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第6話 岳斗のキスに当てられて
「僕は、僕は岳斗と番になりたい!!」
航の言葉に、岳斗は表情を和らげた。
「それが君の本音?」
「そうだよ。本心を教えてって言ったじゃないか」
バツが悪くて視線を逸らす。
岳斗は子供のように眸を輝かせ「もう一回聞きたい」などと詰め寄って来る。
「恥ずかしくて何回も言えないよ。君と番になりたいです。終わり!」
「俺も!!」
破顔して笑う。正面から抱きつかれ、何だか大型犬に懐かれたような気持ちになる。つられて航も吹き出した。
「もう取り消せないからね」
「今から断られると、僕の方が困ってしまう」
「航の恋人は俺。たった今から、正式に俺だけだから」
「……うん」
友人から恋人になった。航を見詰める目を細め、顔が近付いて来る。
唇が重なると、身体中の力が抜け、膝から崩れ落ちそうになってしまった。
「大丈夫?」
瞬時に支えた岳斗が心配そうに顔を覗く。
「もっと……もっとしたい」
恍惚とした眸を向ける。キスをしただけなのに、ふわふわと心が浮いているように心地良い。自分の口から強請るなんて信じられないが、きっと相手が岳斗だから素直に言ったのだろう。
「航!! ……まったく、君って人はどれだけ俺を翻弄させるんだ」
頭を抱えて悶絶しながらも、顔中にキスを落としていく。岳斗の背後では大きなふわふわの尻尾がぶんぶん揺れているような気がして、法悦としながらもどこか可笑しく思えてしまう。
岳斗の持ち前の明朗さが存分に発揮されていて、余計に力が抜ける。
航からは甘い香りが漂っている。それが岳斗の鼻先を掠め、ピタリと動きが止まった。
「ちょっと待って、航の次の発情期っていつ?」
「分からない。不規則に来るから、君のキスに反応しちゃったのかも」
「大学にいちゃ危険だ。早く移動しないと」
慌てて手を引くが、航は既に自分で歩ける状態ではなかった。フェロモンはどんどん濃くなっているのか、岳斗は眉根を寄せ、息が上がっている。
航も体温が急上昇しているのを感じていた。ヒートだとは容易に判断できた。このまま岳斗といれば、確実に発情期に入るだろう。
着ていた羽織で航を包み込むと、抱き抱え足早に大学から飛び出す。
「航のマンションが近いから、そっちに行く」
岳斗のアルファのフェロモンを強く感じ、息苦しさで頷き返すのが精一杯だった。
体の奥で燻っていた熾火から、炎が吹き上がるような熱を感じる。今までの発情期とは比にならないくらい、強いヒートだ。
直接肌に触れられているわけでもないのに、岳斗の匂いしか感じない。他のことは何一つ考えられなかった。心も体も、岳斗だけを求めている。
俊輔の時は、上手く行っていた時でさえこんな状態に陥ったことはなかった。
これが運命の番なのか。朦朧として、それもしっかり考えられたわけではない。
とにかくこの熱を鎮めて欲しくて仕方ない。
マンションに着くと、岳斗は一目散にベッドへと航を下ろした。
先日、俊輔に抱かれたそこには、まだ匂いが残っているかもしれない。しかし岳斗は何も言わず、ただ航を愛することに専念した。
「甘い、こんな甘い香りは初めてだ」
クチュリと舌が絡まる。その瞬間、オメガの性が反応したかのように更に熱を上げた。
熱い吐息を吐き出し、少しでも顔が離れると、追うように自ら岳斗の唇を塞ぐ。
体の疼きが治らない。
まるで身体がこの時を待ち侘びているように歓喜に満ちていく。
岳斗もまた、航のフェロモンに当てられ、夢中で唇を求めてきた。
自分よりも大きな口に塞がれ、丸ごと食べられているような気分だ。それが嬉しく思うのは、やはり相手が岳斗だからなのだろう。
「ん、ぅん……気持ちい……」
「俺とのキス、好き?」
「すき……がくと、すき」
「俺も航が好き」
岳斗は、ずっとこうして思う存分キスがしたかったと言う。
航の小さくてぷっくりとした唇は、どんな感触なのだろうと妄想を膨らませていたと暴露した。
「実際にはどう?」
「柔らかくて、弾力があって、癖になる。俺の口とは全然違う」
岳斗の薄くて大きな口は、航とは正反対と言って良かった。
キスで濡れた岳斗の唇はとても官能的に感じ、ぞくりと肩を戦慄かせた。
重なった体の中心では、昂った互いの男根が布越しに擦れ合い、劣情を唆られる。
孔からオメガの液の分泌が増し、じんわりと肌を濡らしていく。
岳斗は航の望むままに口付けてくれた。キスだけで、蕩けそうなほど気持ちいい。
降り注がれる口付けに陶酔していると、岳斗の手がTシャツの裾から侵入した。
「あっ……」
肌に触れられただけで敏感に体が跳ねた。
知っているセックスとは全く違う。大きな手で丁寧に愛撫され、懐柔されていく。
岳斗から施される一つ一つの行為に、愛されていると実感できる。
親指の腹で乳首を転がされ、軽く爪を立てられ、乳輪に沿ってするりと這う。
「あ……や、これ……んん……はぁ……」
「嫌なの? 本当? 航から体寄せてきてるのに?」
「いじわる……しないで」
潤んだ眸を岳斗に向ける。するとクッと喉を鳴らし、航のTシャツを剥ぎ取った。
華奢な白い肌が露わになり、それを真上から満足そうに見下ろしている岳斗の口角が上がる。
岳斗は自分の着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。思えば裸体を見たのはこれが初めてだ。
鍛えられた広い肩幅や引き締まった胴、割れた腹筋。見惚れるほどの肉体美に法悦となる。
同時に、仰向けで肋骨が浮き出ているような華奢な自分が情けなく思えた。
オメガであっても一応は男である。それなのにこれほどの体格差があるとは、普段意識していなかっただけに目が離さなかった。
「航、見過ぎ」笑われて我に返る。
「ご、ごめん」恥ずかしくて顔ごと逸らす。
岳斗は航の手を取ると「触って」と腹に滑らせる。
硬いゴツゴツとした山を辿り、下腹部を過ぎ、次に触れたのは怒張した中心だった。
「ひっ」思わず手を引っ込めようとしたが阻止された。
「ちゃんと感じて。これから航の中に這入るって考えただけで、こんなになるんだ」
岳斗が下着の中から、長大な雄のそれを引き出す。先端からは透明の液が滴っていた。
航はそれを目の当たりにし、喉を引くつかせた。
自分のものとは別物のような迫力に圧倒される。
「これが、僕の中に……」
「欲しい?」
「そ、そんな……!! 今日、番うの?」
「あぁ、もう充分過ぎるほど待ったからね。何度限界を越えたか分からないほどだ。噛んでいい、よね?」
「——うん」
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