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Prologue 復活のとき

 草木も眠る(うし)三つ時。  ろうそくの明かりがついた書院造の部屋の中に年端もいかぬ少年が上座に、少女と年老いた男が下座に座していた。  少女と老人は唇を真一文字に結び、拳を軽く握りしめている。ふたりは人形のように微動だせず、正座をしている。  一方、狩衣を着た少年はだらしなく足を崩し、うさぎのように赤い目をギラギラと光らせていた。その口元に微笑を浮かべ、どこか楽しげな様子で一方的に彼らへ話しかける。 「ようやく彼とコンタクトを取ることに成功したよ。あの様子じゃ彼、かなり怒ってるんじゃないかな? 目を覚ましたばかりで現状をまだ把握できていないせいか、ひどく(ろう)(ばい)していた。きっと無理やり起こされたから寝覚めが悪かったんだと思う。何しろ百年ぶりの目覚めだ。一世紀ぶりなんだから世の中も、いろいろと様変わりしている。まだ頭が追いついていないみたいで最新の情報をアップデートするのに大忙しだ。僕もその気持ちは何となくわかるけどね。だけど、彼のことは、あまりよくわからないっていうのが本音だよ。実際に会ったのはこれが初めてだし。でも、あの思考回路は完全にイカれてるよ。  子孫の器に魂を宿らせ、復活させようだなんて、どうかしてる。そもそも、あの子が【彼】と同じ人間だとは到底思えないんだけどね。まあ、これも仕事の一環だ。めんどうくさがらずに最後まで任務は遂行するよ。何? そんな話はどうでもいい? ……まったく、君たちは、ユーモアを楽しむ気持ちが欠片ほどもないんだね。まあ、いいよ。一歩的に話すのもつまらないし。ちゃんと結果だけ報告するとも。君たちが望む通り、一言一句間違えないようにね。それじゃあ――これが彼の言葉だ」  そうして少年が息を吹きかけ、ろうそくの明かりを消すと、室内は暗闇と冷気に包まれた。  ――私は、私の運命を今も、昔も愛している。  それはこの先、何があろうとも未来(えい)(ごう)変わらない事実だ。だからこそ、何があの男を衝動に駆りたてたのか理解に苦しむ。  確かにあの男は我が一族の一員だ。何しろ私の愛する人の家族で肉親だからな。本来なら私の保護下に置くべき存在だろう。  だが、それも私の婚約者の命を狙うというのなら話はべつ。  「歴史は繰り返す。そして物語は永遠(とわ)に紡がれる」。そんなことも忘れてしまった愚か者や、我が一族にあだなす者たちを早急に排除しろ。  よいか、おまえたち。私は、よみがえった。  今度こそ我らが救世主を手に入れ、この世に悪夢をはびこらせてくれようぞ!

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