。今回は魔王様直々に、この男をご所望でな。こいつを手に入れるために、この小さな村を襲ったんだ』 「そんな……」  母ちゃんや村の人たちがカイトのことを「疫病神」と呼ぶ声が頭の中で何度も、何度も聞こえる。  悔しさから歯噛みし、高みの見物をしている騎士体調と人狼を(にら)みつける。 「……なんでだよ? なんで魔王はカイトを求めたりする……!」 「真実を知りたければ魔王城へ来ることだ。まあ、それまで貴様が生きていたらの話だがな」 「てめえ……うわっち!」  熱風が顔や手にあたる。胸のあたりや、のどが焼けるように熱い。息ができなくて苦しくなる。  周りの氷が、どんどん溶けて水に変わり、空飛ぶ船がぐんぐん遠ざかっていった。 「……カイト」  そこで俺の視界は真っ暗になり、指一本動かせなくなって、意識が途絶えた。

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