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Act1.帝光学園 乱闘騒ぎ1《Side 桐生彩都》

   * 「来たよ、アンチ王道転校生」 「ねっ。まーた今日も生徒会の皆様をはべらかすんじゃないの?」 「まったく何様のつもりなんだろうね」  コソコソと話す人の声を気にしないよう意識しながら、選んだパンを会計へ持っていき、時計端末で会計を済ませる。  敵意を向けられていると気づきながら食堂に来るのって、どうなんだろう? と、なんともいいようのない複雑な気持ちになりながらコーヒーを頼んだ。  先に席に着いてギャーギャー言い合いをしている伊那やルークは、あえて気にしていないのか、まったく、そういうのが気にならないのだろうか?  サンドイッチの載った黄緑色のトレーを手にして、ため息をつく。 「どうしたの、彩都くん」  太郎ちゃんに話しかけられ、僕は小声で彼と会話する。 「不知火先輩の考え、どう思う?」 「どうって……?」 「『木を隠すなら森の中』って言葉があるよ。でも、それって僕がおとなしくしてないと意味がないんじゃないかな?」  飲み物の渡し口でコーヒーが出てくるのを待ちながら彼の意見を求める。 「こんなに目立っていれば()()()()()たちをおびき寄せて倒すことはできるよ。でも、これじゃ、あいつらのバックにいる黒幕をあぶり出す前に、生徒会のファンの皆さんから背中を刺されてThe() End(エンド)な気がするんだけど……」  窓越しに鋭い視線を投げてきたり、恐ろしい形相でこちらを見ながらパンを手にしている男女に肩をすくませた。 「でも、おば様たちからの言葉も、公安の人の指示も、まだ出てないんでしょ」 「それは、そうだけど……」  お母さんと、おばあちゃんに僕の意思は伝えた。でも僕の安全もとい監視を担っている公安の方たちからの返答はない。  荊棘切家や、その周辺を調査中だって言ってた。  それに荊棘切さんにも直接伺ってない。  本当は、もっと、あの人と話をしたいのに、伊那やルークが彼を警戒していて「結果が出るまで、あの男に近づくな」って言ってくる。  不知火先輩も「不知火家は公安から、きみを守るよう命令されてるんだ。オレはきみの命を守る義務がある」と彼と話すことを許してくれない。 「だったら、まだ動かないほうがいいよ」と太郎ちゃんがホットミルクの入ったカップを受け取る。「荊棘切さんが有能な人だってことは裏で有名みたいだけど、先手を打たれて敵の側についていたり、スパイ工作を行うようクライアントから指示されていたら一貫の終わりだ」 「でも、」  ――あの人は、悪者に手を貸すような人じゃないよとは言えなかった。  本能的にそう思う、だけじゃ太郎ちゃんは納得してくれない。  それに僕が、彼のことを何も知らないのは事実だ。 「ねえ、彩都くん。荊棘切さんだって生徒会のメンバーなんだよ。すでに不知火会長や土井先輩たちにボディーガードをしてもらっている上に()()()副会長のアプローチを受けている。ほかのメンバーの方も、きみが何者か興味を持ったり、知りたがって近づいている。そこに荊棘切さんもってなったら過激派の人たちだけでなく、親衛隊長たちやファンクラブ、一般生徒にまで(にら)まれるよ。それじゃ、きみが望む状況は作れない」 「……うん」  アイスのブラックコーヒーを受け取り、ふたりで伊那とルークのいる席に着いた。 「おお、彩都。なーに、暗い顔してるんだ?」とコーラを飲んでいる伊那に肩を叩かれる。 「伊那、学校って、もっと楽しいものを想像していたけど何かと制約や規則があって大変なんだね」  ハムサンドを手にして答えていると、てりやきハンバーガーを食べていたルークが、手についてマヨネーズとてりやきソースを舌で()めとる。 「伊那、学校って、もっと楽しいものを想像していたけど何かと制約や規則があって大変なんだね」 「普通の学校なら、もっと違ったよ。親衛隊やファンクラブなんか、そもそもないし。生徒会や風紀の人間を芸能人みたいに扱うこともないからね」 「そうなの?」 「そうそう」とルークが八重歯をのぞかせる。「ここが国を代表する国立大学の付属校で、おまけに紳士淑女のお坊ちゃん・お嬢様が多く通う学校だから、堅苦しいだけ。ボクらが通っていたとこは自由だったよ。バット持って他クラスへ殴り込み!」 「ナックル手につけてタイマンとか懐かしいよな。バイクで廊下をブイブイ走ったりとかさあ」  ポテトを口に運びながら伊那がルークの話に乗る。 「ここだと、すぐに風紀の連中や生徒会の荊棘切の注意があって暴れられないからね。身体がなまっちゃうよー」 「だな!」  そうして、ふたりは楽しそうにゲラゲラ笑った。 「怠慢って、お昼寝のこと? 企業でも導入しているけど高校でもあるんだね」 「昼寝なら毎時間、授業中や昼休みにできるよー」  口元をゆるませたルークが肩を小刻みに震わせている。 「彩都は、そのままでいてくれよな」  隣にいる一歳年下の伊那が苦笑している理由が思いつかず、頭にクエスチョンマークを浮かべる。  昼休みにお昼寝をする人がいるのはわかる。  だけど、授業はちゃんと起きて受けなきゃいけないのに、どうやってお昼寝をするんだろう? 「彩都くん、このふたりがいた高校は普通じゃないから。まともに聞かないほうがいいよ」 「ん? わかった」

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