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Act1.帝光学園 手の内を明かす2

 突然、カーテンが閉まり、電気が消えたのも、こいつだったのかと佐藤を睨む。 「俺のところから逃げ出すためにやったのだろう?」 「そんな手間ひまをかけたりしませんよ。あなたを煽りながら、音つきでぼくらのやりとりを全国に生放送しちゃいます」  こいつの言ってることが本当かどうかわからないと怪しんでいれば、扉を控えめにノックする音が聞こえた。 「荊棘切さん、桐生です」  桐生の声だ。佐藤を心配して、ここまでやってきたのだろうか? 「すまないが少し待っていてくれないか。まだ佐藤との話が終わってないんだ」 「わかりました。では扉の前で待っています」  女のように高いボーイアルト。  本人が扉の向こうにいて発しているものか、それとも佐藤が作り出したまがい物か判断できず、俺は佐藤に目で問いかける。 「ったく遅いな、太郎のやつ。何してんだ?」 「あそこにいた生徒たちや教員、事務の食事代について交渉してるんじゃなーい」  能天気に話す守家と友禅の声もする。  すると佐藤は目を丸くして首を横に振った。 「そんなことしませんってば! あなたがどんな仕事を裏でしているのかバラして追いつめたいのなら、こんなに回りくどいことはしませんよ。あなたを攻撃して倒したいのなら、今頃伊那とルークに襲ってもらっています」 「そうして油断した瞬間に、ドカン! じゃないだろうな」  床に置かれたスマホが光を発して爆発したり、パソコンから火花が散ったり、俺の身につけている携帯端末が気づかないうちに時限爆弾にすり替えられているんじゃないかと訝しんでいると佐藤が顔を歪ませる。 「ほぼ全身サイボーグで、ちょっとやそっとじゃ死なない人造人間のあんたと、ひ弱な超能力しか持ってない一般市民を一緒にしないでください! この部屋一帯吹き飛ばしたりしたら、ぼくが死んじゃうじゃないですか!?」 「……それもそうか」  この男の言葉をすべて信じたわけではないが、特攻や鉄砲玉のような真似をやるタマにも見えない。  ハッカーは前線で戦うことをなるべく避け、他人のサポートをしたり、裏で暗躍をするのを好む傾向がある。  佐藤が俺の敵であるゴエティアのハッカーだろうと、国家の安全を守るホワイトハッカーだろうと、その手の人間であることに変わりない。  拳銃でスマホを拾うよう指示し、立ち上がらせる。 「少しは信じていただけました?」 「多少はな」 「なら結構です。このまま撃ち殺されて成果なしになるよりはマシです。希望が持てます」  口角を上げた佐藤がスマホの画面をタップするとパッと明かりがつき、出入り口の扉のほうへ歩いていった。 「おそらく今夜中に、あなたのボスが直接あなたに会って、ぼくたちと手を組むように話を持ちかけるでしょう」 「そうか、それは楽しみだ」 「ですね。では、失礼します」  無防備にも佐藤は拳銃を手している俺に背中を向けたのだ。ドアノブに手を掛けたやつは、こちらに目線をやった。 「後、その頭痛、バッテリーの減少が原因じゃないですよ」 「何?」 「あなたの身体を構成している機械はウイルスにたかられていないし、不具合や故障も発生してない。問題があるのは、あなたのサイボーグ化されていない脳か血管、それか神経のほうだと思います。それか金属でできていない頭蓋骨のほう。詳しくは、あなたの主治医に聞いてください。機械の整備は基本しかできませんし、医師や看護師のように人体について詳しくないので」  今さっき生徒会室の電気機器にハッキングをしたようなやつだ。俺の身体の制御システムにも、すでに佐藤の手によってウイルスを入れられた可能性もある。  だが……「一応、礼を言う」 「とりあえず頭痛薬で様子見して安静にするのがいいと思いますよ」 「ああ、そうする。では桐生を呼んできてもらえるか?」 「もちろんです。この件も、彩都くんが、あなたに護衛を頼みたいと言ったのが始まりですから」 「……そうか」  拳銃を四次元空間へ返し、指を組んでソファの背もたれへと背中を預けた。  扉を開けた佐藤が明るい声で「お待たせ、彩都くん」と話しかけている。  そうして入れ違いに桐生が生徒会室へやってきた。 「失礼します」と彼は小声で言い、俺が話しかけるのをどこか落ち着かない様子で待っている。 「待たせたな。呼び出したりして、すまない」 「いえ! 僕、部活もしていませんし、帰ったら後は勉強するくらいしかやることもないので……それにしても、すごいですね。生徒会室って、こんなに広いんだ」  物珍しそうに室内を眺め見ている彼に「こちらのソファへ掛けてくれ」と手招く。 「はっ、はい!」  上ずった声で返事をし、頬を赤く染めた彼は、手と足を同時に出して歩く。まるで大昔のロボットみたいな動きだ。 「何も会長たちとのことを咎めたり、しかりつけるわけではないんだから、そんなに緊張しないでくれ」 「すっ、すみません」と彼は顔色をさあっと青くして身を縮こまらせた。その姿は、危害を加えられるのではないかとおびえる小動物のよう。

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