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第15話 いちいちやることがワイルドすぎる
【本文】
「夕食までに邸に帰らねばならなかったから、ゆっくりする概念がなかったな。それに結界があるとはいえ、強力な魔物が跋扈する場所だとなんとなく落ち着かないだろう。むしろイールは肝が据わっていると思う」
「ええ!? いや、オレは今まで採取とかが多かったから、そんなに危険な魔物に遭遇しない時のほうが多かったし……今だって、アクセル様が結界張ってくれてるから安心してるだけで、肝が据わってるってのとは違う気がするけど」
「そうか? まぁとにかく、今イスが一脚必要な事は理解した。ちょっと待っていてくれ」
そう言ったアクセル様は一瞬でオレの前から姿を消した。
早すぎて転移かと思ったけど、単にダッシュで結界から出てったらしい。相変わらずとんでもない。
ってびっくりしてる間に、今度はでっかい木と一緒に帰ってきた。
「なんで大木ひきずってきてるの!!!???」
アホみたいにツッコむことしかできない。いちいちやることがワイルドすぎるんだってば!!!
「他にも必要になるかも知れないと思って。何度も採りに行くのは面倒だ」
「あ、そう……」
だからって、自分の体の太さの二倍くらいぶっとい木を切ってくることないじゃん……。
「これならイスを切り出すのも簡単だ」
「そうですね……」
なんて話をしている間にアクセル様はサクッと幹を切って、単なる丸太をどしっとテーブルの前に置いて座ってみる。
あ、それなりに座り心地良かったのかな? 嬉しそうな顔してるし。
もうこの人が凄いのか凄くないのか、よくわからなくなってきた。ただ、とんでもない人だってことだけはわかる。オレは再び、考えるのを放棄した。
「ま、いいか。冷えちゃうし、食べよう?」
「そうだな! 楽しみだ」
ぶった斬った丸太に座ってるくせに綺麗な所作で食前の祈りを捧げ、オレから渡されたナイフとフォークを手にする。
不思議そうな顔でオレを見るのはやめろ。
アクセル様が持ってきてないからナイフとフォークを譲ってやったんだ。オレはスプーン一本で問題ないし。
「悪いけど、食事に合うナイフとフォークが欲しいとか言われてももう持ってないからな」
ガツガツとかきこみながら、思わずぶっきらぼうに言ってしまった。そもそも丸焼きの肉をナイフで削って食ってたヤツに色々言われたくはない。
「いや、器用だなと思って……」
「火で炙ってる肉をナイフで削って食う方が器用だろ」
「そうだろうか」
そんなアホな会話をしつつ、キノコの肉巻きを口に入れたアクセル様は、大げさに目を見開いた。
「味がついている……!」
ブハッ! と噴きそうになった。
「あ、当たり前だろ! さっき一緒に味付けしたじゃん!!!」
「あ、いや、口に入れたら思いのほか驚くほど美味くて。イールは天才だな」
「普通です……」
もはやツッコむ気にもなれない。塩胡椒すらせずに単に炙り焼いた肉と比べられてもな……とは思うものの、いちいち美味そうな顔で食べてくれるとやっぱり嬉しい。
綺麗な所作なのにオレの倍くらいの速さで食べてるアクセル様に、ついつい鍋のおかわりまでついでやるはめになった。
食後のコーヒーを淹れてやって、まったりふたりで焚き火を眺めている時だ。
ふと思い出したみたいに、アクセル様がぽつりと言った。
「そういえばさっき、イールは魔法石を使っていると言っていたな」
「うん。まだ三つしか持ってないけどね」
「見せてもらってもいいだろうか」
「いいけど」
「……なんの魔法が入ってるんだ?」
「グレーの石には『防護』、赤い石には『ファイア』、青い石には『ウォーター』だよ。魔物が出たらこいつで戦うんだ。これなら絶対に魔法が発動するからさ。オレの宝物だよ」
「そうか」
テーブルの上に並べながら説明してやったら、なんか子供を見るような微笑ましい顔で見られたんだけど、なんで?
しかもアクセル様は石をマジマジと見つめてからこう言った。
「しかし初期魔法だと威力が弱いから、低級魔物が相手でも何度も魔法を放つ必要があるんじゃないか? 君は魔力が豊富なんだから、もっと高度な魔法を込めておけば強力な魔法が放てそうなものだが」
その言い草にむかっときた。
これだからおぼっちゃまは!
「オレは初期魔法しか使えないんだからしょうがねぇだろ。中級魔法なんて石に込めて貰うのにいくらかかると思ってんだ」
言ってから気がついた。オレはいくつもいくつも小さなクエストをこなしてお金を貯めて、やっとの思いで魔法石やマジックバッグを買ったけど、きっとアクセル様なら思い立ったその日で手に入る。
そもそも貴族だから金なんて腐るほどあるだろうし。
あれだけすげぇ魔物をホイホイ狩ることができるなら、マジックバッグや魔石なんて高品質なヤツを買い放題。
しかも中級どころか上級、超級魔法まで使えるんだから、魔法屋に頼まなくても自分で魔法石に魔法を込めればいいんだもんな。
「石に魔法を込めるのに、金がかかるのか……」
とか呟いてる人外には、オレの苦労なんてわかる筈もない。なんかムカつくし悔しいし情けないし。鼻の奥がツンと痛くなったけど、オレは気づかないふりをした。
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