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第24話 一緒に居たい

「? ……ああ、夕焼けか」 オレがため息を漏らしたのに気がついたアクセル様が、振り返って夕焼けを一緒に眺めてくれた。 「……綺麗だな」 そう言って笑ってくれるアクセル様の額を濡らす汗も夕日を受けて光っていて、ただただ綺麗だった。 その光景がなんだか夢見てるみたいで。 そうだよな、この二日間ってなんか本当に夢みたいだった。 学年トップのアクセル様とパートナーになれたのも、何度も命の危険を感じたのも、転移でとんでもない距離を移動したのも、シーサーペントなんてすごい魔物を倒すのを間近で見る事ができたのも、こうしてアクセル様と一緒にのんびり夕焼けをみてるのも……それまでのオレからしたら想像もできないことばっかりで。 「まさか本当にシーサーペントを倒して、こんな風にゆっくりと夕日を見る事になるなんて思わなかったなぁ」 「俺も、まさか二日目でシーサーペントに出逢えて、倒してしまえるとはさすがに思わなかった。イールのおかげだな」 「アクセル様、そればっかりだな」 「事実だからな」 「ははは、ま、いっか。それでどうすんの? 目的のシーサーペントは倒したわけだし、もう帰る?」 早く帰る分には問題ない。充分な戦果があるわけだから帰ってもなんら問題はないわけだけど……帰ったらこのパートナー関係も終わりだ。正直にいうと寂しい。 うーん、と僅かに考える素振りを見せてから、アクセル様はオレの顔を窺うように覗き込む。 「まだあと一日以上あるから、もう一泊してから帰ってもいいだろうか。野営について、色々と教えてくれると嬉しい」 「うん、いいよ! オレももうちょっとアクセル様と話したいなって思ってた」 「そうか、良かった」 夕焼けを背景にしてホッとしたように笑ったアクセル様は、めちゃくちゃかっこよかった。 *** それから二人でしばらくぼおっと夕日を眺めて、キラキラしてた海が暗くなっていくのを見届けてからオレ達は手早く拠点を作った。 どうせ今夜ひと晩の拠点だ、そんなに手間暇かけるものでもない。 アクセル様が結界を張って、オレが焚き火の用意をして。 食事の用意はアクセル様を指導しながらふたりで仲良くやっていく。 聞けばアクセル様はこれまで本当に肉の丸焼きしか食ってなかったみたいで、オレは長期の遠征時に野菜や果物を摂取しないことによる弊害をこんこんと説明する羽目になった。 魔術のことなら呆れるほど何でも知ってるくせに、なんで生きてくための知識が子供レベルなんだよ。 持って行くといい乾物だとか食べられる野草も結構あるんだとかそんな話をすれば、いちいち感心したように頷いて、目をキラキラ輝かせる。 しかもあれやこれやと質問が止まらない。 一度興味を持つと探究心が凄いのか、オレの一挙手一投足が不思議でしょうがないらしい。 「なぜさっきと野菜の切り方が違うんだ?」 「こっちは煮る用でこっちは炒める用だから」 「なるほど。煮る用の方がでかく切るのか。……? この野菜は煮る用だろう? なぜ鍋に入れない?」 「薄い葉ものは煮えやすいから最後に入れるんだよ。根菜とか煮えにくいものから先に火を通すとか、美味しくつくるためのコツが色々あるんだ」 「すごいな……」 そんな話をしながら食事を作り、一緒にご飯を食べて昨日作った布団を並べ一緒に夜空を眺める。 ザザ……ン ザザ…………ン ゆったりとした波の音が聞こえて、目の前には満天の星が輝いている。 隣には最強なくせに生活能力はからっきし、でも優しくて頼もしいアクセル様がいる。 その時間はなんだかとてもおだやかで、落ち着ける時間だった。 「……イール、ありがとう」 突然、アクセル様が呟いた。 「何が?」 「君のおかげで胸を張って冒険者になれる」 「何言ってんの。アクセル様ならオレなんていなくても立派な冒険者になれたよ」 「そんな事は無い。昨日、今日と君とすごしてよく分かった。もしオレが冒険者になっていたとしても、討伐はできてもその他をおろそかにして早々に身体を壊していただろう」 「ああいうのはパーティー組んだ人が教えてくれるから、問題ないと思うよ」 そんな風に返してアクセル様の方に顔を向けたら、アクセル様はオレをまっすぐに見つめていた。 「その……イール、頼みがあるんだが」 「? なに? オレで出来る事ならもちろんいいけど」 「俺のパートナーになってくれないか? その……冒険者としての」 「へ?」 突然の申し出に驚いて、オレがぽかんとした顔をしたからだろう、アクセル様は焦った様子でオレの方にずいっと近づいた。 「一緒にいたのはたった二日だが、俺にとってイールはなくてはならない存在だと痛感した。イールにももちろん夢だとか目標があるだろうとは思うんだが、どうか前向きに考えてみてくれないだろうか」 「あ、いや、オレなんて雇ってくれるところがあるかって心配してたくらいで。冒険者になってもアクセル様みたいに稼げそうもないし……むしろ足を引っ張るんじゃないかと思うんだけど。アクセル様なら一緒に行きたいって人、いっぱいいるんじゃねえの?」

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