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エピローグ
甘い残り香
夜が明ける。
文化祭の熱気を飲み込んだ校舎は、静けさだけを返していた。
掲示板の紙片が風にさらわれ、舗道に淡い影を描く。
星乃來夢は昇降口に立ち、ポケットの中の赤い棒付きキャンディを指先で転がした。
角は昨日よりさらに丸く、触れるたびに小さな温度を伝えてくる。
扉を押し開けると、朝の光が差し込み、影が長く伸びた。
廊下に残る祭りの匂いと、夜明けの冷たさが交じり合う。
足音が背後から近づき、神城煌真が肩を並べる。
「おはようございます、先輩」
「おはよ、煌真」
交わした言葉は短いのに、昨日までの重みをやわらげるには十分だった。
◇
並んで歩く通学路。
風に揺れる木の葉が朝露を落とし、淡い匂いを漂わせる。
來夢は鞄から小さな包みを取り出した。苺色の小粒。
「これ、今日の分」
差し出す指が少し震える。
「俺の代わりに、甘くして」
神城は受け取った包みを掌に置き、端をきれいに折り返す。
几帳面な動きが一度だけ途切れ、視線がまっすぐ來夢を射抜いた。
「一生、大事にします」
胸の奥で小さく熱が灯り、來夢は無意識に笑みを零した。
◇
校門を抜けると、陽射しが二人を照らした。
神城の歩幅に合わせて足を進め、來夢は立ち止まる。
ポケットの中で赤いキャンディが転がり、小さな音を立てた。
「……お疲れさま」
口にした瞬間、夜に残ったざわめきがすべてほどけた気がした。
神城は驚いたように目を見開き、すぐに表情を緩める。
「はい。お疲れさまです、先輩」
朝の光と共に広がる甘さは、飴よりも確かに二人の間に残っていた。
――エピローグおわり――
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✨作者コメント✨
ここまで読んでくれてありがとう!🌸
來夢と煌真の物語、最後まで一緒に見届けてくれて本当に嬉しいです🥹💕
飴玉みたいにじんわり甘く、時にちょっと切ない二人の関係を楽しんでもらえたなら幸せです🍬💫
「読んだよ!」の合図にいいね👍やコメント💌をもらえると、次の創作の力になります🔥
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