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Act1.帝光学園 手の内を明かす1《Side 荊棘切頼人》

「――では、おまえも守家、友禅、信濃と同じ意見なんだな。佐藤」 「はい」  佐藤は丸い頭を軽く動かし、うなずいた。眉上の黒い前髪が揺れる。 「副会長の親衛隊が桐生にいちゃもんをつけ、朝食をとっている人間たちや職員、桐生のことを考えろと意見を口にした信濃を三つ子のひとりが突き飛ばし、レディファーストをモットーとする守家がキレて胸ぐらを掴んだところで水の超能力を使用し、私闘が開始された」 「その通りです」 「なるほどな。忙しいところ時間を割いていただき、ありがとう」 「いえ、ぼくは大丈夫です。むしろ、今、一番時間を一分一秒も無駄にしたくないのは生徒会補佐の荊棘切さんのほうではないかと思います」と佐藤は副会長、書記、広報、庶務の書類が積まれて汚くなった机を眺めた。 「まあ、そうだな。見てわかる通り、とんでもなく仕事が溜まり放題だ」  外部の人間に「生徒会室は、こんなにも汚いのか」とか「仕事をしてないのだな」と思われるのは不服極まりない。  だが、どいつもこいつも生徒会補佐である俺の「仕事をしてください」という連絡を、とことん無視しているのだ。  一卵性双生児の双子に至っては同学年だからか、端からバカにした態度をとってきて不愉快極まりない。 「そんなに仕事が大好きなら、ボクらの部分もやっておいてよ。優秀な生徒会補佐くん」 「学生の本文は遊ぶこと。貧乏人は金、金、仕事、仕事って大変だねぇ。青春を楽しめなくて、かわいそう」  あいつらに面と向かって言われた言葉を思い出しただけで口元が勝手に上へ引きつる。  例外なのは会長と会計である、あのふたりだけ――……。  その不知火会長や土井会計すら、ほかの仕事があるからと生徒会の仕事を休んでいる(会長と会計の机に置かれている資料が、ほかの四人のものだと気づいた瞬間、意識が遠のいた)。 「心遣いに感謝する。聞き取りは、これで終了だ」  時計端末のボタンをタップし、ボイスレコーダーを切る。そのままパソコンに向かい、佐藤から訊いた話の内容を要約し、自身の見解を客観的に書く。  メガネを外し、息をついた。残りは桐生の聞き取りのみだと安堵していると、急にこめかみの辺りに激痛が走る。  昼寝をできていない状態で超能力を使ったからか?   しかしスマホの特性アプリを起動しても表示されているパーセンテージは五十。まだ余裕で動ける範囲だ。 「佐藤」  カフェオレを飲みながらスマホをいじっている彼に話しかける。 「なんでしょう?」 「上杉と親しげな様子だったが、どんな関係だ?」  すると佐藤はスマホを上着のポケットに入れ、紙コップを手にしたまま立ち上がった。 「以前、ぼくも彼と同じCクラスだったんです。上杉と佐藤で席が近くて少し話したりしました」 「だが今は桐生と同じAクラスだよな」 「べつにいじめがあったとか、違法な手段を取ったわけではありませんよ」  だったら、なぜ? と疑問に思う。  佐藤は紙コップをゴミ箱の中に捨てた。 「桐生の転校に合わせてクラス替えを行ったのか」 「そうです。どうして、ぼくがAクラスに行ったのか、その原因が彩都くんにあるのかは、ご自分でお調べください。金剛の苗字を捨て、荊棘切としてゴエティアの配下となった人間やアンドロイド、ロボットたちを相手にしているあなたなら、たどり着けるでしょう」  荊棘切家の裏の姿を知っている人間は限られているのに、平凡かつ人畜無害そうな見た目をした男が、重要機密を知っている!?  即座に俺は虚空から黒い拳銃――朝、食堂で使用した聖獣、魔獣専用のものではなく、戦闘用に使っている人間も殺すことができる、鉛玉が入ったものを手にし、銃口を彼に向けた。  特に驚きもしないで佐藤はスマホをいじり続ける。  手を鳴らしてもいないのにカーテンがひとりでに閉まり、部屋の電気が勝手に消える。  鳥目の人間であれば隙ができる。  しかし身体のほとんどがサイボーグと化している俺に、そんなのは関係ない。  銃を構えたまま慎重に動き、佐藤へ近づく。  佐藤は俺が何か言う前にスマホを床に置き、自ら膝をついた。抵抗する様子もなく素直に両手を頭の辺りまで上げている。 「おまえ、何者だ?」 「ゴエティアを信奉している連中の敵と言えば、伝わりますか?」 「――国に雇われているホワイトハッカーか?」 「正解です」と佐藤は自信に満ちた笑みを浮かべる。「といっても、もともとは親の関係で、やつらの側にいた人間ですけど」 「なぜ俺に、そんな重要なことを伝える?」 「上から、『あなたの力を借ろ』と、お達しがあったからと言ったら信じてくれます?」 「ゴエティア側のハッカーをやっていた人間の言葉を信じられるわけがないだろ」と一蹴する。  このままスクールポリスに突き出すか、それとも荊棘切の権限で拘束し、ウィリアムと蘭に管理を頼もうかと考えを巡らせる。  肩をすくませて佐藤が口をへの字にした。 「荊棘切さんは、迅速に伊那とルークを助けてくださった恩人です。せっかく、あなたが拳銃を取り出している姿をほかの人間に見られないよう、カーテンを引いたり、電気を消したり、監視カメラの映像も談笑している僕らの姿に差し替えたのに信じてもらえないなんて残念です」

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