11 / 20

Act1.帝光学園 乱闘騒ぎ3

「そっ、そうだよ、信濃(しなの)! 何も知らないくせに、でしゃばるな……!」 「確かに、わたしには副会長様のお気持ちも、あなた方の思いもわからないです。ですが、あなた方のやっていることは桐生さんへの攻撃に変わりませんし、副会長様が生徒会の職務を怠っているのは事実です」 「それは、こいつの責任で……」と動揺の色を見せた三つ子のひとりが、ぼくのほうへ目線をやる。  信濃さんが、ムッとした顔つきをして彼らを咎める。 「頼人さん以外の生徒会の方が仕事をなさらないのは自らの意思で決めたこと。桐生さんが仕事の邪魔をしに生徒会室へ無断入室したり、生徒会の皆さんにまとわりついたり、迷惑行為を行っていることがありましたか?」  すると彼らは、彼女に口答えせず、ただ気まずそうに目線を逸らしたのだ。 「今、頼人さんも風紀委員の皆さんも困っています。その理由を親衛隊である先輩方は知っているはず。なぜ副会長様にお仕事をされるよう呼びかけないで、こんな手段を……キャッ!」 「信濃さん!」  三つ子のひとりが彼女の肩を思いきり手で押したのだ。  信濃さんは床に転げ、身体をぶつけた。 「弱小能力者の分際で生意気なんだよ! 荊棘切みたいな貧乏人や庶民である風紀に、ぼくたちや副会長様の気持ちなんて……」 「てめえ、女の子に、なんつーことしてんだよ!」と伊那は立ち上がり、信濃さんを押した男の胸ぐらを掴んだ。  ルークが「大丈夫?」と倒れている信濃さんの手を取り、怪我をしてないか確認する。 「汚い手で、ぼくに触るな……!」 「うわっ!」  先輩が叫んだと同時に白い地面から水が勢いよく飛び出し、伊那の手の甲と頬がすぱっと切れ、血が吹き出した。 「行け、シャーク! あいつらに噛みつけ……!」  大型のサメが空中に出現し、猛スピードで僕らに向かってきた。 「なんもしてねえ女を突き飛ばすは、こっちに先制攻撃してくるはで、やりたい放題と来た。つまり暴れていいってことだよな?」  手にナックルをつけ、拳を突き合わせた伊那が鬼神のような顔つきをして立ち上がる。 「加勢するよー、伊那」と虚空から金属バットを出現させ、手に持ったルークが獲物を見つけた猛獣のように舌なめずりした。 「ああ、もう……なんで、毎度、こうなるかな!?」  小型パソコンを取り出し、慣れた手つきでキーボードを太郎ちゃんが僕と信濃さんの周りに簡易バリアを張る。 「伊那、ルーク。相手は、あくまで一般人だよ! 手加減してね」 「うっせえ、彩都! 気が済むまで、やらせろってんだ、よ……!」  そうして伊那はジャンプしてサメの額を拳でノックアウトした。  地面に落ちたサメは、そのまま光の粒子となって消えていった。 「クソ……」 「これでも食らえ!」  残りのふたりは、人差し指を向けて弾丸のような水鉄砲を発射したり、水で作った槍を投げてきた。 「はいはい、お返しするから。みんなも怪我しないように自衛してねー!」  ヘラヘラ笑うルークの言葉に食事をしていた生徒たちや食堂の調理人たちは、ようやく危険を察知したのか悲鳴をあげて食堂を出ていったり、守護者(ガードマン)や盾、バリアの超能力者のもとへ逃げていく。 「バッター、いっきまーす。そーれ!」  そうしてルークがバットを振って、攻撃を三つ子のもとへ跳ね返し、僕らのところへ飛んでくる残りを伊那がナックルをつけた拳や強化した足で弾いた。  三つ子のひとりが水の壁を作り、「アジの大群!」と銀色に光る無数の魚を出現した。 「いっちょ上がりか?」 「だね。これじゃ腹ごなしにもならないや」  つまらなそうにしていると、ビュッと何かが豪速で飛んでいき、ふたりの手足に巻きついたのだ。 「すっげえ、大ダコだ! 生で見るの初めてだぜ」 「これなら、たこ焼き何人前できるかな?」 「ふたりとも能天気なこと言ってないで。うわっ……!」  タコの手が簡易バリアを叩き割る。  間一髪のところで太郎ちゃんが後ろへ退き、僕は信濃さんをお姫様抱っこして飛びのいた。  大ダコは伊那とルークをブンブン振り回した。  防御力の強化を全身に掛けた伊那とルークは無傷でも、テーブルや椅子がぐちゃぐちゃに散乱し、食堂のドアや飾り、看板、窓ガラスが次々に壊れていく。 「すみません、桐生さん。足手まといになってしまって」と控えめに謝る信濃さんを下ろす。 「いいえ、お気になさらず。むしろ巻き込んでしまって申し訳ありません」 「ちょっとまずいよ、彩都くん」  焦った表情の太郎ちゃん口早に言う。 「あの聖獣、暴走してる。早く止めないと、ほかの人たちが危ない!」 「そんな……伊那、ルーク。どうにかできない!?」  僕が大声で叫ぶと地面にめり込んでいる伊那が叫ぶ。 「無理だ、彩都。こいつ、肉体強化で、おれらを捕まえてるんじゃねえ。拘束の術を使ってる!」 「お手上げだよ。彩ちゃん、なんとかしてー?」  髪にガラス片がくっついたルークに助けを求められる。 「ざまあないね、桐生彩都。副会長様のお気持ちを無下にするから痛い目にあうんだよ」  ふたりがタコの聖獣におもちゃにされているのを眺めていた三つ子のひとりが嘲笑う。 「おまえの能力が戦闘向きじゃないのはリサーチ済み」 「付き人がなぶられるのを指をくわえて見るがいい!」

ともだちにシェアしよう!