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第23話 反吐が出る

アクセル様も困るだろうに、と思って見上げたらアクセル様はめちゃくちゃスンとした顔をしていた。 「いや、俺は王宮魔術師にはならないし、お前が言うような『偉大な魔術師』がおいでになるようなところには入らないから、お前や周囲にどう思われようと特になんの問題もないな」 「は?」 アクセル様の言葉が予想外すぎたのか、ライエン様がポカンとした顔をする。 「な……何を言っているんだ。王宮魔術師はこの国で最も優れた魔術師集団だぞ? そこを目指さないなんて、バカにも程があるだろう」 「目障りだと思われているのは分かっている。俺が王宮魔術師になったところで、何をやっても認められないと思う。奇しくも今、お前が証明したようにな」 「だからって……」 「まぁ、互いにわざわざ嫌な思いをすることもないだろう。別に王宮魔術師に憧れもないし、俺は別の職に就く」 アクセル様がそう言った瞬間。 「ふざけるな!!! どれだけの魔術師が王宮魔術師を目指して鍛錬していると思ってるんだ! 王宮魔術師に憧れがないだと? 実力をひけらかしているくせに……貴様のような輩は反吐が出る!」 ライエン様が声を荒げる。感情の爆発そのままに、叫ぶような声だった。 「うんまぁ、だろうな。だから、俺は俺の道を行く。お前達の前からはいなくなるんだ、もうそれでいいだろう?」 若干面倒くさそうに、アクセル様は笑う。オレは複雑な気持ちだった。 正直、ライエン様の気持ちもちょっとだけ分かる。きっとライエン様は、努力しても努力してもアクセル様に敵わなかったんだろう。なのに、実力はもっていながら自分が目指す高みなんて興味がない、と言われるのが悔しいんだ。 でも、オレはアクセル様の気持ちだって充分にわかるわけで。 こういうのって難しいよな。 「悪いが、素材の採集に入る。これだけのレア素材だ、鮮度が落ちるともったいないからな」 この話はこれで終わり、とでも言いたげにアクセル様がくるりと踵を返す。オレもつられて振り返ったら、見上げるほどデカいシーサーペントの頭が視界いっぱいに広がって、今更ながらにぎょっとする。 よくこんなの倒したなぁ。 つーか乱ぐい歯めちゃくちゃ怖いし、ダランと力なく垂れてる舌が余計に怖い。 「イール、ヒゲを採取してくれ。俺は硬そうな部位をやる」 「あ、ありがとう」 オレにそう優しく話しかけ、アクセル様はふと思い出したみたいに振り返る。 「お前達も大物を倒していただろう? 採取は終わったのか?」 「……!!」 ライエン様がまた眉を吊り上げる。逆にヒューさんは眉を下げて苦笑した。 「ああ、まだだ。確かに早く戻らないと鮮度が落ちるな。しかし参ったな……たしかに大物を倒したんだけどなぁ。シーサーペントを倒してるの見たらなんかちゃちに感じるの、不思議だな」 「バカ言うな。スカリーベアはB級の中でも上位の魔物だ。たった二人で倒したなんて、歴代の中でもかなり高い評価だろう」 「そうなんだけどな」 ヒューさんが言わんとすることも分かる。目の前でシーサーペント倒されちゃな……。 「まぁいいか。ライエン様、オレ達も採取に戻りましょ」 「……」 すっかり無口になったライエン様がヒューさんに連れられて去って行って、オレはようやく落ち着いた。 やっぱりあからさまにこっちを敵視してる、しかも上級貴族だって分かってる人がいるととんでもなく落ち着かないし。 アクセル様は慣れているのか何事もなかったのかのように黙々とシーサーペントの素材を採取をしてて、オレも深呼吸をしてから採取にとりかかった。 「すごいなぁ。鱗一枚でもすごいデカイし。ヒゲも切るだけで結構大変」 「硬いな。オレが切って、イールが採取した方が早いかもな」 「あ、その方が早いかも。纏めてマジックバッグに入れていくくらいならオレでもできる」 「流れ作業にすると解体が中断されなくていつもよりずっとスムーズにできる。ありがとう、イール」 巨大な魔物の解体にも慣れてるっぽいアクセル様に感謝されつつ、切り出されていく素材をせっせとマジックバッグに詰めていく。 ヒゲとかツノとかヒレとか、目玉とか、鱗とか、肉とか。 欠けたり傷をつけると価値が下がるし、高級すぎる素材だから扱いには気を遣う。けれど二度と触れないだろうレア素材を次々にアクセル様に渡されて、いちいち感動しながら仕分けて収納していく作業はなかなかに楽しい。 それからどれくらい採取を続けてたんだろう。昼飯を挟んでも全然終わらなくって、採取にも慣れてきたオレ達はどうでも良い雑談を交わしながら和気藹々と作業していた。 なにせ海から出ている顔だけでもとんでもなくデカイから、素材を採取するにも時間がかかる。 採れるだけ採って、もういいか、と顔を見合わせる頃にはとっくに夕日が沈みかけていた。 アクセル様ごしに見上げる夕焼けはめちゃくちゃ綺麗で、海に沈む夕日を中心に黄金が広がっていて、青から濃紺にグラデーションしていくのがなんか幻想的だ。 「うわぁ……」 思わず声が出ていた。

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