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第22話 嬉しい言葉
顔だけでも見上げるほどにデカい。
乱杭歯も、一枚で手のひらサイズあるウロコも、巨大なツノもヒレっぽい何かも、全てがとんでもなく巨大で恐ろしい魔物だった。
「よ、良かった……これって、結界?」
「ああ、とっさにできるのは結界くらいだった」
「良かったよ……アクセル様、すごい!」
マジでこんなのがそのまま海に落ちたら、街を覆うほどの巨大な波だったに違いない。だって現に、結界のデカさは太陽を見上げるほどなのに、そのてっぺんまで水で覆われたんだから。
「いや、イールがああ言ってくれなかったら結界を張るなんて思いつかなかった。俺がシーサーペントを倒したせいで森や街に甚大な被害を出したかもしれない」
さすがにアクセル様も顔を青くしている。
「とりあえず無事で良かった! ていうかアクセル様すごいな、まさかほんとにシーサーペント倒しちゃうなんてさ、マジで信じられないんだけど」
「イールのおかげだ。好きなだけ魔法を使えると、あんな高位の魔物とも渡り合えるんだな」
オレなんかに爽やかな笑顔を向けてくれるアクセル様に、苦笑するしかない。
「あれもこれもオレのおかげだなんて言うけど、どう考えてもアクセル様の実力だからね」
「イールは謙虚だな」
どう考えても謙虚なのはアクセル様の方だろう、と苦笑を深くしていたら、後ろから遠慮がちな声がかかった。
「アクセル……だよな?」
振り返ったら、目をまんまるにしたヒューさんと気まずそうなライエン様がいた。
「ヒュー」
「すごいな、お前……」
ヒューさんがオレたち越しにシーサーペントを見ている。そりゃあびっくりするだろうなぁ。
「見ていたのか」
「あんなえげつない魔法連発するなんて、いったい全体どうやったんだ? 魔力回復薬だってあそこまで何度も補充はできないだろ」
「どうせ卑怯な手を使ったんだろう。貴様……! 不正をしてただで済むと思うなよ」
ギラギラした嫌な目でアクセル様を睨み付けてくるライエン様。けれどアクセル様は動じた様子もない。むしろ呆れた顔でため息をついた。
「見ていたなら不正などしていない事は分かるだろうに。俺が魔法をあれだけ連発できたのはイールのおかげだ。彼が豊富な魔力を補充し続けてくれたから、あんな荒技で倒すことができた」
「魔力の補充!? そんな事ができるのか」
「ああ、俺も驚いたが……どうやら魔力の相性がとんでもなく良かったらしい。イールとペアで本当に良かったよ。チームワークの勝利というヤツだな」
アクセル様の言葉に、オレはびっくりして弾かれるように顔を上げた。
だって……だって、嬉しすぎる。
今、オレとペアで本当に良かった、ってそう言ってくれたよね?
オレを気遣って言ってくれてただけかもって思ってたのに……他の人にまでオレの事をそんな風に言ってくれたのが信じられなくて、オレはポカンと口を開けたままアクセル様を見つめる。
アクセル様は嬉しそうに微笑んでくれた。
「マジかよ、無敵じゃねぇか。そりゃシーサーペントも倒せる筈だわ」
ヒューさんが呆れたように笑って、アクセル様の肩をどつく。仲が良さそうで何よりだ。二人のやりとりをほのぼのした気持ちで見ていたら、ヒューさんの後ろからなんだか不穏な空気が立ち上っているのに気がついてぎょっとする。
「……認めない」
まるで雨の前の黒雲みたいにジトッとした空気を纏ったライエン様が、俯いたまま呪うような声で呟いていた。
「認めない! 認めない! 認めない!」
悪鬼のような顔で呟いてるのめちゃくちゃ怖いんですけど。
「まぁ、別にお前に認めて貰おうとも思っていないが」
アクセル様がしれっとそんな事を言うから、オレはさらにぎょっとした。ただでさえライエン様はヤバい顔をしてるのに、火に油を注ぐような事を言わなくてもいいんじゃないかな。
案の定、ライエン様がギッ!!! とアクセル様を睨み付けた。
「なんでお前ばっかり! まさかそんなお荷物が役に立つだなんて……ずるい……!!!」
さすがにカチンときた。
そういえばコイツ、落ちこぼれのオレをアクセル様のパートナーにするように教授に進言したって言ってたっけ。変な小細工するからだろ。
ま、オレはそのおかげでアクセル様と親しくなれてラッキーだったけど。
「そうか、そういえばライエンがイールをオレのパートナーに推薦してくれたんだったな。それだけは感謝している。ありがとう、おかげで得がたいパートナーを得ることができた」
「むきーーーーーっっっ!!!! 腹立つ! 腹立つ! 腹立つ!」
ライエン様が髪を振り乱しながら地団駄を踏んでいる。
うわぁ、素でむきーって言う人初めて見た。
「貴様!!! シーサーペントみたいな大物を打ち倒して、鳴り物入りで王宮魔術師になろうと思っているのだろうが、王宮魔術師は貴様なんて足下にも及ばない偉大な魔術師ばかりなんだ。貴様の鼻っ柱なんてすぐにたたき折ってやるからな!!!」
自分がその偉大な魔術師ってわけでもないくせに、涙目でそんな事言われてもなぁ。
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