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第1話 憂鬱な卒業試験

「ああ〜行きたくねぇな~……」 魔術学校の卒業試験に出発するその日。オレはそれはもう、めちゃくちゃに落ち込んでいた。 なぜなら卒業試験は制限時間72時間の中でどれだけ強い魔物を討伐できるかで審査される上、二人ひと組のチーム戦だからだ。 チーム分けがどうなされているのかはトップシークレットで分からない。 でもオレは、この魔法学校でも知らない人なんかいないだろうってくらい、超有名な万年最下位だ。 マジで入学してから一度たりとも浮上したことがない、ダントツ最下位を取り続けてきたオレと組むなんて誰だってイヤだろう。 あーマジで行きたくない。このまま回れ右して帰ってしまいたい。 でもなぁ。卒業試験をクリアしないとここまで歯を食いしばって堪えてきたことが全て無駄になっちゃうし。 高望みなんてしなくていい。いつもよりもちょっと森の深いところまで分け入って、中型の魔物をなんとか仕留めれば試験はクリアできるんだ。まずはクリアを目指そう。皆だってそう言ってたもんな。 うん、大丈夫だきっと。 なんとか自分を奮い立たせて、オレは学校へと向かう。 なのに、校内の掲示板がある広場に足を踏み入れた途端にチラチラと視線を受けて、オレはまたもやずーんと気分が沈むのを感じていた。 なんか、オレを見ながらひそひそしてるよな? 漏れ聞こえてくる「パートナー」とか「うわぁ」とかいう声に、オレとパートナーになりたくないとかそういう話かな、と悲しくなる。 いや、さすがに被害妄想だよな。 すっかりナーバスになってる自分に苦笑した時、突然誰かにバン! と肩を叩かれた。 「ようイール、しけたツラしてんなぁ!」 「ルタム! 痛てーよ。ちょっとは加減しろって」 そう言いながらも、底抜けに明るいルタムの笑顔にホッとする。 ルタムはオレなんかにも気さくに声をかけてきてくれる気のいいヤツだ。ルタムみたいなヤツがパートナーならオレもちょっとは気が楽なのに。 「そのツラってことは、もしかしてもうパートナー見た?」 「へ?」 「あ、見てねーのか」 オレの反応を見たルタムが面白そうに笑う。 「え? 誰?」 「お前、大当たりだよ。お前のパートナーさ」 そこで言葉を切って、ルタムはニヤニヤしつつ焦らしてくる。なんだよ大当たりって。パートナーに当たりとかあるのかよ。 いや、あるか。オレだったら大ハズレだもんな。自分で言ってて悲しい。 「焦らすなよ」 「知りたい?」 「当たり前だろ。大当たりって、誰?」 「なんとあの魔法騎士様だよ!」 「はぁ!?」 思わずでかい声が出た。 「いやぁさすがに予想外、お前サイコーだわ! 今回一番注目のペアなんじゃねぇの?」 え? 待って、頭が追いつかない。いまルタム、魔法騎士様って言った? 大陸随一の実績を誇るこの王立魔法学校において、入学と同時に他を大きく引き離し常に学年トップの成績をおさめていると噂の。 鍛えられたでかくてかっこいい体躯で顔もイケメンっていう男の敵な。 完全無欠で無敵と名高い。 なんかもうとにかくすごい、あの、完璧で最強な、魔法騎士様!? 「魔法騎士様って、もしかして……あの?」 「あの、魔法騎士様だよ。アクセラード・ラットファム。ラットファム伯爵家の次男だってな。何から何まで完璧だよな」 「待って、その最強魔法騎士様が、オレのパートナーなわけ?」 「そう! 先生方も面白いこと考えるよなぁ」 あははははは! とルタムが楽しげに笑う。心底面白がってるみたいだから、きっと冗談ってワケでもなさそうで。 「いやでもあの人マジですげぇから、もしかしたらイールがなんもしなくてもすげぇ魔物狩ってくれるかもよ?」 「それは……そうかも知れないけど」 「ラッキーじゃん。先生方の温情かもよ? ま、皆には嫉妬されるかも知れねーけどな!」 「いや、どう考えたってオレ、お荷物じゃん……怖すぎるっしょ……」 そりゃオレの場合、誰とパートナーになったって足を引っ張る可能性は高いけど、低レベルどうしだったらなんとか助け合えたりもすると思うんだよ。オレだって結構低レベルの魔物討伐はこなしてるし。 でも、あんな超人がパートナーだなんて、レベルが違いすぎて役に立てる気がしない。絶対ヤダ。絶対ヤダ……!!! 想像しただけで震えて言葉をなくすオレの耳に、珍しくうわずったルタムの声が聞こえてきた。 「ま、魔法騎……ラットファム様!」 え……まさか。 恐る恐る目を上げると、真っ青な空とギラギラな太陽を背に、最強魔法騎士様、その人がオレを見下ろしていた。 え、怖。 オレとは真逆の万年首席なんだから魔術の腕が一級品なのは間違いない。でも、近くで見るこの人は、本当に鍛えられた騎士みたいだ。 190cm近い長身に、軽鎧。筋肉隆々で腕も太いし胸板も厚い。魔術師とはとても思えない立派な体躯からは、威圧感がビンビンに漂っていた。 しかも表情も怖い。 狼のような鋭い視線と仏頂面。赤い髪ですら逆立って見える。 絶対にこれ、怒ってるじゃん……!!! 「……君が、イール・バイダルか?」 低い落ち着いた声がオレの耳に響いた。

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