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第2話 最強魔法騎士様はマナーすら完璧
威圧感が凄すぎて、頷く事しかできなかった。
だってあの仏頂面。射抜かれるような瞳。万年最下位のオレとペアだなんて、絶対怒ってるに決まってる。
でも、最強魔法騎士様はマナーすら完璧だった。
「そうか。今回の演習では、君が俺のパートナーらしい。よろしく頼む」
すっと差し出された手に、思わずこっちも手を伸ばす。そしたら固く握手された。
「これから演習の説明があるようだ。前へ行こう」
「あ、ああ」
促されて、俺はついて行きかけてちょっとだけ後ろを振り返った。ルタムがグッと力こぶを作って見送ってくれる。
「頑張れよ!」
その応援に頷いてから、オレは最強魔法騎士様の広い背中を追う。
そうだよな、もう決まっちまったもんは変えられない。最強魔法騎士様だってオレなんかイヤだろうにああして友好的に振る舞ってくれてるんだ。オレだって気持ちを切り替えて少しでも役に立てるように頑張ろう。そう思えた。
ところがだ。現実ってのは残酷なもんだ。
長い長い演習におけるルールだの注意事項だのありがたい校長のお話だのを散々聞かされてやっと演習に出られると思ったら、自由行動になった途端、オレと最強魔法騎士様はなぜか数人に囲まれていた。
「アクセラード、面白いヤツと組むことになったようだな」
「ハンデなんじゃね?」
「大変だねぇ、万年最下位の役立たずと組むなんて」
うわー酷い言われよう。でも事実だから何も言えない。苦笑してたら、最強魔法騎士様がずいっとオレの前に出た。
「俺はパートナーに文句はない。失礼な物言いはやめてくれ」
オレらを囲んでたヤツらもびっくりした顔をしてたけど、オレだってびっくりした。
最強魔法騎士様、イケメン……!!! なんていい人なんだ!
「つ、強がりやがって! そいつに何ができるってんだ!」
最初に声をかけてきた金髪碧眼の態度デカいヤツがくってかかってくる。多分コイツがリーダーなのかな。
割と低めな身長を精一杯大きく見せようとしながら最強魔法騎士様にキャンキャン吠えかかってるのがちょっと可愛い気もする。
「ライエン、いいじゃないか。僕たちは実力者同士で組めてるんだ。こいつらなんか気にするほどでもないだろ」
「ですよねぇ、テラード教諭に進言したかいがありましたね、ライエン様」
「進言……?」
最強魔法騎士様が片眉を上げた。オレも気になったよ、そこ……!
すると、さっきライエン様と呼ばれたヤツが得意げに胸をはった。
「そうさ、僕がテラード教諭に進言したんだ。君達ふたり、ちょうどいいだろう? 万年トップと万年最下位で、バランスがとれる」
うわぁ。それって簡単に言うと、身分をかさにきてこの卒業試験のチーム分けに細工したってことだろう? 『様』というからには貴族かなんかかも知れないけど、紳士としての矜持なんて持ち合わせてない、身分を悪用するタイプってことね。
つまり、イヤなヤツだ。
「何の騒ぎかな?」
結論づけたところに急に後ろから声がかかって、ちょっとビクッとした。
「テラード教諭!」
ライエン様とやらが弾んだ声を出す。
なるほどね、テラード教諭とこのライエン様は、融通をきかせようと思うくらいには仲良しなわけだ。それも納得。
テラード教諭といえば依怙贔屓が激しいで有名な人だし。
貴族や自分が属する派閥に連なる生徒にはとことん甘く様々な便宜をはかるくせに、気に入らない生徒には常にイヤミな態度で厳しい採点と過酷な課題を課すという、ホントにハッキリキッパリしたイヤなヤツだ。
イヤなヤツで貴族のライエン様と仲が良いのは必然なんだろう。
もちろん万年最下位のオレはテラード教諭にめちゃくちゃ睨まれてるから、いつなんどき理不尽なことをされても不思議はない。
振り返ったら、テラード教諭がニヤニヤとイヤな笑いを浮かべながらオレを舐めるように見ていた。獲物をいたぶるようなその視線に、『やっぱ嫌がらせなのか』と思い知る。
しかもなぜかテラード教諭は最強魔法騎士様にまでイヤな目をむけていて、オレはあれ? と思った。
だって最強魔法騎士様って、オレと真逆で万年トップでしかも伯爵家の人なわけだし、お気に入り枠に入ってるのが当然って気がするけど。
「どうだね、今回の組み分けは気に入って貰えたかね?」
モノクルのむこうの細い目がスウッと弧を描いて、テラード教諭がしてやったりと思っているのが手に取るように分かった。本当にイヤなヤツだ。
「イール・バイダル君。君にとってはラッキーだっただろう? 彼と一緒なら君が何もしなくても卒業できる程度の魔物は討伐できるだろうからな」
くっ……そうかも、知れないけど!
「君も知っての通り、このアクセラード・ラットファム君はこの一年、ずば抜けた成績を上げ続けてきた。きっと君というお荷物がいようとも、この演習も難なくこなすだろうからなぁ、、チームのバランスを取るためにもこの組み合わせにしてみたのだよ」
ははは、とわざとらしく笑ってからテラード教諭はオレの顔を覗き込み、急に表情を変えてギロリと睨んで小さな声で凄んできた。
「学長自らスカウトしてきた貴様が、卒業すらできないようでは赤っ恥だからな。せいぜい感謝するといい」
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